コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.17 )
- 日時: 2015/12/22 11:53
- 名前: 逢逶 (ID: XnbZDj7O)
episode14
title 戻れない
母は…、
冷たかった。
太陽のような微笑みがもう見られないのかと思うと苦しい。
目の前の母を見ると再会という言葉を使うにはあまりにも場違いで。
永遠の別れ。
「どうして、早く来てくださらなかったんですか…」
「…知らなかったの」
「違う!私が言いたいのは…、どうして面会に来てやらなかったのかということです」
「…来れなかった、わけじゃないけど」
「…医師として、遺族の心の傷を拭うのは大事な仕事です。…ですが、」
言いたいことはわかってる。
私を責めたいわけじゃ無いんだろうけど…。
「すいません。それに関しては全て私が悪いから」
私は泣き崩れた。
私が悪い。
「私は…っ、あなたのお母様が好きでした…っ」
「え…」
「あなたのお母様は…早くにあなたを産まれて、苦労もしただろうけど…、あなたのことを話す時は目がキラキラしてて…。どれだけお母様が自分を気にかけていたか、あなたは気付いていましたか…?!」
「うるさい!」
私は叫んだ。
驚いて後ずさる先生。
「…すいません、取り乱しました。私は診察に行きます…」
私は霊安室を出た。
涙は止まらないのに心はどんどん渇いてゆく。
おぼつかない足取りで病院を出た。
葬儀は誠が準備してくれる。
青空が私を見下ろす。
道端には黄色い花が咲いている。
小さい子供とその祖母らしき人が手を繋いで散歩している。
その光景を見ると、世界は面白いくらいに綺麗なんだと思う。
私は傍観者だけでなく対象物でもある。
汚いものが無ければ輝かないのだ、この世界は。
道路の端でしゃがみ込む。
腰が痛い。
それに、きもちわるい。
腰の痛みに加え、突然の吐き気と気だるさ。
「はぁ…っ」
病院はもう遠く。
どうすることもできずに倒れ込んだ。
そのまま意識を手放した。
…さんっ、…織さん!
はっ、と目を開ける。
どこ…?
「起きましたか?」
「なんで…?」
どうして…
…成瀬さんがいるの?
「路上で倒れてたので。…あ、ここはStreamの別荘です」
別荘…?
ベッドから立ち上がろうとしたけど、頭がぐらっと揺れて、咄嗟に成瀬さんに抱きつく形になってしまった。
この状況は気まずい。
そう思い、離れようとすると成瀬さんの腕が私の背中にまわって抱き締められた。
「えっと…あの…?成瀬さん?」
「会いたかった…っ」
ぶわわっ、と涙が溢れて…。
成瀬さんの胸に顔をうずめる。
成瀬さんは私の頭を優しく撫でる。
「織さん…、何があったか話してもらえますか?」
からだを離して真剣な目で私を見つめる成瀬さん。
誰かに助けて欲しくて、全て話す覚悟を決めた。
今日だけじゃなく、昔のことも。
義父母から子供を産めと言われていること。
誠が母の状況を伝えてくれなかったこと。
でもそれは…、私の責任であること。
そして、誠が愛してくれないこと。
本当に全て話した。
話し終わると、成瀬さんは私を再び抱きしめた。
「辛かったですよね…。話してくれてありがとうございます。もう、泣かないでください」
「うん…」
「俺なら…」
「え?」
「俺、初めて会ったあの日から…、」
私はそこまで聞いて耳を塞いだ。
これ以上聞いたら、戻れなくなる。
成瀬さんは私の手を掴んで言った。
「織さんが好きです」