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Re: T.A.B.O.O ~僕と君は永遠を誓えない~ ( No.27 )
日時: 2016/01/16 20:54
名前: 逢逶 (ID: I.inwBVK)

episode8
title 澄んだ瞳


「助けて…!助けて…っ」

私は一種のパニック状態に陥り、それ以上何も言うことができなかった。



「どうした?!」

有明さんが店から出てきて心配そうにかけよってくる。
成瀬さんは私の背中に手を回し、子供をあやすみたいに優しく頭を撫でる。


「織さんが大変だから…とりあえずどっか連れて行こう」

「そうだな。見つかったらやばいし」


私は支えてもらいながら立ち上がる。


そのまま近くのホテルに入った。


頭が痛い。
ずるずると足を引きずり、部屋に入った。
椅子に座らせてもらい、ようやく落ち着いてきた。



「織さん」

成瀬さんが優しく私の名を呼ぶ。
また涙がこぼれそうで。
好きにな人が目の前にいる。
嬉しいはずなのに、嬉しくない。
…私が、既婚者だからだ。


「何があったか話せますか…?」

よく考えれば、誠の話をしたのは成瀬さんだけ。
有明さんもいるし、何よりこれ以上迷惑をかけていいのだろうか?
私の中の様々な迷いが素直に〝助けて欲しい〟と言わせてくれない。
さっきは言えたのにね。




ぶーっ

また、携帯が震えた。


「携帯鳴ってますよ?」

「…出ません」

「さっきの電話と何か関係があるんですか?」


言うまで帰してはくれないだろう。
そう言い訳して、私は二人に何があったか話すことにした。




「思えば私の人生は、十八歳で終わっていました。…高校三年生の時、彼との子供を妊娠しました」





それから全てを話した。
二人の顔を見ることはできなかった。
どんな表情をしているかは安易に想像がついたから。

話し終わって顔を上げると知らぬ間に頬に一雫の涙が伝った。
急いで手で拭うけど、それを境に次々に涙が流れた。


「織さん…」


成瀬さんは優しく強く私を抱きしめた。
そのからだが少しだけ震えていることに気が付いて、成瀬さんにすがるように腕を回した。


「どれだけの想いをあなたは飲み込んできたんですか…?」

成瀬さんはからだを離して私の頬の涙を指で拭った。


「…俺、ちょっと外いってくる」

そんな有明さんの言葉も、もう耳に入らない。
今、私は成瀬さんに支配されている。
全ての感覚が成瀬さんが欲しいと騒いでいる。


「織さん、何度だって言います。好きです」

「…私だって、」


成瀬さんが好きです、ギリギリで飲み込んだその言葉。
伝えたくて何度もためらってきたその言葉。

「ちゃんと言ってくれきゃわかりません」





「好きです。…成瀬さんが好きです」

やっと伝えると、成瀬さんの頬が真っ赤に染まった。



「俺が一生かけて織さんを守ります」

「…私は既婚者ですよ?」


「関係ないです。俺は誠さんの奥さんじゃなくて、織さんが好きなんです」

「成瀬さんにはもっと良い人がいるだろうし、私なんか…」

「この先、織さんより好きになる人はいません」

「誠だって…私とは別れないと思いますよ?」





「織さんを辛い目に合わせる誠さんが織さんと一緒にいて良いわけがない」




私は澄んだ成瀬さんの瞳を見つめて思った。



この人と一緒になりたい

と。