コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 樹海のエアガール【コメント募集中!】 ( No.32 )
- 日時: 2015/12/02 16:00
- 名前: シロマルJr. (ID: TM1He8zT)
エピローグ1. いつもと変わらぬ日常
9月7日 月曜日
ーーあれから何日経っただろうか?
気がつけば夏休みが終わっていた。私は今、いつもとほぼ変わらぬ一日を送ろうとしている。変わった事はそうだな・・・三つくらいあると思う。
一つ、あの奇妙なソラマメがいなくなった事。
あれ以降どこを探しても、やっぱり出でこなかった。いつも当たり前のようにワーキャー騒いでた奴が急にいなくなると、何だかひどく物寂しい気分になった。
二つ、勇樹の事。
具体的にどういう事かというと、
「・・・おはよ、姉さん」
「あ、勇樹。おはよう」
賢明な皆様なら理解したと思うけど、私達はこのように、ようやく姉弟らしい会話ができるようになったのだ。まあ、本当は姉弟として当たり前の事なんだろうけど。私達は、そんな当たり前の事が出来ていなかったのだ。
「今起きたんでしょ?寝癖ついてるよ。朝くらいちゃんと鏡見なって」
「うるさいなぁ。この間の姉さんよりはマシだよ」
「な・・!あんたあれ見てたの!?セット大変だったんだから!女子は忙しんだよ!!」
「そんなの知らないよ。僕は僕、姉さんは姉さんだし」
それが今はどうだろう。こうして会話できている。私達の間に立ちはだかる厚い壁が、一気に崩れ落ちたような感じだった。
会話が一通り終わると、勇樹は嬉しそうに学校にダッシュで向かった。このまま元気に過ごしてくれればいいんだけど。
夏休みが終わり、久々にクラスメートと再会した事もあり、教室はいつもの三倍ほどにぎやかだった。だが、不思議と嫌な気はしない。むしろ何か笑いがこみ上げてくる。
まあ、こんなにうるさい中でみんな色々大変なんだなー、的な雰囲気を抱いているのは一目瞭然だ。心が読めなくても丸分かりだ。
すると、視界の隅に凛花の姿が見えた。彼女は私に気付いたらしく、「ちょっとごめんね」と話してた話を切り上げて、私に嬉々として話しかけてきた。
「あ、マナミちゃん聞いて聞いて!私ね、また空手道場に入る事になったんだよ!」
「あれ?弟達の迎えは?」
「それなんだけど、お母さんがね、夕方の迎えは親戚のおじさんに頼んどくって。だから7時までなら行ってもいいって!」
「へー、よかったじゃん!いつ行くの?」
「 今週の木曜日から。週2で行くんだ。よかったらマナミちゃんも見学に来てみたら?あそこの道場、結構有名なトコらしいし」
「いや、いいよ私は・・・」
元々誘われたら断れない私だが、今回だけはキッパリ断らせてもらおう。私はスポーツが苦手なんだ。しかも空手なんて痛いのなんの・・・。
「それはそうと・・・、澪也達、何か変わったよね?」
「え?」
凛花の指差す方を見ると、そこにはいつも通り、クラスメートに囲まれて爽やかな表情で応対している澪也の姿があった。その近くでは、茂流がいつも通り冗談を言ってみんなを笑わせている。クラスの中心になっている澪也には、今までとは違い、裏がある様子は見られなかった。いつもの学級委員といった模様だ。
茂流もーーこいつはやっぱりうるさいけど、何ていうか、伸び伸びしていた気がした。これで一層うるさくなる。良いんだか悪いんだか。
「何かあったのかな?」
「この間の事反省してんじゃない?やっぱり悪いと思ったんでしょ。秘密にしようって言ったのは澪也だもん。何も変わってなかったら今頃蹴っ飛ばしてるし」
「凛花・・・黒いって・・・」
「あ、ごめんごめん。とにかく、マナミちゃんも例の二人と約束した事があるんでしょ?」
その言葉が特に印象に残った。例の二人というのは、ソラマナと綾の事だろう。
あれ?二人じゃなくない?一人と一粒でしょ。片方ソラマメだもん。
「約束は守んないとね!」
そこまで言うと、凛花は「じゃ」と右手を上げて、自分の席に戻っていった。HRが始まったのだ。
「はい、夏休みが終わってしばらく経ったけど、みんなもうすぐテストだから、気を引き締めて努力するように。先生の話は以上です。じゃあ、みんな授業の準備しろよ〜」
担任の森山の話は、珍しく短かった。さらに、いつもの眠そうな表情はどこにもなく、何かスッキリした顔つきに変わっていた。
ーー夏休みのあの日から変わったのは、私達だけじゃないのかもしれない。
そんな事を考えながら、私は数学の授業の用意をした。