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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.73 )
日時: 2016/12/31 21:44
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

ACT:2 王良空華



 王良空華がクラスの異変に気づいたのは、設問の一つを誰かに答えさせようとチョークを置いたころだった。
 教卓からは、教室全体が見渡せる。居眠りしている真上ののも、消しゴム戦争で一人を徹底的に狙い撃ちして逆に自分が狙い撃ちされていることに気づいていない野島治人も、ノートの切れ端に呪いの言葉ならぬ愛の言葉を書き綴って愛しのあの子へ届けようとしている菊川柊も、みんなみんな見えている。
 授業も思い思い過ごしている生徒たちに飽きれつつも、空華は「まあこれがC組なんだよねー」などとのほほんと構えていた。
 問題児ばかりが集まったC組は、他のクラスからも若干遠巻きにされている。むろん、担任である空華は教師陣から遠巻きにされていた。生徒からはすこぶる人気が高いのに、何故大人には遠巻きにされるのか。空さんちょっと悲しい。
 そんなことは置いといて。
 生徒が一人、この教室からいなくなっていることが問題である。窓際の一番後ろ一歩手前。吉田莉音の前の席。言わずと知れたあのカキコ学園始まって以来の問題児と称される八雲優羽だ。

「やーさんいないけど、いたずらにしに隠れたのか単にトイレに行ったのか行先を知ってる人はいる?」

 ハイきょーしゅ、と挙手を促してみるもクラスの反応はシーン。とうとう生徒からも無視され始めたか。
 空華の心の中に冷たい風がぴゅーっと吹いたところで、おずおずと挙手してくれた生徒がいた。銀髪紫眼の美少女。おっと可愛い、と思ってはいけない。彼女もまた件の八雲優羽の仲間なのだ。

「ハイ、紅河さん」
「やーさんなら朝から青い顔をしていたので、多分トイレかと」

 そういえば、と空華は今朝のことを思い出す。
 朝のHRは、学級委員の「起立、気をつけ」という号令でも優羽は机に突っ伏したままだった。死んでるのかと思った。あとでさらに前の席に座っている最上長門がぷすぷすとシャーペンを突き刺していたのだが、それにも反応しないほどだった。
 さらに手が上がる。今度は静かに。廊下側から二列目、前から三番目の席に座る彼である。優羽と一緒につるんで奇怪ないたずらを仕掛けてくる小田原博人だ。

「やーさんなら『口からなんか変なものを生みそう』と言って、匍匐前進で教室を出て行った。多分産卵だと思う」
「へー、やーさんって卵産めるんだー」

 博人なりのボケを、空華はどう処理していいか分からなかった。人間は卵を産めないはず。————あれ、産めないよな?
 いや八雲優羽という馬鹿ならいけるか……? と本気で八雲優羽の可能性について考え始めたが、結局口から産めるものなど吐瀉物ぐらいのものなので、やはり八雲優羽は八雲優羽だったという結論を自分の中で出した。うん、ちゃんと人間。
 そもそも現在、小田原博人の机には何故か大量の卵が置かれていた。それをカラフルにペイントしているのはなんだろう。イースターでもやるのだろうか。
 余計な質問はしない方が賢明である。空華は授業を再開することにした。

「じゃあここの質問を————今目が合ったから沙羅君やってくれる?」
「ふぇぇオレですか!?」

 本人としてはボーッとしていたようで、椅子を跳ね除けて立ち上がった沙羅華一に、クラス中から注目が集まる。黒板の前にきて問題を解くのはさぞ注目されることだろう。一方で彼自身は答えに自信がないようで、だらだらと冷や汗を流して混乱しきっていた。
 やばいな、これは。彼に問題を解かせると、黒板にたどり着くより前に倒れそう。

「ごめん、沙羅君。やっぱやめよう。目が合っちまったという理由でやらせるのは悪かった」

 空華が軽い調子で謝罪すると、華一は安堵の息を漏らして席に着いた。
 やはりここはオーソドックスに日付から決めた方がいいだろう。今日の何日だったっけ、と黒板を確認すると、空華の穿いているズボンの尻ポケットが震えた。
 尻ポケットにはスマホが入っている。家族と連絡を取り合うものでもあるし、仕事用にも使っているし、つまるところ空華はスマホを一つしか持っていない。

(ッたく、授業中には連絡してくるなって言ったのに)

 誰が連絡寄越してきやがった、とさりげなくスマホを確認すると、なんと送り相手は自分の弟。
 一言だけのメッセージで、『気をつけて』とだけ。なにに?
 疑問を持った空華がスマホを尻ポケットにしまって、今日の日付と同じ出席番号の生徒の名前を口にしようとしたところ、教室の後ろの扉がガラリと開いた。