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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.77 )
- 日時: 2017/01/22 22:55
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
ACT:4 野島治人
授業中にやるいたずらと言えば決まっている。消しゴムを千切って投げつけるという消しゴム戦争だ。
ちなみに、今消しゴムを投げつけている相手は隣の席に座っている十五夜康介だ。艶のある黒い髪に、白いゴミカスがポロポロと乗っかっている。不潔だと思われてしまえ。
治人の攻撃に耐えているのか、それともただ単に気づいていないだけなのか、康介はひたすら前を見て板書を取っていた。授業熱心な生徒である。生真面目で規則に厳しい彼だからこそだろうか。
——いや、よく見たらあれ、ネームを書いていた。文字じゃなくて絵を描いていた。黒板をチラチラ見ているのは授業を訊いていますよアピールか。
「オイ、野島。授業を真面目にやってる奴に失礼だろうが」
「いいじゃん別に。気づいたらやめればいいんだし」
後ろの席に座っている春川俊樹が、真面目に授業を受けている(と思っている)康介を邪魔するなと注意してきた。彼女の席の位置からでは、斜め前に座る十五夜康介が何をしているのか見えないのだ。
本当はネーム書いてんだぜ、とか言ってやりたいが、まあ黙っておこう。そんなことを言った暁には、おそらく隣の十五夜君から刺すような視線をいただくことだろう。
というか、今も実際どこかから刺すような視線が届けられている。治人の背筋に寒気が走った。
「授業中に仕掛けることと言ったら消しゴム戦争だろ? ほーれ」
「あ、馬鹿やめろ」
俊樹が制止するのも聞かずに、治人が次の相手としたのは反対隣りに座る三野上紘である。温かな日差しを受けてうつらうつらと舟を漕いでいた紘の髪に、ポスッと消しゴムが乗っかる。あまりにも小さい消しカスなので、彼も気づいている様子はない。
すると、俊樹がスルッと治人の首に手を回してきた。緩やかに曲げられる五本指。肌にめり込み、喉を圧迫するまであと数ミリといったところか。
「それ以上消しゴム戦争をするんだったら首を絞めるぞコラァ」
「…………アンタって実は男だったとかいうオチじゃないよな? その声は女でも出るのか?」
まるで地獄の底から響いてくるような重低音で囁いてきた俊樹に、若干の恐怖を感じた。
しかし、消しゴム戦争をやらないとなると、あとは真面目に授業を聞くだけになるのだ。それでは退屈である。本来は学生の性分は勉強だが、治人はそうは思わない。学生なら遊んでナンボだろう。
という訳で。
ノートの上に散らばった消しゴムのカスを集めた治人は、後ろを振り向いて俊樹の頭にバサッと降り注がせた。おかげで彼女の頭は消しカスだらけ。ぽかんとする俊樹に、笑いながら「間抜け」と言うと、鼻っ面に消しゴムが飛んできた。
「イッテッ!! 何すんだよ春川」
「こっちの台詞だ、小学生か」
ッたくもー、と髪に付着した消しカスを払い落とす俊樹。ノートの上に消しゴムのカスが落ち、それをパッパと床の上に落とす。掃除が大変そうだ。
そこにポン、とどこからか飛んできたノートの切れ端が、俊樹のノートの上に転がった。今どき手紙である。
眉を顰める俊樹からノートの切れ端を奪うと、治人はご丁寧に丸められた切れ端を広げた。
ちょっと癖のある文字で書かれた、寒気のするラブレター。こんなものを書く人物がいるとは驚きである。
「見ろよ春川。すげーうすら寒い」
「…………」
筆跡に見覚えでもあるのか、俊樹はチッと舌打ちをしていた。彼女の周りから出る雰囲気も、なんかうすら寒いものを感じる。
「やーさんいないけど、いたずらにしに隠れたのか単にトイレに行ったのか行先を知ってる人はいる?」
今まで授業をしていた担任の王良空華が、教室全体を見回しながら問いかけた。
うすら寒いラブレターから顔をあげると、授業を一時中断してクラスの問題児の所在を聞いているようだった。確かに、クラスの問題児たる八雲優羽の席は無人である。前の席にいる最上長門が、暇そうな表情をしている。
まあ当然治人が所在を知る訳ないので、気になって隣をチラリと見やると、うつらうつらと舟を漕いでいた紘が、突然ビクッと震えて飛び起きた。きょろきょろと周囲を見回す彼と目が合い、「何……」と睨まれる。
「おはよう?」
「起こしてよ」
「いやー、そういうのは後ろの席に言って」
紘は口の端から垂れかけていた涎を拭い、後ろの席である宮前ユカを一瞥する。彼女は机の下にゲームを仕込んでカチカチとプレイ中だ。
彼女に頼むことは諦めたらしい紘は、ブツブツと何かを呟きながら授業に戻った。
「ハイ、紅河さん」
「やーさんなら朝から青い顔をしていたので、多分トイレかと」
挙手したクラスのマドンナである紅河玲奈が、空華へ申告していた。
そういえば、朝の優羽はどこか顔色が悪かったようにも思える。なるほど、あれが原因か。
じゃあ今頃は保健室かトイレかな、と予想していると、小田原博人が「産卵です」などとボケをかましたから吹き出しそうになった。無駄に腹筋が鍛えられそうである。
「やーさんどこ行ったんだろうな」
「トイレか保健室だろ。少なくとも、相棒の梓がいる時点でいたずらっつー可能性はない」
「さあね。もしかしたら本当にいたずらかもしれないよ」
紘が「まあ興味ないけど」とぶっきらぼうに付け足すが、瞳の奥ではちょっとした期待に満ちていた。
いたずらだとしたら治人も大いに期待ができる。彼のいたずらは他者を楽しませてくれるのだから。
ちょうどその時、ガラリと教室の後ろの扉が開いた。きっと彼がいたずらをする為に入ってきたのだ。