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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.100 )
- 日時: 2017/12/01 11:41
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)
非常に嫌な作業を押しつけられたものである。
堂前妃はちょうどトイレから戻るところだった。体育祭の真っ最中である為に、選手は運動部棟のトイレを使わなければならなかった。非常に汗臭いし、汚いしで大変だった。
堂前妃は運が悪い。非常に運が悪い。今日だって体操着を忘れかけて家まで戻ったら靴紐が切れ、仕方がないから比較的綺麗な靴で登校したら犬の糞を踏み、泣く泣く公園で洗っていたら靴下まで濡れて、ついでに制服も濡れて、朝からすでに体操着なのであった。
なんでこんなに運がないのだろうか。
前世はなにか酷いことでもやらかしたのだろうか。
もしそうだとしたら、前世の自分をぶん殴りたい。タコ殴りにして自転車に括り付け、町内一周の刑に処してやる。
「あ、沙羅君」
「……ねえ、どうしようこれ」
目の前をふらふらとした足取りで横切ったクラスメイト——沙羅華一に声をかけると、彼は泣きそうな表情で一枚の紙切れを差し出してきた。
それに描かれていた文字は、なんというか、読めない。いや読めない文字の翻訳表というか、ローマ字の表のようなものだった。
そういえば、今年の体育祭のプログラムが宇宙語で書かれていたような気がする。あれか。あれの翻訳表か。
「これいきなり渡されてさ……クラス全員に見せろって言われてもさ……」
「頑張れ」
妃は薄情にも親指を立てて華一を応援した。他人の不幸は蜜の味とはよくいろはから聞くが、今まさに同じような状況だった。
そもそも、妃はこれ以上不幸な目に遭いたくなかったのだ。こんなものを持っていったら「今更なに持ってきとんねん」の台詞と共に殴られそうである。いや、殴られはしないだろうが——どうだろうか。
妃は早々に離脱を図ろうとしたが、進行方向に華一がいる為に逃げることができない。トイレは一方通行だ。逃げられない!!
なんということだ。華一は意外と策士だったのか!!
「一緒に逝こう……大丈夫、ちょっと話しかけるだけだから」
「それコミュ障の俺に言う!?」
「それそっくりそのままお返ししてやるよ!! 薄情にも逃げようとしやがって!!」
互いに胸倉を掴み、お前が行けいやお前が行けと突き飛ばし合っていると、騒ぎを聞きつけたか単にトイレを利用する為だけにやってきたのか、別のクラスメイトが姿を現した。
烏丸凉。
なにかと口数が少ない、侍のようなクラスメイト。
涼しげな目元で見据えられ(睨みつけられたかもしれないが)、妃と華一は互いに抱き合って「ひえっ」と悲鳴を上げた。
「……別に怖がらせたい訳じゃない」
「あ、あ、ごめ、ごめん、ごめんね!?」
「すみませんすみませんすみませんすみません」
どもりながら謝る妃とひたすらぺこぺこと頭を下げ続ける華一に、凉はなんと答えていいか分からずに頭を掻いた。
だが、逆にこれはチャンスでもある。——そう、他の誰かに押しつけるという最大のチャンスが!!
自分の不幸を回避する為に妃は華一が抱きしめていた宇宙語翻訳表を凉へと差し出し、
「これ!!」
「これは?」
「う、宇宙語の翻訳表です!!」
なに言ってんだ自分。
「あの!! 体育祭のプログラムが宇宙語で書かれてて!!」
「その翻訳表だと?」
妃は何度も頷いた。華一も「そうなんです!!」と横から突っ込んでくる。
妃の手から宇宙語の翻訳表を受け取った凉はそれを一瞥すると、
「悪いが先に他の人に見せてくれないか。俺はこちらに用がある」
そう言って凉が顎で示したのは、その先にある運動部棟だった。多分トイレに用事があったのだろう。
申し訳なさそうに会釈をして運動部棟へと消えていく凉を見送り、妃と華一は二人してしくしくと涙を流した。
「失敗した、押しつける作戦失敗した……」
「大丈夫だよ……世界はこんなにも綺麗なんだから……」
さあ逝こう。
あらかじめ宇宙語の翻訳表を配布しなかった体育祭実行委員へ呪詛を吐きつつ、妃と華一は宇宙語の翻訳表を回す為に奔走するのだった。
なんか遠くの方でやーさんがどうのこうのって聞こえた気がするけど、さらにいうと空華先生の悲鳴が聞こえた気がするけど、二人にとっては関係のないことだった。