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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.1 )
日時: 2015/11/21 23:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode

プロローグ


 ————その日から、彼らの混沌とした日々は始まっていたのかもしれない。






 校長先生の話というものは、大体長い。
 この学園の校長の話も例外に漏れず、長い。どれぐらい長いかと言うと、生徒が貧血を起こしてしまうぐらいに長い。現に白衣を着た1年の男子生徒が、ゴリラの顔をした体育教師にお姫様抱っこで連行されてしまった。
 運搬されていく男子生徒を尻目に、銀髪碧眼の男子生徒——八雲優羽は壇上でご高説を垂れる校長へと視線を投げる。
 スポットライトに照らされた60か70過ぎのおっさんが、何やら意気揚々と語っている。何を語っているのか微塵も興味がないので聞き流しているが、どうせ思い出話だろうと予測。おっさんは昔話が好きだからだ。
 ボケたんじゃねーの、と考えたくなるほど同じ台詞を何回も使いまわす校長の話に開始30秒で飽きた優羽は、早くも聞く耳を持たず、退屈そうに欠伸をしていた。

「ねえ」

 くあ、と出かけた欠伸が引っ込む。
 小声で話しかけられたようだ。

「ねえっつってんだけど」
「え、俺?」

 前に立っていた女子生徒が、優羽を一瞥する。名前は確か、梓啓香だったか。艶のある黒い髪を後ろで1つに縛り、黒縁の眼鏡をかけている如何にも真面目そうな女子生徒である。優羽とは大違いだ。
 啓香は壇上でベラベラと訳の分からない話を続ける校長を顎で示し、

「あの髪、ヅラだと思わない?」
「んん?」

 言われてみれば、確かにそうだ。校長の頭に乗っけられている髪の毛は見事な七三、それもふさふさのものだ。
 しかし啓香に指摘されて、もはやその頭が鬘にしか見えなくなってしまった。吹き出しそうになるのを堪えて、優羽は啓香へ同意のジェスチャーを送る。
 啓香も啓香で「だよね」と言って、笑っていた。腹を抱えて笑いそうになるのを堪えているのか、プルプルと口元が引き攣っている。

「あ、じゃあ確かめてみようぜ」
「校長のヅラを剥ぎ取るって? 無謀すぎじゃない? 他人のヅラを剥ぎ取るのってどうかと思うんだけど」
「大丈夫だって。これがある」

 優羽はスッと制服のポケットから木工用ボンドを取り出した。今朝の占いで「木工用ボンドを持っていると、生涯の最高の友人ができる」とやっていたのだ。木工用ボンドから生まれる友情ってどんなもんだよ、と思ったがちょっと面白そうなので持ってきたのだ。
 眼鏡の向こうにある啓香の瞳が、皿のように丸くなる。だが、それも一瞬のこと。すぐに悪そうな光が宿る。

「イイね。最高」
「じゃあ校長の話が終わってから実行だ。俺が先に押さえつけるから、校長のヅラは任せる」
「おっけ」

 こそこそと小声で作戦会議をしてから、2人は何事もなかったかのように前を向く。
 他の生徒は退屈な話など早く終わってほしいと思っているのだろう。だが優羽は、別の意味で早く終わってほしいと願っていた。にやけそうになる口元を必死で押さえ、今か今かとその時を待つ。
 校長の話が始まってから30分。ついに作戦開始の時がやってくる。

『これで校長の話を終わります』

 司会進行を担当していた副校長のアナウンスが入ったと同時に、優羽と啓香は走り出した。
 列の間を一直線に2人は駆け抜ける。生徒は何事かと驚きの表情を見せ、教師陣は走り出した優羽と啓香を止めようと動き出す。副校長は狼狽えるだけで使い物にならない。
 教師陣より幾分か若い優羽と啓香の方が、早く壇上にたどり着いた。優羽が狼狽する校長へタックルをして押さえつけ、その背後に啓香が回る。啓香の手が校長の頭へと伸び——

 そして、ずるっと。
 校長の髪の毛が、全て抜けた。

 啓香の手にはふさふさの髪の毛が残っている。つまりこれは鬘だった。正真正銘の鬘だったのだ。露わとなった校長の本来の頭はサバンナ——訂正、髪の毛がちょびっとしか生えていなかった。
 体育館全体の時が止まる。誰しもが呆気にとられた瞬間だった。生徒はおろか教師陣でさえも口をあんぐりと開けて、校長のサバンナ地帯に見入っていた。
 優羽はのろのろと校長の手に木工用ボンドを握らせ、啓香はそっと鬘を校長の頭に乗せる。2人はゆっくりと時間をかけて舞台から下りると——出口へ向かって全力ダッシュした。

『待ちなさい!!』
「「待てって言われて待つ馬鹿がいるかボケッッ!!」」

 追いかけてくる教師陣を器用に躱して、2人は笑い渦巻く体育館から脱出した。




 その日から、彼らの混沌とした日常は始まったのかもしれない。


「アンタのこと、やーさんって呼んでもいいよね?」
「じゃあ俺はあずにゃんって呼ぶわ」


 どちらからともなく拳をぶつけ合い、カキコ学園始まって以来の馬鹿コンビはこうして誕生する。