コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.24 )
日時: 2015/12/12 23:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)

ACT:4 春川俊樹




「春川ァッ!!」

 突如名前を呼ばれて、春川俊樹は驚いた。心臓が口から飛び出そうになった。
 おそるおそる振り返ると、背後には黒髪紫眼の男子生徒が立っていた。春先だと言うのに、彼は紫色のマフラーを身に着けている。暑くないだろうかと色々な思考がよぎったが、次の一言で全てが吹っ飛んだ。

「結婚を前提に付き合ってくれッッ!!」

 勢いよく下げられる頭。そして突き出される腕。
 一瞬思考が凍結したが、俊樹はハッと我に返る。それから拳を作ると、渾身の力で教室の中心で愛の告白をしてきた愉快な野郎をぶん殴った。
 呻き声と共に吹っ飛ばされていく男子生徒。見事な放物線を描いた彼は、教室のやや真ん中あたりに座っていた黒髪を後ろに撫でつけてじっととある女子生徒を観察していた男子生徒のもとまで転がった。「うおぉ!?」と件の男子生徒は、突然床にスライディングしてきた彼に驚いていた。
 一体彼は何だったのか。確か菊川柊と言ったか。サッカー部で活躍していると聞くが、はて関わり合いなどあったのだろうか。
 首を傾げて柊との接点を思い返してみたのだが、さっぱり思い出せなかった。

「うん、いいか。いいな」

 どうせろくでもない時にでも思い出すに決まっている。いや、もういっそ思い出さなくてもいいんじゃないか。きっとそうだ、思い出さなくていい。
 うんうん、と俊樹が頷いていると、何やら前の席から「ブッククク……」と押し殺したような笑い声が聞こえてきた。

「オイ、何笑ってんだ野島」
「いや、悪ぃ悪ぃ」

 ブフッ、と吹き出して、また自分の席に突っ伏す男子生徒。男子にしては長く伸ばした黒髪を複数編み込み、後ろで1つに結ぶという非常に複雑な髪形をしている。瞳に涙を浮かべ、俊樹を見るなりまた吹き出すという非常に胸糞悪い行為を繰り返している。こいつも殴ってやろうか。
 野島治人。席が前後なので、自然に覚えた名前である。

「教室の中心で愛を叫ばれたねェ。ブフッ、あのサッカー部の部長に告白されるなんて、女子なら羨ましいんじゃないのォ?」
「サッカー部なのは知ってんだが、何で俺に告白してくんのか分かんねえ。興味もない」

 バッサリと切り捨てた俊樹。遠くで聞いているだろう菊川柊はめそめそ泣いていることだろう。失恋は誰でも悲しくなる。
 それに、柊の告白を切り捨てたのにはもう1つ理由がある。
 可愛くない。そう、これに尽きる。俊樹の身長は女子にしてはかなり高い172センチであり、柊の身長は183センチ——まあ何が言いたいかというと、でかいのだ。相手が。
 上から見下ろされたくないクソムカつく。以上。
 理由を知った治人は、またもクスクスと声を押し殺して笑った。プルプルと肩が震え、生理的な涙がついに頬を伝い始める。

「何がおかしいんだ」
「だったら、彼なんかどうなの?」

 涙を拭い、治人が指示したのは窓際の席——つまりは隣の列。
 その一角に彼は座っていた。1人でぽつんと、HRが始まるのを今か今かと待っているようだ。黒い髪に無地の青いマフラーを巻いている。肩幅は狭く、体格は華奢。可憐な少女のようであるが、制服はきちんと男子生徒が着用するべき学ランを身に着けている。
 正直に言おう、めっちゃ可愛い。

「三野上紘ってらしいんだけどねー、ご覧の通り猫みたいな子だからさァ……あれ、オーイ春川サーン?」

 俊樹はゆっくりと席を立った。なるべく気配を消して、彼の背後へ歩み寄る。
 彼が俊樹の存在に気づくまで、あと5秒。
 しかし俊樹が彼へ抱きつき頬ずりをするのは、あと4秒と1秒早い。