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Re: 【住民参加型】カキコ学園2年カオス組!!【偶像劇】 ( No.97 )
日時: 2017/11/02 11:49
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)

 借りもの競争は、やる側にとっては公開処刑にも匹敵する恥ずかしさを秘めているが、見る側にとってはこれ以上に面白いことなどない競技である。
 大山田関太郎もこの競技で大いに笑わせてくれることを期待していた。
 何故なら、この競技に進んで立候補した馬鹿がいる。それに伴うようにして二人ほど哀れな野郎どもが引きずり込まれたが、まあ彼らにはさほど期待はしていない。
 だが、まさか一発目からこういう展開が待ち受けているとは思わなかった。

「好きな……男子……ッ!! ブフ、クククッ」

 腹筋が鍛えられるというかなんというか。第一走者である八雲優羽は、お題が書かれているだろうメモ紙を見下ろして殺意を滲ませているようだった。多分自分も同じ立場だったら、体育祭実行委員へ殴り込みに行っているだろう。
 それでも期待の馬鹿こと優羽は迷いもなく自分のクラスであるC組へやってくると、飴食い競争とパン食い競争のどっちが公開処刑かと謎の討論会をしていた小田原博人を攫っていった。次の瞬間には二か所から「エンダー!!」「イヤー!!」と叫び声が上がった。
 颯爽と白衣の少年を背負って一位を獲得した優羽は、なんかもういっそ清々しいほど輝いていた。そんな彼を見て関太郎は指をさして爆笑したのだが。

「ふひゃははははははは!! ゴールしやがった!! ゴールしやがったぞあいつ!!」

 膝を叩いてケタケタと笑う関太郎だが、すぐそばから聞こえてきた「ハァ……」という重々しいため息を聞いて笑いが引っ込んだ。
 クラスの端っこに体育座りをして、じめじめときのこが生えてきそうな勢いでどんよりと暗い空気を背負った男子生徒。名前を——確か、三野上紘と言ったか。身長が二メートルに届く関太郎からすれば、彼は随分小さく見える。

「オイ、そこの」
「……今話しかけないで。砲弾になった時の対策を考えているの」

 関太郎が声をかけると、紘はやはり暗い声で突っぱねた。
 というか、砲弾になった時の対策とは一体なんなのか。

「……騎馬戦、憂鬱」
「ああ」

 ポツリと呟いた紘の言葉で、関太郎は納得した。
 カキコ学園の目玉競技として、全学年男子による騎馬戦が行われるのだ。
 非情なことに、全学年なので右も左も分からない一年生は真っ先に上級生から潰される。実質、二年生と三年生の戦争のようなものである。
 しかし、中には健闘を見せる生徒もいた。その中で起きたのが『生徒砲弾事件』というものだ。
 当時の小柄な男子生徒が騎馬の上に乗っていたのだが、負けたくないという気持ちが先行してしまったのか、上に乗っていた生徒が放り投げられてしまったのである。その男子生徒はあまりにも軽かったので、ポーンと砲弾のように上級生の騎馬へ突撃をかまし、上に乗っている生徒を巻き込んで倒れたのだ。
 もしかしてあれのことを気にしているのか——いや、紘はあの砲弾事件の被害者なのかもしれない。彼は膝を抱えて深々とため息をつき、

「……ヘルメットでも被ったらいいかな……それともいっそ銛でも担いだ方が……」
「そりゃ反則になんじゃねえか?」
「反則でもなんでも、命が惜しい」

 はぁ、と紘はため息。
 さすがの関太郎でも、どう声をかけていいか分からなかった。「気にするな」とも言えないし、「大丈夫だ」とも言えない。紘のように上へ乗った経験がないのだ。
 だから砲弾のように投げられるという感覚も分からないので、どうしようもないというか。
 そんなことでぐるぐると頭を悩ませていると、「おおおおおおッ!?!!」と会場中がどよめいた。
 なにが起きたと顔を上げると、そこには今まで八雲優羽と同じレースを走っていた男子生徒が一斉に一人の教員を囲んでいた。
 学校指定のジャージを羽織った、隻眼の若い男性教員である。紛うことなくC組の担任である王良空華である。いきなり教員の待機場所から引きずり出された空華は、むさ苦しい連中に取り囲まれて困惑しているようだった。

「「「「「王良先生、一緒にきてくださいッ!!」」」」」

 野太い声の大合唱。
 空華の薄い唇が「ひぇっ」となぞった。多分ドン引きしてる。

「きゃああああああああああああああ————!! お題は聞いてたけどなんかやだぁああああ!!」

 くるりと身を反転させた空華は、ダッシュでその場から逃亡を図った。
 競技中の男子たちは「逃げたぞ」「追え」と空華の追跡を開始する。本気なのか遊びなのか不明だが、とりあえず空華にはご愁傷様と合掌する。
 それよりも。
 関太郎は配られた体育祭のプログラム(宇宙語は翻訳済み)を開いて、

「騎馬戦って何番目だったか……」