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Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.13 )
日時: 2015/12/22 11:51
名前: 逢逶 (ID: XnbZDj7O)

episode12
title 走る

誠は放心状態の私の手を引いて車に乗せた。

私はやっと理解した。
瞬間、誠を睨みつける。

「知ってたんでしょ?!知ってて黙ってたんでしょ?!」

「…ごめん」

「ごめんって何?!私なんてどうでもいいんだ?!お母さんが死ぬことより会議の方が大事だから、だから絶対に抜け出すなって…携帯の電源を切っておけって言ったんでしょ?!」

「ごめん、織」

「謝ったって帰ってこない!お母さんは帰ってこない!」



そう、帰って来ないんだ。
とめどなく溢れる涙の理由は簡単。

メールは二件来てたんだ。

〝最善は尽くしましたが、助けられませんでした〟


お母さんが一人で死んだ。
結婚してから一度も会えていない母。
せめて最後だけは見届けたかった。

違う、悪いのは誠だけじゃない。

どうして時間がある時に会いにいかなかったのだろう。
確かに距離は遠かった。
だけどそれは問題じゃない。
夫を早くになくした母。
たった一人の娘にも会えず、闘病していた。
今日、一人で死んでしまった。

誠のせいじゃない。


私のせいだ。


「誠、ごめんなさい。怒ってごめんなさい。私がお母さんに会いに行く許可をください」

「俺が悪いんだ。ごめん。…チケットはとっておくから。明日行ってこい」

「…ありがとうございます」



誠の横顔はいつもより暗くて。
私のせいだと思うと胸が痛い。

こんな私なんか離婚してくれたっていいんだよ?

そのまま目を閉じた。






「織、好きだよ」

あれ…?誠ちょっと若い気がする。
抱きしめられる私。

「うん、私も」

誠は嬉しそうに笑って優しくベッドに私を寝かせる。





「織がいれば、他に何もいらない。大事にするから」

「…私も。誠がいれば何もいらない」




「結婚、しよっか」




はっ、とそこで目が覚める。
周りを見る。
家の寝室だ。
誠が運んでくれたのだろう。


夢はあまりにリアルだった。
付き合っている頃は幸せだった。

誠が隣で愛を囁き、二人で顔を赤らめる。

結婚した途端、まるでそれが嘘だったかのように…。
誠は私を視界に入れなくなった。

私は誰に愛されているのだろう。
今日、唯一私を愛してくれていた母は亡くなった。

愛してくれた母を一人で死なせた私。
愛をくれなくなった誠。

どっちがひどいの?

ねぇ、私は自分をいつまで嫌わなきゃいけないの?
疲れちゃった…。

もし世界が全て生まれ変わるなら、
きっと私はこの世にはいない。
私みたいな最低な人間は必要ない。


たとえば、両親の間に私じゃない子が生まれたとする。
それでも両親はその子のことを愛しただろう。
たとえば、誠と結婚するのが私じゃなくてお金持ちの令嬢だったとする。
きっとその人は義父母からも誠からも大切にされただろう。


それならいっそ、生まれて来なければよかった。


誠の背中は決して狭くはない。
でも小さく見えるんだ。
あまりにも距離が遠くて。
いくら走っても追いつけないんだ。






走るのをやめたら
あなたは私の方を振り向きますか?