コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 君への執着 ( No.1 )
- 日時: 2015/12/22 17:31
- 名前: 音宮 ◆93nWkRSozk (ID: Jk.jaDzR)
【桜の木の下には】
私の名前は、天草椥。病弱だけれどもそれ以外は、普通の高校生。
今年から高校生に上がったのだけれども、この持ち病のせいで高校に行けない。
そんな私を見計らって兄は、薬を買いにと病室を先ほど出て行ってしまった。もう面会時間は終わりそうなこんな夜遅くまで開いている薬局などないのに。
兄はしっかり者で私と違って健康的で頭脳明晰な十歳年上。
顔立ちはいたって普通だけれども、優しいから女子達の話にも少し上がってしまう。
そんなお人好しな兄を心配に思いながら、私は病室のベットから窓の外を覗いていた。
俺は、妹のために——いや、噂を確かめるために外へ出かけた。
噂と言うのは、誰も行きたがらない森の奥にある湖の真ん中にそびえたつ桜の花びらを一つまみ食べるだけでどんな病も瞬時に治ってしまうというものだった。
どうやら噂によると、その桜はこの真冬の満月の夜、しかも雪が降っている間にしか咲かない儚いもの。
そんな桜があるのかと、ボートを漕いでいた。
この湖は案外、広く、夜だからか静けさも伴って気味が悪い。
「……椥のためだ。椥の病を治すため」
そう言い聞かせながら湖の中心部分にたどり着くと、島のようなところに一本の巨木が確かにあった。
「咲いてない……」
真冬な為、咲いていないどころか葉さえもついていない状況だ。
こんな状態で本当に咲くとは思えない。
「……帰るか」
そう思った次の瞬間、風がふぁっと吹き、桜の木のまわりだけ明るい月明かりが照らし始める。
—— なんだ? ——
「……こ、これは……」
見る見ると、葉をつけ、ぐんぐんとつぼみが膨らみ始め、咲いていくではないか。
俺は声にならない声をあげ、無我夢中で木に手を伸ばし、一番最初に咲いた花をつまむ。
「これで……これで、椥が、椥が……」
——学校に行ける
ぱぁっと嬉しそうに満面の笑顔で制服を着て、俺に抱き付いてくる様子を思わず想像してしまう。
そう思うと、一輪ではなんとなく、枯れてしまうと怖いので何輪かをつまみとり、袋にいれて妹のところへいそいそと戻っていった。
「これって……」
病室に持ち帰って袋を渡すと、椥は興味津々に花々を見つめた。
「桜だよ。これを食べると、椥の病も治るかもしれない」
「……そうなの?私は学校行けるようになるの?」
「ああ、もちろんだ。騙されたと思って食べてみ」
妹がきらきらと目を輝かせながら花をつまんで食べるのをごくっと唾をのんで見つめた。
彼女はそれを食べた瞬間、胸をおさえて、ベットに倒れこむ。
「な、椥ッ!!」
慌てて彼女のもとへ駆けつけたが、もう遅かった。
彼女は息を引き取っていた。
——そう、あれは妖花であったんだ。