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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.21 )
- 日時: 2015/12/06 02:04
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)
ACT:3 小田原博人
机の上に鎮座しているのは巨大な船だった。
正確に言うと、戦艦だった。その名も『長門』——旧長門国を名前の由来に持つ大日本帝国海軍の戦艦である。第二次世界大戦前は日本海軍の象徴として親しまれた、有名な戦艦だ。
ちなみに砲台はBB弾を発射できるように魔改造を施した。エアガンの改造技術を少しばかり応用した、特別製である。
完成した戦艦長門を眺め、小田原博人は一息ついた。
「ついに完成したぞ……」
歓喜に震える声。ようやっと完成したという達成感。
ああ、これを彼に見せてやったらなんと言うだろうか。「すげえ」とか「カッコいい」とかそういうありきたりな台詞は期待していない。博人が期待している言葉は、予想の斜め上を行く台詞だ。
たとえば「それを使っていたずらをしようぜ!!」とか。
「戦艦長門……砲弾ならぬBB弾を発射できるようにしたのだ。しっかりと活躍してもらわねば!!」
「呼んだッスか?」
「ッ!?」
不意に声をかけられて、博人は心臓が止まりそうになった。重度の喘息持ちである彼にとって、心臓が止まるとか洒落にならないのだが。
いつの間にか、博人の傍には男子生徒が立っていた。不思議そうに首を傾げる、明るい茶髪の男子生徒である。じっと博人を見据える瞳は、黄色に近い茶色だ。摩訶不思議な色をしている。顔立ちは整っているが、おそらく『彼』と同じく「黙っていればイケメン」の部類に属するだろう。
彼の存在を、博人は知っていた。
1年の時から部活動で何度も表彰台に上がっていたからだ。
「最上君か。驚かさないでくれ」
「集中してたからずっと見てたッス。邪魔したら悪いかなって思って」
ガタガタとわざわざどこかから椅子を引きずってきたらしい男子生徒——最上長門は完成した戦艦長門を見つめて瞳をキラキラと輝かせる。どうやら戦艦長門の方に興味があるようだ。
ちなみにその椅子はどこから引きずってきたのかと問えば、「堂前ンとこ!!」と長門は元気よく、そして満面の笑みで答えた。ああだろうなと博人は思った。何故なら彼は現在、教室の隅で椅子がなくて座れないことを沙羅華一と共に嘆いているのだから。彼の不運はもはや体質か。奇跡とでも呼べばいいのか。
上から下から真横からと様々な視点で戦艦長門を眺める長門。さながらその姿は玩具に興味を示した犬のようだ。茶髪も相まって、彼が犬に見えて仕方がない。
「すげーッスね!! これどうするんスか?」
「さあ? やーさんからお声がかかればいいんだが」
戦艦長門を作ってはみたものの、肝心の八雲優羽がクラスにいない。ついでに梓啓香もいないし、きっと彼女と一緒にどこかへいたずらを仕掛けに行ったのだろう。紅河玲奈は先ほど梓啓香を探して教室を出て行ってしまった。
教室の後方から「春川ァッ!! 結婚を前提に付き合ってくれッ!!」という告白が聞こえてきた。その直後に呻き声、視線をやるとクラスメイトになった菊川柊が背の高い女子生徒に殴られていた。見事なパンチだ。拍手がしたいぐらいに。
だが、足りない。何か、もう少し刺激のあるできごとが。
その時だ。
ピロンッと。
博人のスマホがメッセージを受信したことを告げる。
無料通話アプリ『Talking!!』にメッセージがきていた。公式アプリからのメッセージだろうかと思ってアイコンをタップすると、そこに表示されていたのは彼の名前。——八雲優羽からだった。
短いメッセージを2度3度と繰り返し読んでから、博人は薄く笑う。彼ならやらかすと思ってたのだ。
席を立ち上がると、先ほどまで戦艦長門を観察していた長門が顔を上げる。
「どっか行くんスか? ホームルーム始まるッスよ」
彼の質問に、博人はスマホを振る。
これから始まることに、笑いを隠しきれなかった。
「やーさんからデートのお誘いだ。君もくるかい?」
長門は1秒と経たずに「うん」と頷いた。