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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.84 )
日時: 2017/05/13 11:41
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)

ACT:10 強盗


 その男たちは、いわゆる銀行強盗という奴だった。

 金がないから銀行を襲撃し、大金を奪って逃走した。綿密に練られた計画はついに実行され、無事に成功した。大金を奪って逃走用の車に乗り、警察の目から逃げてきたのだ。
 が。
 日本の警察というものは非常に優秀なもので、銀行強盗という罪を働いた男たちを捕まえようと追いかけてきたのだ。しかもすぐに特定しやがった。

「あ、兄貴!! このままだと捕まっちまいます!!」
「分かってる!!」

 大金が詰め込まれたボストンバックを抱えた部下の男を叱責し、リーダーたる男は目の前に見えた建物に注目した。
 この辺りでは一番大きく、そして一番広くて、一番人が集まる場所——つまりは学校だ。『カキコ学園』と銘打たれた校門を突破し、リーダーの男はほくそ笑む。

「生徒どもを人質にとって、逃走経路を確保する。相手はガキだ、簡単だろう」
「さすが兄貴。そこに痺れる憧れるゥ!!」

 調子に乗った部下の男を睨みつけ、銀行強盗はついに学校内へ侵入を果たした。
 ——いや、果たしてしまった。
 危険なのはどちらかというと生徒の方ではなくて、銀行強盗の方である。

***** ***** *****

 何の変哲もない校舎を、右往左往しながらようやく人質らしき教室を発見した。
 ちょうど目の前に見えた教室は『2年C組』とある。どうやら授業中のようで、扉の向こうからは教員だろう男の声が聞こえてきていた。
 よしよし、多少の問題はあったが計画は順調だ。このまま生徒を人質にとって、逃走経路を確保すれば完璧。近くにいる生徒を見せしめに殺してやるのもありか。リーダーの男はあくどい笑みを浮かべて、部下の男へと振り返る。

「武器を寄越せ」
「へい」

 手渡された武器はロシア製のアサルトライフルである。闇の組織経由で密輸し、苦労して手に入れた今回の武器だ。銃刀法違反? 強盗をしている時点ですでに犯罪者だ。関係はない。
 両手で構えて、部下の男にはボストンバックの死守と待機を命令。赤子を抱きしめるように大きめの鞄を抱きしめて、身を縮こまらせた部下の男を一瞥して、リーダーたる男は2年C組の教室へ強襲した。
 後ろの扉を荒々しく開き、アサルトライフルの銃口を教室内に向ける。

「全員動くなッ!! 動くんじゃねえッ!!」

 教室の中にいる生徒の人数は思ったよりも少なく、せいぜい三十人といったところか。全員して闖入者たる銀行強盗へと注目している。
 というか、全員してポカンとした表情だった。例えるなら「お前じゃねえ」だろうか。期待していた相手とは違う相手が入ってきた時のような表情だった。なんだろう、この言いようもない気持ちは。
 だがしかし構うものか。リーダーの男は一番近くにいた白髪の男子生徒の脳天にアサルトライフルの銃口を突きつけて、

「お前ら、こいつの頭をぶち抜かれたくなければ大人しぶぐへぁ」

 リーダーの男は吹き飛んだ。背後から部下の「りりりりリーダー!!」という声が聞こえた。
 リノリウムの床にうつ伏せで倒れたリーダーの男へ覆いかぶさるようにして、誰かが乗っている。まさかもう警察が!? と心臓がドキリと跳ねたが、相手は違うようだ。

「怪獣だ、手を挙げろ!! 食っちまうどッ!!」

 …………ワイシャツの襟元から顔を出し、戦隊ものに出てくる怪獣の真似ごとをしている背の高い男子生徒だった。動きを止めている生徒たちへ、彼は「がーがー」などと言いながら、後ろの席に座っている生徒を手当たり次第に叩いていく。ノリが軽い。
 というか、こんな男にやられたのか。
 後ろから突き飛ばされたのか。

「てかなに? え? みんなどうして俺に注目してないの? 俺こんなんになってんのに?」
「やーさん、今はそれどころじゃないんだよ」

 呆れたような口調でギャル風の女子生徒が諭す。
 突き飛ばされたという精神的ダメージと鈍い痛みからようやく立ち上がったリーダーの男は、変な格好をした銀髪の男子生徒へアサルトライフルの銃口を向けた。

「テメェ!! 舐めた真似しやがって!!」
「誰が舐めてるだって!? 腹痛の俺に誰も構ってくれねえんだもん、これぐらいしたってよくねえ!? いいだろ!?」

 思い出しただけでも涙出てくるわコンチクショーッ!! と男子生徒はおもむろに近くにいたガスマスクの少年の筆箱を引っ掴んだ。「筆箱!!」と少年が嘆くが、そんなことなどお構いなしに銀髪の女子生徒へ筆箱をパスする男子。

「べーやん、パース!!」
「任せて!!」

 銀髪の女の子はおもむろに立ち上がるや、華麗な投球フォームで筆箱をブン投げてきた。
 銀行強盗の頬を掠めて剛速球で投げられた筆箱は壁に衝突、柔らかい素材の壁がなんか凹んだ。ような気がした。

「ヤァコ、頭下げとけよォ」
「——え? ああああああ!!」

 男子生徒が悲鳴を上げる。
 銀行強盗が最後に見たものは、とても高校生には見えない大柄な男が教科書がたんまり詰め込まれた机を放り投げている瞬間だった。


 視界は暗転。
 銀行強盗の完璧な作戦は、ジャ〇ラのような恰好をした馬鹿によって潰されてしまった。