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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.59 )
日時: 2016/09/13 22:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

ACT:13 史岐彩



 生徒会の用事があって職員室に行ったら、何故か周りの教師から「史岐さん、頑張ってね」と憐れみを持って言われた。何でだ。
 確か自分のクラスは2年C組。特に何の問題もないと思ったが、職員室を去る時に聞こえてしまった。「2年C組にはカキコ学園きっての馬鹿コンビがいる」と。
 史岐彩はそれを聞いて固まってしまった。柄にもなく思考停止をしてしまった。
 カキコ学園始まって以来の馬鹿コンビ。彼らはある日の全校朝礼の最中に、校長の鬘を引っぺがすという愚行をしでかした二人の阿呆である。あの時は笑うのを我慢したが、おかげで腹筋が六つに割れるかと思った。表情筋も鍛えられた気がする。
 とにかく、あの二人が一緒のクラスとなると、絶対に何かをやらかしてくるに違いない。考えただけでも頭が痛くなってきた。

「……早く教室に戻らなきゃ」

 職員室の時計を確認すると、もうすぐでホームルームが始まってしまう時間だった。ここから二年の教室まで二階分ぐらい上がらなければいけないので、それほどかからないとは思うのだが。
 引き戸に手をかけると、自動ドアの如く勝手に開いた。びっくりした。

「あれ、えーと……生徒会の史岐ちゃんか。生徒会の仕事?」
「王良先生、おはようございます」

 扉の向こうに立っていたのは、長身痩躯の男だった。教師だというのにもかかわらず、黒いワイシャツに暗い色のジーンズという簡素な格好。そして気になる右目の眼帯。噂では事故で失明したとか聞いているが、本人が笑顔ではぐらかすので真偽は不明だ。
 王良空華。カキコ学園の数学教諭である。そうか、確か彼はC組の担任だったか。

「あ、ちょうどいいわ。史岐ちゃんちょっと待っててくれる? プリント配るの手伝ってほしいんだ」
「私以外でお願いします」
「問答無用です」

 にっこりとした笑顔で拒否したことを拒否された。ちなみに彼は「あと三人ぐらい協力者がいるからー」と言っていた。その三人が可哀想である。
 今のうちに逃げてしまおうかと考えた彩は、そろりそろりと音を立てずに職員室から脱出した。よしミッションクリア。あとは教室に帰るだけだ。

「あれ? 生徒会副会長さんだ。同じクラスだっけ」
「…………どうも」
「あ、えと、副会長さん一年間よろしくお願いしますねっ!!」

 ——と思ったら、職員室を出た瞬間に思わぬ伏兵に出会ったコンチクショウ。謀りやがったなあの眼帯。彩は胸中で悪態を垂れる。
 どうやら彼女たちが、空華に巻き込まれた『哀れな三人』のようだ。
 一人目はド派手な金髪をサイドテールに結んだ、圧倒的なギャル。見た目で判断してはいけない、彼女はこれでも弓道部なのだ。
 二人目は膝丈ぐらいまで届く青みがかった黒髪の女子生徒。落ち着いた容姿から察することができる通り、彼女も弓道部だ。
 そして三人目は濃い茶色の髪を持つ女子生徒。確か演劇部だったか。彼女が主演の劇を、学園祭で見たことがある。

「貴女たちが巻き込まれたのね。拒否した?」
「拒否したんだけど、有無を言わさずだったね。まあ、暇だったし別にいいかなって思った」

 圧倒的なギャル容姿を持つ女子生徒——峯木薫子があっけらかんと笑いながら言う。それでいいのか。
 彼女の隣に並んでいた黒髪の女子生徒——坂神優那は、若干不満そうに唇を尖らせていた。彼女は本当に不本意のようである。

「私もちょうど、他クラスの友達のところに行ってたら、捕まっちゃって……えへへ」
「殴ってもいいのよ? 私が許すわ」
「今度からそうするって決めたから大丈夫」

 グッと親指を立てていい笑顔で頷く茶髪の女子生徒——折原菜月。大人っぽい顔立ちとは裏腹に、笑うと存外年相応に見える。
 何やら職員室前で物騒な会話が繰り広げられているが、そんなことを露知らず空華が大量の書類を手にして戻ってきた。器用に扉を足で開けた。

「史岐ちゃん帰っちゃったかと思ったよ、めっちゃ焦ったーッ!!」
「空ちゃん先生、その書類は何?」

 空華が抱えている書類を、菜月が横から覗き込む。その際に彩にも抱えている書類の内容が見えてしまった。どうやら明日行われる教科書販売の詳細が書かれているプリントだった。
 一番上のプリントの束を掴み取った空華は、「ハイ」と彩に手渡してくる。確認すると教科書販売のプリントだった。

「重要なプリントは副会長の史岐ちゃんに配ってもらいましょう。他の子は学級新聞ね。くれぐれも犯罪者がやるようにビリビリに破いて紙に張りつけて予告状として遊ばないように」
「フリ? フリなの王良先生」
「峯木ちゃん、瞳を輝かせて言わないで。こんなちっちゃな文字を切抜きしても楽しくないでしょ? 実際にやった馬鹿が『やーさん』というあだ名でいるんだから」
「それ答え言ってるようなもんじゃん先生」

 カラフルな学級新聞の束を抱えた薫子が空華へツッコミを入れる。保健だよりを抱えた菜月と、部活動の仮入部の内容が書かれたプリントを持った優那が控えめに笑っていた。
 このクラスだと、大変賑やかな一年間が過ごせそうである。先を行く四人を追いかけて、彩は階段を上り始めた。


 ——背後で施錠が外される音を聞いたのに、彩は気のせいだと思ってしまった。