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Re: もう一度、青空を。 ( No.9 )
日時: 2016/01/25 21:39
名前: あき朱音 (ID: 4xvA3DEa)
参照: 満点の星が。

俺は、走った。



あの家を目指して、全速力で走った。

中学時代に陸上部だったとはいえ、もう体は鈍っている。



足は引きちぎれそうに痛いし、息が止まるほど苦しかった。

それでも、走り続ける。

今止まってしまったら、もう一生伝えられない気がしたから。



口の中に、走ったとき特有の渋い、何とも言えない味が広がって。
それが気持ち悪くて、吐きそうになっても。


俺は、足を止めなかった。




「は、あ、つい、た……げほっ」




震える足が、冷たい汗を落とす。
その足を止めたのは、『暮見』と書かれた表札の前___。



震える手でチャイムを押すと、心が癒されるような淡い音が鳴った。




「……あれ、ホシくん……?」




そこに立っていたのは、俺の最愛の人。

さらさらの黒い髪を下ろして、優しい香りを漂わせて。
綺麗な瞳は、俺を真っ直ぐに見ていた。



「くれみ、さん」



整わない息で、彼女を呼ぶ。

そして、止まる。



……いいのだろうか。


自分の気持ちを伝えても、振られるのは分かっている。

それに……優しい彼女にとって、これは迷惑なのではないか。




「……少し、話があるんだ。
 ……そこの広場まで、来れる?」




彼女は少し考えてから、大和撫子のような優しい笑顔で頷いた。




広場について、ふたり、ブランコに並んで座った。
きぃ、きぃ、と響くブランコの音が、夜の静寂に響いている。


「ホシくん……? お話って、なあに?」


自販機で買ったホットのミルクティを両手で包み込んで、彼女はマフラーで口元を寒そうに隠す。
白い息は、闇の中に溶けて見えなくなった。


「……あのね、暮見さん」



言わなければ、ならない。
伝えなかったら、俺は一生後悔する。




「俺、君のことが好きです。
 ずっと、ずっと好きでした」




彼女の瞳が見開くのが、夜目でもわかった。
困っているのか、焦っているのか。それは、彼女しか知らない。




「___ありがとう、ホシくん。

 でも、わたし……好きなひとが、いるの」




申し訳無さそうな声が、隣のブランコから聞こえた。
その声は、やっぱり可憐で、溶けてしまいそうで。




「……うん、知ってたよ。聞いてくれて、ありがとう」
「……ごめんね、応えられなくて。……ばいばい」




彼女はブランコから降りると、いつもの優しい笑みを浮かべた。
ばいばい、と言い返せば、ほら。
彼女は、闇に溶けていく。

もといた場所に、戻っていく。




ぱたり。




俺は、草っぱらに倒れた。
目じりを、冷たい水が伝ってくる。


……涙だ。


あぁ、本当に好きだったんだなぁ。
これで、諦めなきゃならないんだなぁ。




「だいすき、だなぁ」




伝う涙は、一向に止まらなくて。
滲む視界に、『ありがと』とだけ夜空に伝えて。




「…………これからも、好きでいていいですか…………ソラ、ちゃん」











見上げた夜空には、満点の星が広がっていた。