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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.12 )
日時: 2015/11/27 23:47
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
参照: があるず☆らんちゃーとかむしろ私がやりたい

 ACT:2 宮前ユカ



 宮前ユカはゲームに集中していた。
 携帯ゲーム機を真剣に見つめる漆黒の双眸。口は真一文字に引き結ばれ、全身から「話しかけてくんじゃねえ今それどころじゃないから」オーラのようなものが漂っている。耳元から伸びた黒いコードはゲーム機につながれていて、完全に外界との音声を切断していた。
 大きめのディスプレイには、けばけばしい世界が広がっていた。少々目によろしくない原色ばかりの世界である。赤・青・ピンク・緑など等々——とにかく目に悪い。ショッキングピンクと黒とか本当に目に悪いし心にもよろしくない。
 そんな世界を飛び交う、これまた現実にはありえない髪色をした女の子たち。フリフリのロリータ服を翻して、ショッキングピンクの障害物を手にした身の丈を超えるバズーカ砲でぶち抜いていく。画面の端に映った敵である女の子を追跡し、バズーカ砲をバカスカとひたすら連射連射連射。弾丸で射抜かれた敵の女の子は、着ていたロリータ服を爆発四散させて下着姿のまま気絶した。どこのギャルゲーだろうか。
 ちなみにこのゲーム、マイナーな作品ではあるがコアなゲームファンからは『割と面白い』と評価されているものである。タイトルは『があるず☆らんちゃー』という。
 正確無比なボタン捌きにより、普通ではありえない動きをしながら自身が操る女の子は次々と敵を屠っていく。耳に装着されたイヤホンからは高い女の子の「いっやぁ〜ん」だの「らめぇ〜」だのという声が聞こえてくるが、ユカの精神にまでは届いていない。

 ちゃらららっちゃら〜♪

 勝利のエフェクトと共に、自分が操っていた女の子がピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。ちなみにボイスは「やってやったぜ〜い」だった。顔と似合っていない。

「ふぅ、やりきったぜっ」

 掻いてもいない汗を拭い、ユカは清々しげな表情を浮かべた。それから壁にかかっている時計をちらりと見やる。
 勝利のファンファーレに紛れて「春川ァッ!! 結婚を前提に付き合ってくれッ!!」などという教室の中心で愛を叫ぶ青春野郎の声が聞こえてきたが鮮やかに無視した。というかその直後で呻き声が聞こえてきたから、多分殴られたのだろう。
 時計はHRの時間10分前程を示していた。これならもう1戦ぐらいできるだろうか。いや、どうするべきか。
 画面に表示された『もう1戦』というコマンドか『やめる』というコマンドか、どちらにするべきか迷っているとフッと目の前に影がかかった。
 銀髪紫眼の女子生徒だった。ユカは彼女のことを知っている。イヤホンを外して会話に応じた。

「紅さんじゃないッスかー。まさかあんさんまで同じクラスだとは思わず」
「これから1年よろしくね、ユカ」

 にっこりと微笑む銀髪紫眼の少女、紅河玲奈。男女問わず人気が高いというのも頷けよう。
 玲奈は思い出したように「あ、」と声を上げる。

「ねえ、ユカ。啓香知らない?」
「啓香? あ、もしかして梓啓香のことかなー?」

 梓啓香のことは、ユカもよく知っている。忘れもしないあの1年の全校朝礼の時、銀髪碧眼の男子生徒と黒髪眼鏡の女子生徒が突然壇上に現れたと思ったら、校長先生の鬘をずるりと剥いたのだ。これはさすがに呆気にとられたし、笑った。
 同時に思ったのだ。「めっちゃ楽しそうだ」と。
 それから梓啓香と八雲優羽の名前はセットでカキコ学園全体に轟き、ことあるごとに彼らの名前が廊下から聞こえてくる。クラス替えの時に彼らの名前が同じクラスにあるのを見て、「うわマジか」と思った。

「ごめん知らないなー。今まで女の子狩りに夢中だったからさー」
「女の子……? 知らないならいいや、ありがとう」

 女の子狩りの言葉に一瞬玲奈が眉を顰めたが、「どこに行ったんだろうなー」と件の梓啓香を探して教室を出て行ってしまった。
 クラスメイトに紛れて消えていく銀髪の少女の背中を見送って、さて再戦するかどうかを悩んでいると、視線を感じた。十字キーを操作する左手がピタリと止まる。
 チラリと後ろを見ると、何やらキラキラした目線でユカを見てくる女子生徒と目が合った。すっげぇ目で見てくる。

「ねえねえ、それって『がるらん』だよね!?」

 その女子生徒はユカの机の前にしゃがみ込み、嬉々とした声音で話しかけてきた。
 がるらん、という単語にユカは反応する。ゲームファンの間では『があるず☆らんちゃー』のことを『がるらん』と略すのだ。

「もしかして、がるらん知ってる系?」
「マイコちゃんが好き」

 素朴な感じの女の子である。黒髪を後ろで三つ編みにし、青のフルフレーム眼鏡をかけている。とてもゲームを、特にシューティングゲームの部類に属し、女の子をどんどん脱がしていくというギャルゲーの部分も含む『がるらん』をやっているイメージがない。
 ところが、彼女は『がるらん』に出てくる女の子のキャラ名をサラッと告げた。マイコちゃんとは『がるらん』に出てくる女の子で、メインのキャラではない。『がるらん』をプレイしていなければ、まず間違いなく出てこない知名度の低い狙撃手のキャラだ。
 こいつは本物だ。
 そう確信したユカは、椅子を蹴飛ばす勢いで立ちあがり、その女子生徒の手を取った。

「同志よ、名前を聞こう」
「荻枝摩由。よろしくね」
「宮前ユカ。ユカと呼んでくれ同志よッ……!!」

 ひっしと互いに抱き合ったユカと黒髪三つ編みの女子生徒——荻枝摩由。
 がるらんのプレイヤーが存在したことに、ユカは密かにガッツポーズを決めるのだった。



 この後にまさかの担任の王良空華が『がるらん』のマニアだということを知り、担任も交えて女子狩り行くか!! ということになるのはまだ先の話である。