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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.67 )
日時: 2016/10/29 21:44
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

ACT:15 UNKNOWN



「ハイ、席について。全員座る座る。机の上は座席じゃないからねー、空さんそれだけは認めないからねー。天利ちゃん、屁理屈こねて机の上に正座しないようにね。空さんは椅子の方に座ってって言ったんだからね」

 飄々とした気の抜けるような声と共に、賑やかなC組の教室へ入ってきたのは黒髪眼帯の若い男性教諭——王良空華だった。彼がこの個性豊かな問題児だらけのC組の担任を務めるのである。
 彼の背に続いて四人の女子生徒が、プリントを抱えて入ってきた。峯木薫子、坂神優那、折原菜月、そして史岐彩の四人だ。初日から美少女四人を侍らせているとはこの男、かなりのプレイボーイである。
 閑話休題。
 教卓の前に立った空華は、ぐるりと教室を見渡す。三十人と他のクラスからしてみればやや少ない生徒の人数だが、何かの陰謀じゃねえかとそこかしこからツッコミが入るほどに個性が豊か——それはもう豊かすぎてお腹がいっぱいになるほどの生徒が集められたのだから、これ以上普通の生徒を放り込む訳にはいかないだろう。きっと不登校になる。
 ところが、教室には二十五人の生徒しかいなかった。ポツポツと空席がある。

「あれ? いない生徒はどこ行った? トイレ?」

 あらかじめ預かった生徒名簿に視線を落とす空華。いなくなった生徒の名前を探す。
 いや、二人はすぐに判明した。カキコ学園始まって以来の馬鹿コンビと有名な、あの二人だ。残りの三人はきっと馬鹿二人に巻き込まれたか、嬉々として参加したか。三人のうち二人は後者だろうと思うが、残り一人に関しては完全に巻き添えだろう。可哀想に。
 鈍い痛みを訴え始めたこめかみをぐりぐりと指先で押さえて、空華はため息を吐いた。最悪の事態が起きてしまった。
 馬鹿が五人に増えてしまった。


「————えー、全校生徒の皆さんおはようございます。ん? オイ今何時。え? 十一時? 馬鹿野郎もうこんにちはの時間じゃねえか」


 突如として間抜けな男子生徒の声が、教室に備えられたスピーカーから響き渡った。
 その声を聞いた教室の生徒たちは、一瞬驚いた表情を浮かべるも、すぐに期待に満ちた眼差しをスピーカーへ向ける。
 教師としては注意しに行くべきだろうが、残念ながら空華は馬鹿コンビのことが意外と好きなのだ。学園をあっと驚かせるいたずらをする彼らが、楽しくて仕方がない。


「改めまして、全校生徒の皆さんこんにちは! このたび、二年C組の生徒になりました八雲優羽です! 趣味と特技はいたずら、運動全般ならお任せあれ! あだ名はやーさんなんで、銀髪碧眼のお祭り野郎を見つけたらぜひお声かけお願いします!! 以上ッ!!」


 ハイ次、と男子生徒の声から別の生徒の声に切り替わる。
 今度は女子生徒だ。遠くの方で声の調子を確かめている。


「えーと、やーさんの相棒で知られてる二年C組の梓啓香です。あだ名は可愛らしくあずにゃんって呼ばれてて——オイ、誰だ今軽音部所属って言った奴は出てこい違うからな違うやーさん土下座ッッ!!!!」
「イッテごめ、あずにゃん膝蹴りは痛いッ!!」


 ドタバタ、という轟音の後に、再び女子生徒の声。
 鈴の音のような美声で、自己紹介を開始する。


「二年C組の紅河玲奈です。このたび、八雲君……やーさんからはべーやんってあだ名を授かりましたので、べーやんって呼んでください。C組の皆さん。これから一年間よろしくお願いします」
「特技は剛速球————イッタッ!? べーやん何これ何投げたの!? すげースナップ効かせて何投げてきたの!?」


 後ろから男子生徒のちょっかいを出されて、美声の主が何かを投げつけたようだった。
 遅れて別の声。今度は男子生徒だ。


「初めまして、二年C組の小田原博人だ。これから一年間よろしく頼むよ。ちなみにあだ名はヒロだ。博人だからな。やーさんのいたずらには全力で乗っかろうと思うから、くれぐれも覚悟していてくれたまえ」


 何やら博士めいた声を聞いた彩が、盛大な舌打ちをしていた。彼と何か因縁があるようである。
 最後に聞こえてきたのは、飛び切り元気のいい少年の声。聞くからに運動部に所属していることが分かる。


「ハイハイハーイ!! 二年C組の最上長門ッス!! 水泳部に所属してるんでよろしくッス!! あとやーさんからはモガトって呼ばれてるんで、ぜひそう呼んでほしいッス!! 一年間盛り上がっていくッスよ!!」


 そして遠くでハイタッチの音。
 締めとして最初に「八雲優羽」と名乗った男子生徒が出てきた。


「これからはこの五人で、色々といたずらとかやって学園を盛り上げていくんで!! 全員覚悟しておけよなッ!! ——え? ゴリラの侵入? やばいやばいゴリラの侵入はマジやばい。モガト阻止、絶対阻止ッ!!」
「もうおそ——アーッ」
「モガ——アーッ」
「べーやん逃げて、ゴリラは発情して——アーッ」
「……大人しくお縄に捕まった方がいいようだ」
「そうだね」


 ガタガタブツンッ。
 放送はそこで途切れた。ゴリラということは、生活指導の五里川が馬鹿五人を成敗したのだろう。施錠されている放送室に侵入したのだから当然の結果である。
 シン、と水を打ったように静まり返った教室の中に、くすくすと小さな笑みが生まれた。小さな笑みは周囲に伝播され、やがて爆笑の渦を引き起こす。空華も笑ってしまった。
 まったく、初日からやらかしてくれるものである。

「ハイ、盛大な自己紹介をしてくれた五人の名前はきっちり覚えておこうね。でも自己紹介は明日やるから忘れないように。彼らに負けない面白おかしい自己紹介を空さんは期待しています」

 それじゃ、ホームルーム始めるよ。
 きっと五里川からこってり絞られているだろう五人の生徒たちを除いて、ホームルームは進行していく。