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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.103 )
- 日時: 2018/01/21 13:55
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: gdJVioco)
カキコ学園には謎の自動販売機が存在する。
生徒たちは水筒の持ち込みをしているのだが、なくなった場合は外に買いに行くことを許可していない。なので必然的に自動販売機で買い求めることになるのだが……。
「どうしてこんなラインナップばかりなんだろう」
荻枝摩由の目の前に鎮座している自動販売機は、特に異色だった。
お茶やスポーツ飲料のペットボトルが並べられているのはいいけれど、『元気マックスジュース』とか『処女の生き血』とか『天使の唾』とか『堕天使の涙』とか『魔王の審判が下る時』とかもう後半に行くにつれてだんだんと厨二めいてきているのは何故だろう。
とりあえず摩由はスポーツ飲料のペットボトルを購入したのだが、『処女の生き血』とか『堕天使の涙』とかものすごくきになる。ただこれを買ったらなんか、その、負けな気がする。
「やーさんとか飲んだことあるかな……」
ふと思いつくのはクラスどころか、学校一の問題児の銀髪碧眼の彼だった。常に騒がしくてお祭り騒ぎが好きな彼なら、こんなラインナップの自動販売機は網羅しているに違いない。
ちょっと聞いてみようかな、と思った矢先のこと。
「あれ、荻枝だっけ……? もしかしてお前も飲み物買いにきたクチ?」
「あ……ええと……確か野島君だっけ……?」
クラスメイトの野島治人がひらひらと手を振っていた。振り返すと、彼はヘラヘラと笑ってくれる。
「ここの自動販売機って面白いよな。『天使の唾』とか『堕天使の涙』とか、そんな訳の分かんねえモンばっか揃ってるし」
「も、もしかして買ったことあるの?」
「あるよ。ていうか全部飲んだ」
さらりととんでもない台詞を告げると共に、治人は硬貨を自動販売機の中に入れて『処女の生き血』を購入した。しかも平然と、迷うことなくボタンを押した。その光景に、摩由は思わず目を瞠ってしまった。普通に買ったぞこの少年。
ガコンと自動販売機が正常に作動して、『処女の生き血』とおどろおどろしい字体で書かれた缶を落とした。綺麗な少女の影絵が書かれているその缶を引っ掴んだ治人は、缶のプルタブを開けて『処女の生き血』を飲み始めた。
「の、野島君って……吸血鬼かなにか?」
「これただのトマトジュースだぜ」
「え、あ?」
治人がからかうようにニンマリと笑う。
本当に血かなにかではないかと勘ぐっていた摩由だったので、ただのトマトジュースだと明かされて頭の中が一瞬だけ真っ白になった。いや、ただの自動販売機に血が並ぶなんてことはないけれど、このカキコ学園ならあり得そうかなとは思っていただけで。
摩由の混乱状況になにを思ったのか、治人がさらに硬貨を投入して今度は『魔王の審判が下る時』を購入した。トマトジュースの他にもまだ飲むのかと思いきや、彼はその『魔王の審判が下る時』という缶を摩由の前に差し出してくる。
「飲めば? これはやーさんのオススメ」
「やーさんの?」
「やーさんは変な自動販売機を網羅してるから。一緒にいる小田原と梓の奴が一緒になってミックスジュースを作ってたし。これも割と美味しいぜ」
ほら、と缶を押しつけられて、摩由はもたもたと『魔王の審判が下る時』のプルタブを上げた。カコンッと金属質な音が静かな廊下に響く。
おそるおそる口につけて飲んでみると、あんこの甘い味が舌いっぱいに広がった。
「…………おしるこ?」
「そうそう、魔王様が審判下す時におしるこなんか飲むかなって思った。やーさんも『酒かなワインかなウハー大人だぜ!』と余裕で校則どころか法律さえも無視しそうな勢いだったな。おしるこだと分かった瞬間に最上の野郎に間接キスさせようとしていた」
「あそこってデキてるの?」
「それ言ったらやーさんはさめざめと泣くだろうし、最上の奴は遠慮なくネタにブッ込んでくるだろうか黙っとこうな?」
ただでさえ、あの問題児はなにかとBでLな展開に引き込まれやすい。あれだろうか、お姉さんが腐っていると聞いたことがあるのだが、その影響だろうか。
しかもこのおしるこ、冷たいのである。冷たいおしるこって聞いたことない。
治人が「ちなみにそれ冬になると『魔王の灼熱』とかそういうのになるらしい。俺は去年知らなかったけど、やーさんから聞いた」と教えてくれた。なんか知らないけど、やーさんは情報屋かなにかか。
こくこく、とおしるこをチビチビと啜っていると、治人が唐突に「あーやだやだ!」と叫び出した。すでに飲み終わったらしい『処女の生き血』をゴミ箱に捨てながら、
「このあとにある騎馬戦が嫌なんだよ。三年生が強すぎてな。遠慮なんかなんもねーの。もう上も下も取っ組み合いだ」
「あ、去年見てた。一年生が真っ先に潰されるよね……」
「男子は強制参加だから仕方ないけど、怖いったらねえよ」
ふと摩由は去年の騎馬戦のことを思い出してみた。
何故か空中を舞う小柄な男子生徒。すでに上に乗っている男子生徒が引き摺り下ろされたというのに、騎馬だけで上級生に突撃を仕掛けて教師に止められた生徒。騎馬に乗っている男子生徒が槍投げの槍を装備して強制退場を命じられた生徒。様々だ。
なんだか、もう、混沌としていて摩由の理解が追いつかない。
「今思うと酷いよね……カキコ学園の騎馬戦」
「でも大丈夫だ。今年は武器禁止って言われてるから、ただの取っ組み合いだけで済みそうだ」
遠い目をしながら治人が親指を立てる。どの辺りが大丈夫なのかよく分からない。
そんな治人を見て、摩由はせめてもの応援をしてやろうと言葉を探すが、残念ながら語彙力が見当たらない。「あー」とか「うー」とか唸って、摩由は追加で硬貨を自動販売機に投入した。
購入したのは『元気マックスジュース』の瓶の飲料だった。その謎めいた栄養ドリンク的な飲料を治人の目の前に突きつけて、
「騎馬戦、頑張って。こんなことしかできなくて、ごめんね」
「……ふはっ」
なにが面白かったのか、治人が噴き出した。ひとしきり笑ったあとに突き出した飲み物を受け取った。
「ま、せいぜい頑張りますわ。期待はせんでくれよ?」
「それでも、頑張って」
女である摩由は、あの激しい騎馬戦に参加できないから。
またひらひらと手を振って去っていく治人の背中を見送って、そして摩由はふと呟いた。
「……そういえば、元気マックスジュースってなんなの栄養ドリンクなの?」