コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.20 )
日時: 2015/12/24 15:54
名前: 逢逶 (ID: XQp3U0Mo)

episode1
title いたくない

「子供も産めないのに誠さんの後ついてまわってねぇ」

その言葉に顔を伏せた。
今日は家に義父母が来ている。

母と別れて早一ヶ月。
無事に済まされた葬儀ではあるけど宙にふわふわ浮いているようにイマイチ実感が湧かなかった。

成瀬さんに告白されても何を言えば良いのか、というより何も言いたくなかった。
確実に惹かれている。
だけどそれを言葉にするには様々な障害があって。


今、義父母が私の悪口を言っていたところで、彼には届かない。


「ちゃんと子作りしてるの?」

「…してるけど」

「もう三年目でしょ?…織さん、もしかして体質的に子供を産めないんじゃないの?」

リビングで堂々と繰り広げられるその会話を買い物からこっそり帰宅した私が聞いていることを、誰も知らない。


「やめてくれ、母さん。子供はしばらくはいらない」

「どうして?」

「母さんは孫がそんなに欲しい?」

「孫はいらない。でも跡継ぎがほしいわ」

「…そんな愛を持たない子供が幸せになれるわけない。俺みたいにね」

「どういうことよ?!」

「まぁまぁ、落ち着きなさい」

「あなたは誠が言っていること理解できるっていうの?!」

「そういうわけではない。誠の気持ちはよくわかる。…事実、私も自己嫌悪の中生きてきたからな。しかしなぁ、誠。お前の考えは子供ができたらきっと変わる」

「ふっ。子供に洗脳されるのか」

「違う」

いたたまれなくなって私は家を出た。

行く当てもない。
でも家にいてもおかしくなるだけ。

街をふらふらと歩く。


どんっ、


前から来た集団とぶつかってしまった。

「すいません」

「すいませんじゃねぇよ。…お?つーか可愛いじゃん」

あっという間に囲まれて逃げようにも逃げられず慌てるばかり。
通行人は気付いても助けてくれないし。

「おい」

誰かの低い声が響いた。
私は驚いてビクッと肩を揺らす。

「…この子、俺らの連れなんで」

私は誰かに優しく腕を掴まれた。
顔を上げるとそこにはStreamがいた。
手を掴んでいるのは、影山さん。
影山さんの後ろに成瀬さんを見つけ目が合ってすぐに逸らす。

「…おい、おめぇら調子乗んなよ?!」

相手はマスク姿のStreamが誰かわかっていないようで、喧嘩をふっかけようとする。

「あんたらみたいなのが、俺らに敵うと思ってんの?」

影山さんがマスクを下げると、相手は真っ青になって一目散に逃げ出した。


「大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます」

「織さん?」

「え…?」

「涙出てますけど?」

「…え、あっ、何でもないです」

「ちょっと店入りませんか?」

「…はい」

そうだ、ここだと目立ってしまう。
断るのが筋なんだろうけど、多分、無駄だと思う。
日も落ちて来ている。

近くの洋風居酒屋に入った。
すぐに個室へ通されるところが芸能人って感じがする。

なんとなく気まずいのだけれど、家にも帰りたくないし。



「織さん、あそこで何してたんですか?」

笠間さんが運ばれて来たビールを喉に流し込みながら尋ねる。

「家にいたくなくて」

「へぇ、不思議な人もいるんですね。俺は家が良いですけど」

と、芸能界きってのインドア派、有明さんが言う。
別に外に出たいってわけじゃないです、と言いかけたのを飲み込んだ。


「最近どうですか?旦那さんとは」

時田さんからの何気ない質問に答えられずにいると、成瀬さんが咳払いをした。

「どした?海ちゃん笑」

「いや、何でも」







「海は織さんのことが好きだからそういう話されたくないんだよ」


影山さんが怒りの混じった声で呟いた。