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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.96 )
日時: 2017/10/18 11:46
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)

 カキコ学園の体育祭は混沌としているが、今年はさらに混沌としているようだった。
 なにせ体育祭のプログラムが読めないのだから。なにこれ、宇宙語? 誰か翻訳しておいてくれない? というレベルで。

「随分と体育祭実行委員も捻ってきたわね」

 有川まよるは難読な体育祭プログラムに視線を走らせながら、薄く笑った。おおよそ女子高生が浮かべるようなものではなく、まるで魔女のような微笑だったのだが。
 安っぽいパーティの招待状のようにデコレーションされたプログラムを適当に片づけて、まよるは現在行われている競技へと視線を投げた。
 コース上に折り畳まれた紙が設置されただけの競技——借りもの競争である。カキコ学園では公開処刑とも揶揄されている競技に、C組からはカキコ学園きっての馬鹿が参加していた。参加者を決める際には残り二名を巻き添えにしていたのだが、まよるにとっては関係ない。

「やーさんは一体どんな波乱を見せてくれるんでしょうねえ」

 楽しみだわ、と妖しく魔女は笑う。すぐそばでは何故か「最も恥ずかしい競技は云々」と生徒会副会長と八雲優羽のいたずらに加担している科学者が熱い議論を展開しているのだが、どちらも食べ物がかかわってくるものなのである。正直な感想は「食いしん坊なのか?」だった。
 ——とまあ、こんなことを言っているがまよるは一ミリも興味を示さず、適当に議論を白熱させていればいいのではないだろうかと自己完結したところで、別のところから気持ちの悪い声が。
 なんというか、犬の吐息にも似ているが……いや、これは間違いなく興奮した人間が発する呼吸というか……。

「……はぁはぁ、い、いっそ男子の借りもの競争のお題が『好きな男子(はーと)』という展開にならないかな……!? いいいいや、そんな漫画のような展開が望めるの……!?」

 饅頭のように丸まって眠っている小鳥遊夢人——がもちろんそんな変態的な荒々しい呼吸をしている訳がない。そんなことをしているんだったら見ている夢の内容を疑うし、もしかしたら悪夢を見ているかもしれない。
 興奮した様子でプログラムを握りしめ、はぁはぁと借りもの競争の行く末を見守っている九十九瑞貴が「ああっ」と空を振り仰いだ。

「そんな展開が起きて、まさかやーさんがあんなことをしたら……!! いやもうこれは叫ぶしかない、私の渾身の叫びを上げるしかないッ!!」
「……なにを興奮しているのか分からないのだけど、とりあえずその可能性も捨てきれなくはないと思うわよ……?」
「ハゥア!?!!」

 まよるが背後から声をかけたのが原因か、瑞貴がびょーん!! と驚いた猫のように飛び上がる。隣で寝ていた夢人は、可哀想なことにその衝撃で叩き起こされた。寝癖がついた髪を無理やり手櫛で落ち着かせようとしているが、変な体勢で寝ていたことが要因となってぴょっと触角が生まれてしまっていた。
 夢人が恨めしげに瑞貴を睨みつけるが、瑞貴は瑞貴で恐慌状態となってしまっていた。警戒する野良猫のようである。
 まよるはやれやれと肩を竦めると、

「突然話しかけてしまったことには謝るわ。そんなに怖がらないで」
「……すす、すみません。ちょっと興奮していて、その」

 もじもじと恥ずかしそうに頬を赤らめて、瑞貴は定位置へと戻った。ぐしゃぐしゃに握りつぶしてしまったプログラムを丁寧に広げつつ、

「で、その可能性も捨てきれないというのは……?」
「……ああ」

 瑞貴の神妙な声音に、まよるは合点がいった。彼女はまよるの台詞である『その可能性も捨てきれない』の真意について問い質しているのだ。
 ここはカキコ学園だ。面白ければ、瑞貴の妄想が現実になりうる可能性が非常に高い。体育祭実行委員にまともな生徒がいれば話は変わってくるが、少なくともこのカキコ学園にまともな生徒などいる——のだろうか?

「常識外れしかいないカキコ学園の生徒が、そんな面白そうなことをしない訳がないでしょう?」
「それもそうか……ッ!! 盲点だった……ッ!!」

 ガカァッ!! と全身を雷にでも打たれたかのようにショックを受けた様子の瑞貴。もしかして、彼女は自分が「まともである」とでも勘違いしているのだろうか。
 すると、ぼんやり競技の行く末を見守っていた夢人が「始まるよ」とまだ眠たげな声で瑞貴へと教えてくれた。食い入るように競技の行く末を見守る瑞貴を一瞥し、まよるも第一走者のレースを観戦する。
 第一走者は八雲優羽だった。他の生徒をあっという間に抜き去り、お題の紙のもとまで辿り着く。
 ——だが、お題の紙を拾い上げた彼の横顔に、殺意のようなものが滲んだ。

『さて、第一レースの借りものは全員同じ「好きな男子」!! 喜べ腐った女子と野郎ども、仲よく手を取り合ってゴールする野郎どもが見られるぜ!!』

 ガタッ!! と瑞貴が立ち上がりかけたが、夢人がなんとか両肩を引っ掴んで無理やり座らせていた。「大人しく見てろ」と眠たそうな視線が物語っている。
 嬉々としてアナウンスする放送部をぶち殺してやろうかとでも言っているような雰囲気を醸していた優羽だが、なにを考えたか彼はC組のもとまでやってきたのだ。まさか、このクラスに好きな男子がいるとでも……ッ!?
 彼がご指名したのは、白熱した議論を展開していた小田原博人だった。まよるはそれだけで、「『LOVE』じゃなくて『LIKE』の方ね」と察したのだが——。
 颯爽と博人を背負ってゴールする優羽へ、瑞貴は我慢しきれずに雄叫びを上げた。

「エンダァァァ————————!!」
「イヤァァァァ————————!!」

 同じことを思ったのか、最上長門まで叫び出した。
 瑞貴はふるふると肩を震わせて、

「ここ、これは、いいネタ、いい材料です!! キタコレ!! 科学者鬼畜攻めですよ!!」
「今度の裏ルートに流す本はこれで決定だね」

 瑞貴と夢人はがっしりと固い握手を交わしていたのだが、まよるは心の中で優羽へと合掌を送るのだった。
 可哀想な、やーさん。