コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- LEGEND CHILDREN episode:1 ( No.5 )
- 日時: 2016/02/10 21:43
- 名前: 葉桜 來夢 (ID: q9MLk5x4)
「あ〜早く終わんねぇかなぁ……」
本日三時間目の授業、『魔法薬学』の授業でジャーマはそんな言葉と共に、
恐ろしく大きな溜め息をついた。
先生に聞かれていたらどうする、という考えは微塵も頭の中に無かった。
「あはは、ジャーマは魔法薬学苦手だもんねぇ」
そう言って壺の中に調合するための材料を放りこんだのは彼のクラスメート、『リヒト』である。
普段は物凄い穏便で争い事を好まないという印象だが、
いざ戦闘になると両手に剣を握って高速で敵を薙ぎ倒していくという……
そんな噂を彼は耳にしていた。
だが常に笑顔の絶えないリヒトと話してると、そんな噂は誰か恨みを持った奴が流したのかとしか思えないぐらいに嘘っぽい。
「ゴホン。ジャーマさん?何をぼんやりしているのかしら」
そんな物思いに耽っていたので、後ろから先生が迫っていることに全くといって良いほど気がつかなかった。
「あっ……その……何と言いますか……」
そこまで彼が言ったところで教室に轟音が鳴り響いた。
そのせいでざわつく教室。
先生は素早く、取り敢えず火を止めて、と落ち着いた声で呼び掛けた。
「な、なんの音かな……?」
「確か今日他のクラスで炎使った実験やってたじゃん。それかもよ」
「え、何なに爆発とか??ありえな〜い」
そんなクラスメートの女子の声が聞こえる。
最後の奴はもう完璧に面白がっていた。
(これは……これは炎が爆発する時に起きる轟音じゃない)
彼は直感でそう思った。
彼は炎を操るのを得意とする、『火属性』と呼ばれる魔法使いだ。
爆発なら幼少期から何度も起こしてきた。
だから分かるのはこの音が爆発の音じゃないことと、何だか嫌な予感がするということぐらいだ。
「ね、ねぇジャーマ」
先生が外の様子を見に教室を出て行った時に、リヒトが言った。
「……これただ事じゃなさそうだよ」
どうやら隣にいるクラスメートも同じ考えだったらしい。
「やっぱりか。俺もそんな気がするんだよなぁ……見に行くか?」
「でも先生が教室から出ちゃ駄目って……何それ」
「ああ、これか?光学迷彩……?とかいうやつ」
彼が取り出したのは、何かの小さな装置だった。
「光学迷彩?」
「おう。ちょっと見てろよ。ほれ」
彼が装置に付いてたボタンを押すと、なんと彼の右手が透けてしまったのである!
リヒトも目を白黒させながら消えてしまった彼の右手があった場所をまじまじと見つめていた。
「え!?何が起こって……!?」
「いや、俺も良くわからん。けどなんかボタンを押したら体が透けるっていう装置みたいだな」
彼がボタンをもう一度押すと、右手が元に戻った。
「おぉ……」
リヒトから感嘆の声が上がった。
彼は凄い得意気にしている。そしてこう言った。
「さて、本題に移ろうか」
「というと……?」
彼はその問いに口角を上げながらこう答えた。
「コイツで、音を出してる元凶を探りに行こうぜ?」
<続>
- LEGEND CHILDREN episode:2 ( No.6 )
- 日時: 2016/02/11 14:41
- 名前: 葉桜 來夢 (ID: q9MLk5x4)
ジャーマは意気揚々と先を進んでいってる……のだろうか。
光学迷彩を施されている今、彼の体も、自分の体さえもリヒトには見えなかった。
まるで自分の目だけがそこに浮いているかのような不思議な感覚だ。
ただ、そんな状況下ではお互いの居場所が分からなくなってしまうので、彼とリヒトは手を繋ぎながら音のする方へ向かっていた。
「やっぱり実験室じゃなかったな」
彼のいる方から声が聞こえる。
やはり爆発の音じゃないという彼の勘は合っていたようだ。
「じゃあ何のお……」
そこまでリヒトが言い掛けたところでまた轟音が鳴り響いた。
それに合わせるかのように地面が揺れる。
「揺れてる……のか……?」
「じゃあ地下ってことかな……?でもこの学校に地下室なんて無くない?」
「それだ!地下室だ!でかしたリヒト!」
彼は今物凄いわくわくした顔をしてるんだろうな、とリヒトは思った。
そしていきなり手を引かれた。
「う、うわああ!?」
「さぁ行くぞ!元凶探しに!」
「だからこの学校に地下室なんて……わっ」
リヒトが驚くのも当然である。
彼がいきなり止まったのは何の特徴もない棚の前だったからだ。
「よし、そっから動くなよ」
「う、うん……」
彼はそう言うと手を放し、それから棚が勝手に動き始めた。
大方彼がずらしているんだろう。
棚を完全にずらし終わると、そこには穴が開いていた。
地下に伸びている階段まである。
「なっ?地下室、あっただろ?」
「さすがジャーマ……先生より学校に詳しいって嘘じゃなかったんだね……」
「まぁな。よっし、じゃあ地下に行くぜ!」
そう言うと彼はまたリヒトの手を握った。
二人はそのまま地下に降りていった。
「……ったく、何してんのかと思ったら……」
そんな一部始終を教室からつけてきていたニックスが目撃していた。
決してストーカーではない。
「にしても、棚の下に階段だなんて……見つけるアイツもアイツだけど、誰が何のために作ったのかしら……ん?」
ニックスの足に何か硬いものが当たった。
それはさっきジャーマが落としてしまっていた、光学迷彩装置だった。
これが無いとジャーマは透明のままである。
それも地下となると結構危ないだろう。
「あの馬鹿……にしてもこんな装置、今まで何してるか分かったもんじゃないわね……」
また轟音が鳴り響いた。
そしてそれに混じって何かの声が聴こえる。
「ジャーマの声……?もう、どうすれば良いのよ……!」
ニックスの手には今装置が握られている。
……これを使うのは気が引けるが仕方がない。
「……届けに行くってことにしとこうかな」
そう言って彼女はスイッチを押し、地下に続く階段を駆け降り始めた。
<続>