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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.44 )
日時: 2016/06/12 23:07
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Y5BrPURM)

 本日はクラス替え。ほえほえしていたら神様の奇跡が起きて、いつの間にか進級していた。よかったよかった。
 去年も同じクラスだった榮倉——なんたらにも確か、「お前は危なっかしい」と言われていた。そんなに危ないのかな、と真上ののは思う。
 ちなみに今年のクラスはC組だった。担任は知らない、聞き逃した。いつものことである。
 そしていつものようにほえほえしていたら、案の定迷った。この学園、嫌味のように広いのだ。方向音痴ではないのだが、もう少し分かりやすいところに教室を配置してほしいものだ。危うく一年の教室に行くところだった。道を逆戻りしているのだが、二年生の教室がどこなのかののには分からなかった。というか探そうともしなかった。

「まあ、ノリで見つかるかなー」

 うふふー、なんてお花を飛ばさん勢いでほえほえと人通りの多い廊下を歩く。途中でやたらうるさい体育系のしゃべり口調をする男子生徒と白衣の男子生徒の妙な組み合わせが「デートだデートだ」なんて言いながら通り過ぎて行った。同じクラスの小田原博人と最上長門だった——ような気がする。よく覚えていない。
 そんなボケッとしたののだが、二人だけ覚えられた。クラス分けの紙に書かれた、最初の名前と最後から二番目の名前。
 梓啓香と八雲優羽。校長の鬘を剥ぎ取って、あまつさえ木工用ボンドを渡して事なきを得ようとして失敗したカキコ学園きっての馬鹿コンビ。あの光景を目の当たりにしたののは、「あー、校長先生ってザビエルみたーい」と思わず呟いてしまった。当然、彼女の周囲にいた生徒の腹筋をぶち壊してしまったのは想像に難くない。
 彼らと同じクラスになったということは、あの面白そうなことに巻き込まれたり間近で見れたりするのだろうか、などと思っていると、「あ、あの」と背後から声をかけられた。

「前! 危ないです!!」
「ふえ? あー」

 少女の悲鳴じみた声に、ののはハッと我に返る。
 いつの間にか視界いっぱいに人の顔が広がっていた。おっさんの顔だった。よく見れば、薬物使用防止ポスターだった。『やめよう、薬物!』などと銘が打たれてあり、親指を立てて歯を輝かせている。実に暑苦しい。
 注意してくれたのは、黒髪ポニーテールの可愛らしい女子生徒だった。カキコ学園の制服の上から、クリーム色のカーディガンを羽織っている。壁と衝突する一歩手前でののが止まったことにより、彼女はホッと安堵の息をついていた。

「大丈夫ですか? どこか怪我とかは……」
「んーん、ないよ。ありがとう、注意してくれなきゃ今頃私のファーストキスはポスターのおじさんに捧げられていたよー」
「……それは、その、カウントされないと思いますよ?」

 苦笑いを浮かべた女子生徒の名前が思い出せずに、ゆーらゆーらと首を左右に揺らして考えていると、相手はののがしようとしていることを察してくれたのか、自ら名乗ってくれた。

「吉田莉音って言います。同じクラスですよ」
「そうなの? あ、確かに」

 ほぼ握り潰されてくしゃくしゃになっていたクラスの紙を見ると、確かに最後の欄には彼女の名前が載っている。同じクラスか、ちょうどよかった。

「私、真上のの。よろしくねー。さっそくで悪いんだけど、教室に連れて行ってもらえると嬉しいなー」
「……迷ったの?」
「ちょっとボーッとしていたら一年生の教室の前まで行っちゃってー」
「そ、そうなんですねー。でも教室はすぐ近くですよ。もうすぐホームルーム始まるから、教室に入った方がいいです」

 引き攣った笑みで莉音が示した先には、確かに『2-C』と札が下がった教室があった。こんな近くにあったとは。
 ののが「おお」と感嘆の声を漏らしていると、莉音はそそくさとののから逃げ出してしまった。捨て台詞のように「……きょにゅう」なんて聞こえたが、はて、一体何のことやら。
 立ち去っていく黒髪ポニーテールの女子生徒の背中を見送ったののは、不思議そうに首を傾げた。

「どこ行くんだろー」
「おや、こんなところで何をしているのでしょう。小さなギター弾きさん」

 今度は別の女子生徒がののに話しかけた。
 こちらも黒い髪の女子生徒である。灰色の髪をおかっぱにしているののが浮いて見えるようだが、世の中には銀髪碧眼の少年少女もいるのだからまあ気にしない。シュシュを使って背中の中ほどで緩く結んでいて、特徴的な髪形をしている。
 吊り目がちな黒曜石の如くつぶらな瞳でののを見下ろし、彼女は薄い唇に笑みを浮かべた。

「もうそろそろでチャイムが鳴る。早く教室に入ることをお勧めしてくよ」
「えーっと?」
「失礼。当方、有川まよると申します。どうぞ一年間、よろしくお願いいたします」

 恭しくペコリと頭を下げた彼女——有川まよるも、微笑を浮かべたままののの横を通り過ぎてどこかへと去ってしまった。
 うむ、今日はいい日だ。二人の可愛い(あと綺麗な)女の子とお話ができた。これで楽しいことが起きれば最高なのに。
 ののは鼻歌交じりで意気揚々と新たな教室へ足を踏み入れた————


「————真上ッ!! お前どこ行ってたんだよ!?」


 ————ら、なんかいきなり名前呼ばれて驚いた。去年も同じクラスの榮倉——なんたらだった。名前思い出せないけど。