コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.88 )
- 日時: 2017/06/22 11:35
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)
ACT:1 八雲優羽
体育祭である。
体育祭である!!
何度でも言おう、体育祭である!!!!
「ィィエッフゥ!! 体育祭だ体育祭だ体育祭だァッ!!」
朝から優羽のテンションは最高潮だった。何故なら今日一日は勉強をしなくて、得意科目の体育ばかりだからだ。体育祭とはそういうものだろう。
運動ができない文化部や親友の博人は絶望した顔で「地獄の日々だ……」などと呟いていたが、優羽はそんなことは思わない。長門と一緒に肩を組んで体育祭ダンスを披露したほどだ。
さて。
優羽が参加する演目は全部で五つほどあるが、そのうち一つにノリで参加した『借りもの競争』というものがある。クラスから選抜された男子三名、女子三名が紙に書かれたお題をもとにして物品または人を借りて走るこの企画。
ノリとテンションと勢いだけで生きている優羽は、もちろんこの借りもの競争に立候補した。ついでと言わんばかりに二人ぐらい道連れにしてやった。それが彼らである。
「……やーさん、テメェ恨むからな……」
「くそ……なんでこんな恥ずかしい競技なんか……」
テンションの高い優羽とは裏腹に、これから公開処刑に晒されるだろうことに悔やんでいる繊細な男子高校生が二人。名前を宇野響と堂条里琉という。
特に里琉の方は、射殺さんばかりの鋭い眼光で優羽を睨みつけていたのだが、もちろんそんな視線などなんのそのである。
「楽しもうぜッ!!」
「ぶっ殺す」
「待て待て待て。選ばれたんだから仕方ないだろ」
「お前はいいのか!? こんな馬鹿に巻き込まれて腹立ってねえのか!?」
「ぶっちゃけ腹は立ってるしやーさんに対して眼球を抉り出したいぐらいに恨んでるけど、いっそ観客全員の眼球を抉らない限りこの羞恥は終わらないと思う」
至極正論だが、何故眼球を抉り出すことを推奨しているのか優羽には理解できなかった。響の瞳は虚ろである。光がない。
そうこうしているうちに、選手へ整列が言い渡された。体育教諭のゴリラに従って、優羽と響と里琉はレーンに整列する。
優羽は第一レース、響は第二レース、里琉は最終の第三レースとなっていた。
「ィよっし、俺がバシッと一位を取ってきてやるぜ!! 見てろよ、俺の勇姿!!」
「いっそ転んで恥を掻け」
「サトはどうしてそんな酷いことしか言えねえのかな。俺ドMでもねえんだけど」
ぶちぶちと文句を言いながらも、優羽はレーンに入った。
カキコ学園のクラス数は、一学年に六クラスである。AからFまでのクラスがあり、優羽はC組である。つまり敵は五人だ。
優羽が誘導されたコースは、一番内側だった。スタート地点が最後尾である。他のクラスの選手が、にやにや笑いで優羽を見ている。
(今に見てろ、絶対に抜かしてやる)
位置について、ヨーイ。
パァンッ!! と乾いたピストルの音が晴れ渡った蒼穹に響く。同時に選手が一斉にクラウチングスタートの体勢からスタートした。
最後尾であっても、優羽は早かった。隣と隣の隣、隣の隣の隣のコースにいた選手を抜き去って、借りものが書かれた紙を拾う。
小さく折り畳まれた紙に書かれていたのは、
好きな男子(はーと)
…………ん?
優羽は首を傾げた。自分の頭が馬鹿すぎて、脳が誤変換でも起こしたのかと思うぐらいにおかしな内容だった。
だが、現実はどうもそうではないらしい。他の選手の紙にも同じ内容が書かれていたのか、全員して固まっている。
ここで、放送部である生徒の陽気なアナウンス。
『さて、第一レースの借りものは全員同じ「好きな男子」!! 喜べ腐った女子と野郎ども、仲よく手を取り合ってゴールする野郎どもが見られるぜッ!!』
優羽は初めて殺意というものを感じた。ノリとテンションと勢いで生きていても、これだけはどうしたものか。
しかし、これは逆に好機でもある。
他の選手は『好きな男子』なんていう馬鹿げたお題についてこれず、固まったまま動こうとしない。中には狼狽で視線を彷徨わせる奴もいる。まともに動けるのは優羽だけだ。
紙を握りつぶしてジャージのポケットに突っ込むと、優羽は迷わず生徒席へと向かった。目的地は自分のクラスであるC組である。
「ヒロ!! きてくれ!!」
「……君はなにを勘違いしているのか分からないが、私にそういう趣味はないぞ?」
木陰でひっそりと膝を抱えていた生白い永遠体育見学を言い渡された男子生徒——小田原博人が怪訝な表情で言う。
優羽だってそういう趣味はないのだが、馬鹿なりに考えたことがあるのだ。屁理屈だが、そういう解釈もできるだろう。
「好きな男子だろ? LOVEじゃなくてLIKEも『好き』じゃん」
「……やーさん、朝食になにを食べた? 珍しく頭が冴えているではないか」
「姉貴の焼いたトースト。おかげで三十分ぐらいトイレにこもったけど」
喘息持ちである博人を背負って、優羽は風のように走った。ゴールテープを持っていたのは同じクラスの折原菜月である。
ピンと張られたゴールテープを切って、優羽は見事に一位でゴールを果たした。
このあとに放送部からの取材がきた優羽は、満面の笑みでこう答えた。
「我らが参謀、小田原博人君!! 親友として一番好きな男子です!!」
「だ、そうだ。やーさんに背負ってもらって走った感覚は最高だったね」
余談ではあるが、このあと裏で『科学者鬼畜攻め』という謎の薄い本が出回ることになったのだった。