コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.24 )
- 日時: 2016/01/06 21:01
- 名前: 逢逶 (ID: mvR3Twya)
episode5
title 誰も知らない
『だから会おうって』
「あなたと会う気は無い」
もうこの返事を何度したことだろう。
電話の相手は私が二度と思い出したくなかった人。
『俺は…、お前が好きだから』
「うるさい!」
私は腹が立って電話を切った。
十年前。
私は高校二年生に進級した。
新しいクラスで友達もたくさんできて、とても充実した毎日を送っていた。
ある日の放課後、カラオケに誘われた。
私は一度家に帰って準備をしてから向かった。
待ち合わせ時間より早く着いてしまい、店の前でみんなを待っていると、誰かに声をかけられた。
振り向くとそこにはクラスの人気者の、吉田貴弘(通称タカ)がいた。
「もしかして今日、誘われた?」
「うん、タカも?」
「おう」
「じゃあ、一緒に」
「…つーかさ、ドタキャンしない?」
「えー?」
「いいから行こう」
タカに手を引かれゲームセンターに行ったり、店を回ったり…、とても楽しかった。
その日からタカと二人きりで遊ぶことが増えて、いつしかタカを好きになっていた。
半年後、タカが告白してくれて付き合うことになった。
タカはモテるから嫉妬の目で見られることも少なくなかったけどタカがいればそれで幸せで。
あっという間に三年生になった。
あれは梅雨の頃。
激しい吐き気と頭痛に襲われた私は、すぐに薬局で妊娠検査薬を買い、試した。
思い当たることはあって、もちろん相手はタカなのだけれど結果が出るのが少しだけ怖かった。
やはり、妊娠していた。
未成年で不安定な私が子供を無事産んで育てられるか不安だった。
震える手で必死に携帯を手に取り、タカに電話する。
妊娠したことを伝えると、タカはこう言った。
「俺の子供じゃないよな?」
その言葉を聞いた途端、私の中のタカが崩れ去った。
私は両親と話し合い、中絶を決めた。
もし電話した時、一緒に育てよう、と言ってくれたら中絶していなかっただろうか。
私は高校を中退した。
誠に出会って恋をして。
子供を急かされるのは仕方ない。
だって私の過去を誠は知らない。
タカ以外誰も知らない。