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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.27 )
日時: 2015/12/20 23:21
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 6KsExnZ3)

 ACT:5 十五夜康介




 クラス替えの表を見た時、十五夜康介は地面に穴を掘って叫びたい衝動に駆られた。
 理由は単純明快。至極簡単なことだ。そして誰にでもあてはまることである。——好きな人と一緒のクラスになれたのだ。
 康介もこの時ばかりは神は存在すると思ったものだ。澄み渡った青い空を見上げて手を組み涙を流して、「おお神よ……」と祈りを捧げたくなった。やらなかったけど。寸のところで理性が「待った」をかけたけど。
 そんな訳で。
 今の十五夜康介は非常に機嫌がよかった。いや機嫌がどうのこうのとかそういうのは話の流れ的に関係ないけど、まあとにかく機嫌がよかった。

「……荻枝……フッ、ついに、ついに一緒のクラスに……!!」

 常に学校の鞄の中に入れているスケッチブックへ鉛筆を走らせながら、康介はチラリと教室の端の方へ視線を投げる。
 そこにいるのは純朴そうな黒髪おさげの眼鏡っ娘と茶髪ポニテの表情があまり変わらない女子生徒。そのうち康介がじっと熱視線を注いでいるのは黒髪おさげの女子の方だった。
 彼女こそが十五夜康介の想い人——荻枝摩由である。
 烏の羽の如く美しい黒い髪を三つ編みにし、セーラー服から伸びる手足は華奢でなおかつ白い。茶髪ポニテの女子生徒——確か宮前ユカと言ったか——と何やら談笑しているようだが、くるくると変わるその表情がまた愛らしい。胸部はひん——いや少し残念だが、そこがまたすばらしいと康介は思う。荻枝摩由の魅力を語れと命令されたら、小1時間どころか24時間は語っていられる自信がある。
 シャカシャカとスケッチブックに描かれるラフスケッチは中性的な美少年なのだが、その視線はゲームと宮前ユカと会話を楽しむ摩由に注がれている。多分ここに本作主人公の八雲優羽がいたら全力で笑ってからかうだろうが、嬉しいことにあの癌製造機はいない。
 と、その時だ。
 ドゴッ!! という鈍い音を、後ろの方で聞いた。

「ん?」

 気づいた時にはカーリングよろしく男子生徒が康介の足元まで滑ってきた。

「うぉぉ!?」

 悲鳴を上げ、椅子を蹴倒さん勢いで立ち上がる康介。
 飛んできた男子生徒は、なかなかのイケメンだった。黒髪に紫の瞳はまさに少女漫画から出てきたヒーローのようだ、と言っても過言ではない。だが何やら彼は清々しい表情をしていた。後頭部でも打っておかしくなってしまったのだろうか。

「ふ、フフッ……これは一種の愛情表現だな……!! だが俺は諦めないッ!!」
「何がだッ!?」

 さすがに突っ込まざるを得なかった。キャラを捨ててツッコミをしたかった。そうしなければならなかったからだ。
 腹筋の要領で素早く立ち上がった男子生徒は、制服を軽く払ってから康介の存在に気づく。それから康介の机に放置されているスケッチブックを見て、「おお」とその紫眼を輝かせた。

「すっげー!! 何これ絵上手くねッ!?」
「あ? あ、ああ。こ、これぐらい当然だろう」

 さすがに愛しの荻枝摩由を見ながら描いていたものだとは口が裂けても言えない。

「……すまないが、さすがに返してほしいのだが」
「お、悪い悪い。あまりにも絵が上手くて見惚れちゃったぜ」

 満面の笑みでスケッチブックを返却する男子生徒。そしてにんまりした笑顔で康介に顔を近づけ、低い声で囁く。

「なあ、その絵の上手さを見込んで頼みがあるんだけどよ」
「……内容による」
「春川のスケッチを描いてくれださいオナシャスッッ!!」

 パンッ!! と両手を合わせて全力で頭を下げてくる男子生徒。その声が大きいせいで、周囲の視線が自然と集まった。
 康介の思考は一瞬停止した。何を言っているんだこいつは、と思った。が、すぐに気がついた。
 なるほど。彼も恋する少年なのだと。つまりは自分と同類ではないか。ふむなるほど。
 おそるおそる顔を上げて、「ダメか?」と問いかける男子生徒へ、康介は首を振った。

「いいや、描かせてもらおう。春川とはどいつだ?」
「ありがとう!! あ、あの髪の短くて背の高い女の子で——」
「へー、教室の中心で愛の告白をした菊さんは今度は女の子の盗撮ならぬ盗スケッチですかー?」

 何やら飄々とした軽い感じの声がかかった。
 ふとそちらの方へ視線をやると、女子生徒が2人、ニコニコニヤニヤとした笑みを浮かべながら立っている。
 片方は茶髪ポニテの女子生徒——宮前ユカ。そしてもう1人は。

「…………えっと、絵、上手い、です、ね?」

 途切れ途切れに称賛の言葉を述べながら、スケッチブックと己へ視線を注ぐ黒髪おさげの眼鏡っ娘。荻枝摩由。
 十五夜康介はゆっくりとスケッチブックを机に置き、手を組んで膝をつき、天を振り仰いで叫んだ。

「ジーザスッッッッ!!!!!」

 この1件で荻枝摩由は十五夜康介のことを「怖い人」と認定したのは言うまでもない。