コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ハオのウィザード【参照100ありがとう(*^^*)】 ( No.13 )
- 日時: 2016/06/11 00:01
- 名前: 明賀 鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: N0L12wyN)
【第二章:戯言と乱立の高校生活】
「山羊座のあなたに朗報だヨ! 今日は新しい出会いがあるみたい。そんなあなたのラッキーパーソンは、『普段あまり喋らない人』。素敵な出会いに美香もドキドキ! 以上、井上美香の今日の星占いでしたぁ〜☆」
今日の一位は山羊座……しかも新しい出会いがある……そして自分は山羊座……。
そんなことを考えながらネクタイをビシッと締め、諸見里 弥市(もろみざと やいち)は思わずにやけていた。胸ポケットには校章が縫い付けられている。それは彼が猩々学院の生徒だということを立派に証明していた。
「今日は素敵な一日になりそうだなァ〜」
間の抜けたような声に被って、リビングの奥から叫び倒すような女性の声が響く。
「弥市! あんた急がないと学校遅刻するでしょーが!」
「わかってるよ母さん。じゃあ、行ってくるよ!」
プチンと自室の小型テレビの電源を切り、諸見里は立ち上がった。校章が刻印されている学生指定鞄を持つと、玄関のドアを開けた。
いつもと変わらない太陽の日差しが、いつものように諸見里の眼鏡に反射して輝いている。
しかし、本日星占い一位である諸見里にとって、それは天からの祝福であった。
「太陽のやつめ……この自分を祝福してくれるとは、困ったもんだなあ」
諸見里のこのつぶやきは悲しいかな、周囲の人間はもちろん、誰一人として理解できるものはいなかった。
それでも構わず鼻歌を歌いながら諸見里はご機嫌に通学路を歩いていた。
彼は高校二年生。彼の通う猩々学院には中等部と高等部があり、彼はもちろん、高等部に在籍している。が、私立であるこの学校には、他校にはない『制度』が存在していた。それが『飛び級制度』である。外国では多く見かけるこの制度は、日本ではほとんど例を見ないが、猩々学院には頭脳明晰な生徒が身の丈にあった学年に籍を置けるようになっていた。もちろん諸見里はただの諸見里である。そんな制度など、多分一生世話になどならないと、本人も自覚していた。
「バラの高校生活っ! 青春の高校生活! そして今の自分は幸せ絶頂! このチャンス、モノにしないでそうしろと言うんだ諸見里 弥市ーーッ!」
登校途中に右手の拳を元気よく突き上げ、妙なことを口走る男子生徒など、ただの変態である。
同じように登校していた猩々学院の生徒たちは、皆がみな嫌疑の表情を浮かべていた。
「あっと、こんなことをしている場合じゃあないぞお!」
一人そう叫び、周囲の生徒らはヒソヒソと怪しむ目つきで目の前の変質者についての話を始める。
「まずは新しい出会い! これに限る!」
たったかたーと軽やかに駆けていく諸見里の姿は、心なしか輝いて見えるのだった。
- Re: ハオのウィザード【明賀 鈴に改名しました】 ( No.14 )
- 日時: 2016/06/14 17:55
- 名前: 明賀 鈴 ◆kFPwraB4aw (ID: YgiI/uLg)
七時四十分を告げるチャイムが鳴る頃、約十五分の道のりを経て諸見里は校門前にたどり着いていた。
中庭の向こう側にそびえ立つように立っている校舎を見上げながら、諸見里は胸の前でぎゅっと拳を握りしめ、心に誓った。
「新しい出会いを、必ずこの手でゲットしてみせる! 待っててね美香さん!」
星占いの担当ニュースキャスターの名前を噛み締めるように呟くと、彼は再び「新しい……出会い……」妄想の世界へトリップし始めた。
「どんな子なんだろうか……いやそもそも新しい出会いというだけあって女子学生だとも限らないんじゃ……いやいや、何を言っているんだ自分。弱気になるな自分。美香さんを信じろ、美香さんは正しい。でも……女子生徒が……ぎゃんっ」
諸見里は校門前でひっくり返っていた。そんな彼を物珍しそうに登校中の生徒たちが眺める。諸見里は制服についた埃を払い、落としてしまった眼鏡をかけ直すと、すっくと立ち上がった。
「何なんだ、いったい……!」
そこまでだった。
彼の目の前に、赤みを帯びたショートボブの少女が立っていた。胸ポケットには諸見里の見ている制服と同じものが刺繍されている。それで彼女がこの学校の生徒なのだと、諸見里は瞬時に理解した。
しかし、彼女は学生鞄とともに、おそらく少女の肩までありそうな長い棒状のものを布に包んで所持していた。剣道部か何かかな、と、諸見里はその時はそう思った。
とにかく、その女子生徒はくるんと大きな黒い瞳を瞬かせ、諸見里をじっと見つめた。
「ごめん。ぶつかっちゃった……大丈夫? かな」
愛らしい唇から、鈴の音のような声が漏れ出る。
瞬間、諸見里の脳内で今朝の星占いの結果がぐるぐると駆け巡っていた。
新しい出会いが……新しい出会いが……新しい出会いがあるでしょうっ!
「美香さん! 君の言葉は正しかった!!」
諸見里は朝のテンションのまま叫ぶと、身を乗り出すようにして少女に言った。
「あのだね、君。よかったら名前を聞かせて……」
「あっ! もうこんな時間だよお。羽織行かなくちゃ。校長も待ってるし。じゃ!」
可愛くピースサインをすると、少女はそのまま校舎の方へと駆けて行ってしまった。
一人取り残された諸見里は、しばらくその背中を追っていたが、すぐにその後を追うのだった。