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- Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.93 )
- 日時: 2017/10/18 11:37
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)
ACT:5 折原菜月
それは数週間前のできごとだった。
体育祭実行委員長が唐突に言い出した台詞である。
「我がカキコ学園の伝統行事という名の公開処刑である借りもの競争のお題を、『好きな男子』にしてもいいですか?」
「「「「「(どうでも)いいでーす」」」」」
適当に答えたのが間違いだと思った。当時、お腹が空いたのでさっさと帰りたいと思っていた菜月は、過去の自分をぶん殴りたい衝動に駆られると同時に「いい判断だ」と親指を立ててやりたかった。
そしてなんの因果か、ただでさえ個性豊かなカキコ学園の生徒たちの中でも『特濃』並みであるC組から選出されたメンバーは八雲優羽、堂条里琉、宇野響の三人だった。女子? 知らん。
中でも第一走者である八雲優羽に『好きな男子(はーと)』が当たってしまったものだから、テント下に待機していた菜月はゴッツンと机の天板に額を打ちつけた。
「やばい……やーさんになに言われるか分からない……」
「……やーさんは気にしないと思うけど」
隣に座っているのは同じクラスで体育祭実行委員の榮倉桃馬である。白髪に赤い瞳と色素が欠乏している彼は、紫外線が天敵である。あまり陽に焼けるのはよくないとかうんたらかんたら。
桃馬はそんなことを言っているが、嬉々とした放送部を射殺すような目つきで睨んでいる優羽の顔を、菜月は一度も見たことがない。あれは絶対にアカン奴や……アカン奴やったんや……。
まあでも、相手は八雲優羽と書いて馬鹿と読むほどの生徒である。もしくは、八雲優羽は馬鹿の代名詞である。ノリとテンションと勢いだけで生きているような優羽なので、きっと今回もノリとテンションと勢いだけで乗り越えるだろう。
「あ、ほら。大丈夫だった」
「本当だ」
桃馬の言う通り、優羽は自分のクラスの待機場所へと駆け寄ると、友人である小田原博人を背負って一着でゴールを果たした。あの二人は一緒にいることが多いのだが……まさかそういう関係だったのだろうか……?
菜月が邪推する横で、桃馬がボソッと一言。
「多分『LOVE』じゃなくて『LIKE』の方だと思うよ」
「だよね知ってた」
畜生。
そりゃあ一般人である優羽が『ホモォ……』な訳ないし、ましてや博人がそういう訳でもないし。
待機場所から「エンダァァァァァ!!」「イヤァァァァァァァ!!」という悲鳴が聞こえたけれど、気にしない方がこの際いいのだろうか。菜月も胸の内側で「ウィルオールウズラビューゥゥゥゥゥゥ!!」と叫んでいたのだが。
「でも第二走者と第三走者については適当にやったけど、折原はなにやった?」
「え?」
「お題の話。なに書いた?」
桃馬の質問に答えるべく、菜月は自分の書いたお題を振り返る。
第二走者である宇野響が、今走り始める。ちょうど彼がお題の紙を拾ったところで、菜月は自分が書いたお題を思い出した。
「アホだったかな」
お題の書かれた紙を凝視していた響は、すでに走り終わって観戦している優羽のもとまで駆け寄って、おもむろにその腕を掴んだ。
「やーさん、こい」
「え!? なになになに、うのっちも俺のことを好きなの!? やめて!! 俺はボインなおねーちゃんが好きなの!!」
「俺だって趣味嗜好は一般人だっつのこのアホ!!」
優羽の頭をぶん殴って、響きが無理やり彼を連れてゴールする。他の走者はお題を探している最中なので、響が一着だった。
一連の流れを見ていた二人は確信する。
響が菜月の書いたお題を手に取り、それに従った結果、優羽が選出された——と。
「やーさんの代名詞に『アホ』が加わったね」
「馬鹿でアホなんだね……やーさんは愉快な人生を送ると思うよ……」
本当にごめん、やーさん。
菜月は謝罪をして、そしてふと思い立つ。
「そういえば、そっちはなんて書いたの?」
「無難に『騒がしい人』で書いたよ」
二人の間に沈黙が下りる。
第二走者の響は菜月のお題を引いた。
第三走者である里琉も、もしかしたら——。
すでに第三走者は走り始めていて、里琉はお題のもとまで到達していた。お題の紙を拾い上げた彼は、しばらく考えたあとに優羽のもとへと向かう。
「え、なにサトちん。サトちんも俺を好きなの? ホモなの?」
「黙れ万年お祭り男。いいからこい」
「いーやー!! 助けてー!! おーかーさーれ——グホォッ!!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい優羽に里琉のハイキックが決まり、そのまま襟首を掴まれてずるずるとゴールまで連行されていった。
どうやら桃馬のお題は、里琉が引いたようだった。
「……馬鹿でアホで騒がしい人か。本当に愉快だね、やーさんは」
「むしろやーさんが静かになる日がきたら、世界が滅亡するんじゃないかな」
ゴールを果たした里琉に、雑な扱いで放り捨てられた優羽へ憐れみの視線を向ける菜月と桃馬だった。
愉快な借りもの競争は、優羽の八面六臂の活躍によって幕を閉じた。