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Re: Hello,world! ( No.4 )
日時: 2016/01/09 21:12
名前: 海の幸 (ID: n2LUyceb)

「よっ、夜明……!お前また学習道具を持ってきていないのか!」
「はい」
「真っ先に立ち上がるだなんて流石俺たちの夜明だぜ……!」

 時刻は普通の学校でいうところの朝のHR。
 担任の先生は毎日のように学習道具を持ってきていない夜明を見て騒然としている。何事な内容に席から立ちあがる夜明を見て他のクラスメイト達は騒めく。
 その視線は、尊敬と似たようなものだ。
 そんなクラスメイトのことなど露知らず、先生は夜明に追求する。

「夜明……。お前のそのフリーダムさは世の中の人間には持ち合ない才能だ……それは素晴らしい。だが、ここは学校だ。学習道具がなくては何も始まらない。いくら遅刻がなくなったところで何も解決しないのだ」
「先生。私はそうは思いません。確かに、学校には学習道具が必要不可欠です。ですが、私は教科書通りに生きる必要はないと思います。もし、教科書通りに生きてしまったら人々の個性や価値を失う。そう思うからです。なので、あえて私は道具を持ちません。持つのは非常食だけです!」
「さすが夜明!俺たちのハートに響くぜ」

 クラスメイトがエキサイティングした瞬間だった。
 じっと真っすぐ、夜明は教師を見つめる。
 その視線に————教師は折れた。

「ブラボー———!!夜明、お前の回答は500点満点だ!!!!」

 勝負には勝った夜明だが、感激してキースに電話を掛けた教師の無邪気な計略によって彼女がお叱りを受けるのはまた別の話である。








***
「やれやれ、今日もやっと学校が終わった。帰ったらバターどら焼きでも食べるかな」

 放課後、学校が終わり、ジークリンデ財閥の屋敷へ直行する夜明。
 相変わらずでかい屋敷だ、ワッツにはもったいないと失礼なことを思いながらも足早に屋敷の裏口から入る。
 今日のおやつは滅多に変えない代物、高級バターどら焼きが食べられる。
 そう思うと足取りは自然と軽くなる———はずだった。

「待て夜明」
「?何、キース」
「そこに正座しろ」
「何で」
「今すぐにだ」
「御意」

 背後にて、禍々しいオーラを感じた。
 このオーラは嫌というほど知っている。低く唸るような声。
 そしてこのオーラ。紛れもなく執事長、キースのものだった。
 廊下のど真ん中というのに、彼は夜明を正座させた。
 正直、夜明にはこんなことをさせられる思い当たりのあることしか思い浮かばない。

「なんのことか——わかっているのか?」
「黙秘権を行使します」
「今日、担任から電話が来た。『教科書なんかなくてもいいという持論がこんなにも心に響くだなんて、流石ジークリンデ財閥の用心棒だ』という内容のな」
(……ちっ。ハゲ松め……)

 顔を背け、夜明は心の中で舌打ちをする。
 ちなみにハゲ松というのは、夜明の担任教師は50代後半の高齢教師で、頭部が剥げている。そして、松山という苗字なため、みんなからハゲ松と呼ばれていた。
 あくまでクールに、目の前にいるイケメンは懐から5万円ぐらい取り出すと、夜明の前に差し出した。

「……こんなことではジークリンデ家の名誉に傷がつく。いいか、明日筆記用具だけでも買って来い」
「御意」

 いつもは暴君、バーサーカー、暴れん坊将軍とあらゆるところで恐れられている夜明だが、唯一逆らえないものがある。
 それはこの目の前にいるキースである。
 この言葉の前では夜明は「御意」しか答えられない。
 ちなみにワッツは、

(うわ、奇妙な光景)

 こっそり壁に背中を預けながらリスティングしていた。