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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.32 )
- 日時: 2016/01/31 23:11
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Y5BrPURM)
ACT:7 堂前妃
堂前妃と言えば、カキコ学園で最も不憫な男子生徒だと言われている。
道を歩けば鳥の糞が頭へ直撃し、車に泥をかけられ、席を盗まれる回数は両手では収まりきれないほど。テストで採点ミスはよくあること。あれ、何だろう。自分の人生を振り返って泣けてきた。
そして今も泣きそうである。
「…………」
トイレを出た瞬間に水で滑ってすってんころりんと転んだ後に如何にもギャルですと言ったような風体の女子生徒と巨乳な僕っ娘女子生徒に心配されて周りからクスクスと笑われながら何とか教室まで帰ってきたら廊下の前で巨漢と侍と不良が三つ巴でエンカウント。さらに野次馬らしき喧嘩大好物の馬鹿野郎まで出てきては3人を囃し立てるもんだからもう大変。今廊下は戦場です。
ヒイヒイ言いながら教室の中に戻ってきたら、席に椅子がなかった。何故だ、何故こうなった。
椅子がなくなって使い物にならなくなった我が席を見下ろして、妃は静かに涙を流すのだった。
そういえば今日は鳥の糞が頭に落ちてこなかった。ああ、今日の自分は運がいいんだなと思っていたら、クラス替えでは1学年の時に校長のヅラを剥ぐという奇行をやってのけた馬鹿2人が揃って同じクラスに存在し、トイレに行ったら転んで——という部分は少し前に戻っていただきたい。ともかくそういう訳なのだ。
「……俺って奴は本当にさ、不幸だよな……ハハッ……」
蛍光灯を仰いでさめざめと泣く妃。遠くの方で「結婚を前提に付き合ってくれッ!!」という熱い告白が聞こえてきたが、今の妃には聞こえていなかった。ついでに誰かが殴られた音も。
もうこれいつか本当に死ぬんじゃねえのかな、死んでも誰にも気づかれないで終わって白骨死体が出てくるんだろうなアハハそれはそれでラッキーかなラッキーアハハハハ、ともはや現実逃避をしている妃である。不幸が積み重なると人とはこうなるのだろう。
「ねえお前さ……天井見ながら何で泣いてんの……」
「うわッ!?」
いつの間に背後に立っていたのだろうか。前髪と襟足が長い男子生徒がいた。
脱色でもしているのか、それともただ痛んでいるだけなのか、焦げ茶色の髪の毛に前髪はオレンジ色のパッチン留めで留められている。一重の瞳は榛色をしている。左手首にオレンジ色のミサンガをつけているのがチラリと見えた。
誰だこいつ。妃はそう思った。誰もが1度は思うことだった。
「え、えーっと……椅子が、盗まれ、た?」
「誰に? 怪盗犬山?」
「誰だそれ。犬山さんに謝ってこいよ」
隣のクラスに犬山さんいただろうが、まあそれはさておいて。
「いやもう席を取られることは慣れたけど、椅子だけなくなるって事態はどうしていいのか分からなくなるよな。泣くしかない。泣くしかない」
「大事な事なので2回言いました的な感じで『泣くしかない』って言ったなお前」
「泣くしかないだろ!? だってトイレの前で滑って転んで女子に心配されて周りからくすくす笑われながらやっとこさ帰ってきたら教室の前で大乱闘カキコブラザーズ!? これなんて不幸!? 不幸って片づけていいものかなァ!?」
大声では言えなかったが、妃はそう叫んでしまった。まだ知らぬクラスメイトの男子相手に。
するとその男子生徒はポンと妃の肩を叩き、憐れみの目を向けて、
「安心しろ。よくあることだろ」
「……まさか、同志か……!?」
「机が飛んでこないだけましだと思う」
2人の男子生徒は、硬く握手を交わした。
「堂前妃だ。この名前が女のようで、俺は嫌いなんだけどな」
「沙羅華一。俺もだよ」
とりあえず、教室の隅でこの世に対する呪詛でも吐こうか。
なんて言いながら、堂前妃と沙羅華一はこそこそと教室の隅へ移動するのだった。