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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.43 )
- 日時: 2016/05/30 00:16
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Y5BrPURM)
ACT:9 峯木薫子
一目このクラス表を見た瞬間、「あ、これうるせえ奴だ」と直感した。
理由は簡単。出席番号の一番上と、最後から二番目だ。一年の時に校長のヅラを剥ぎ取った勇者()で有名な、あの二人。そうあの二人だ。覚えていてくれると幸いだ。
まあうるさいクラスは別に嫌いではないし、自分もどちらかというと盛り上げ役的な部分もあるのでどうということはないのだが。
「ハー、いや全く。これ何の因果なんだか」
ホームルームが始まる前にトイレでも済ませておくかと思った薫子は、洗面所で手を洗いながらポツリとつぶやいた。
いや、なんかクラスメイトの集まり方が異常なのだ。『個性という個性をブッ混んでみましたキャハッ』と教師の思惑が透けて見えるクラス配分だった。実際のクラスメイトは非常にいい奴なのだが、おそらくそれほど中身を知らない相手から見たら立派な問題児集団の塊だろう。
誰だっけ担任新しく赴任されてきた先生じゃなければいいけど、と思いながらトイレの扉を開くと、ちょうど目の前を見知った女子生徒が通り抜けた。
「あれ、優那ちゃんじゃん」
「……なんだ、峯木さんか」
若干青色が混じった、膝丈まである長い黒髪を靡かせた胸の大きな女子生徒である。名を坂神優那と言う。今年でクラスが一緒になり、そして弓道部でも切磋琢磨しあう仲ではある。
琥珀色の瞳を一度だけ薫子に向け、それからフイと逸らしてしまった。彼女はそういうところがある。
さっさとクラスへ戻ろうとする優那を、薫子は引き止めた。
「ちょちょちょ、待って待って。そんなさっさと行くことないじゃん」
「僕が校内を出歩いちゃいけないと?」
「いやそんなこと一言も言ってないじゃん。ただ同じクラスになったし、少しは話したいと思っちゃダメな訳? そんな感じだとクラスでも友達できないよ」
「…………べつに、いい」
視線を合わせることなく、優那は強がったような台詞を口にする。ひねくれた性格は部活動を通じて分かっているつもりだが、薫子は彼女が今のクラスで孤立してしまうのではないかとひそかに懸念する。
——が、それは早くも間違いだと気づいた。だって彼らがいるし。
「あずにゃん急げ急げ!! チャイムが鳴るぜ鳴るぜェ!!」
「これでも一生懸命走ってんだよバーローッ!! なんだったら手を引いて走れやッ!!」
「仲よくランデヴーしちゃう?」
「手が腐る、やっぱやめた」
「扱い酷ェッ!! だがッ!! それがあずにゃんの愛情であることを俺は理解しているぜ相棒!!」
「ありがとう(棒)」
……なにやら喧しくやり取りしながら、ついでに薫子と優那と無理やりハイタッチして「うぇーい」と叫んで去って行った銀髪碧眼の男子生徒と黒髪眼鏡の女子生徒。大変ノリがよろしいようである。
薫子はともかくとして無理やりハイタッチされた優那は、嵐のような二人に少々ポカンとしているようだった。
彼らのおかげで坂神優那という女子生徒は孤立しないだろう。薫子の懸念ごとは軽いもので済みそうだ。
「うわっ」
すると、隣の男子トイレから出てきた男子生徒が、濡れた床に足を滑らせて思い切りずっこけた。なんと不幸だろうか。
ド派手に染めた金髪の薫子とは違い、こちらは薄暗い金色の髪をしている。前髪が長い為、顔立ちはよく分からない。色白で体格は華奢であり、まるで女の子のようだ。
「ちょ、大丈夫?」
「へ、平気……平気だから……」
彼は思い切りぶつけた膝頭をさすりながら、そそくさと恥ずかしそうに去って行った。別に転ぶことぐらい誰だってあるだろう。
廊下の端っこを目立たないように歩いていく小さな背中を眺めていた優那が、ポツリと一言。
「彼、確か学年で最も不幸な男子生徒だと言われていないか?」
「え、そうなん?」
「確かだ」
僕もよくは知らない、と優那はきっぱりとした口調で言う。
その時だ。
「あ、オーイ。そこの金髪ちゃんと巨乳ちゃんいいところに発見したー」
なんか外的特徴だけで名前を呼ばれたような気がした。というか呼ばれた。
薫子と優那を変な呼び方で呼んだ相手は、黒いワイシャツに暗めの色のジーンズというラフにも程がある格好をした男性だった。黒い髪はぼさぼさで、天然パーマなのかもしれない。緩められた翡翠色の瞳は鮮やかな色をしているが、右目は眼帯をしている。薫子は、それが事故で失明したのだと知っている。
「あれ、王良先生」
「あら峯木ちゃんか。あと坂神ちゃん。そいや確か空さんのクラスだったよねー?」
黒髪隻眼の男性——王良空華はカクリと首を傾げる。特徴的な一人称はわざとではなく、彼の下にいる異母兄弟の為なのだとか。
ていうか、空さんのクラス?
「え、担任って王良先生? 嘘」
「本当。あの問題児たちを牛耳るのは空さんですよ。でも別に平気。空さんもそれなりに悪い子だから」
あはは、と適当に笑って流す空華。適当過ぎる。
薫子も合わせて適当に笑ったが、優那は忌々しげに空華を睨みつけている。巨乳と呼ばれたのがそんなに嫌だったか。でも巨乳なのだから仕方ない。
「それはそうと、もうそろそろホームルーム始めるからね。ちょっとプリント配りたいから、二人とも手伝ってくれる?」
「男子でいいじゃん」
「呼びに行くのめんどくさくない?」
ペロリと舌を出して茶目っ気たっぷりに空華は笑う。全然可愛くない。
しかし教師の頼みを断る訳にはいかず、薫子と優那は空華についていくしかなかった。