コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 短編集 《 4. 更新 》 ( No.10 )
- 日時: 2016/01/24 16:19
- 名前: 納豆 (ID: EugGu6iE)
「洸ちゃん数学教えて!!!!」
空はもう真っ暗で、時間は8時を示していた。
ベランダの窓を勢いよく開けて、痛いほどの数式を書いたノートを見せつけるかのように開ける。
その前には、勉強机に向かいながら呆然としてこちらを見ている洸一の姿があった。
少し間を置いて、洸一はゆっくりと持っていたシャーペンを机に置いて、『入ってきていいよ』という合図の手招きをしてくれた。
私は勢いよくお辞儀をして、洸一の部屋にドカンと座った。
すると洸一はジトッとした目で私のことを凝視。
「なに…『洸ちゃん』って。鳥肌立つわ」
「いいじゃん昔そう呼んでたじゃん!」
はあ、と洸一はため息をつきながらも、淡々と数学の解説をし始めた。
私はベッドの隣に有る折りたたみの椅子を机に近寄せ、頬杖をついた。
私はあまり頭が良くない。ある程度運動ができるくらいの運動神経で、ごく普通にいる女の子。
そんな私に対して、幼馴染の洸一は成績優秀、運動神経は抜群な完璧な男の子である。
しかも無口で硬派なところが、女子からの絶大な人気を誇る。
洸一とはマンションの部屋が隣同士で、ベランダをいつも飛びこえてこんな風に夜でも勉強を教えてもらっているのである。
幼馴染という特権があり、人見知りで無口な洸一が私には心を開いてくれている。
そのことに、いつしか特別感を覚えるようになった。
毎日会っているのに、何故か不意に会いたいと思う。
洸一が女子から人気があることは昔からなのに、そのことが何故か嫌だと感じてしまう。
今、女子の中で唯一私が勉強を教えてもらっているこの立場が、とても嬉しく感じてしまう。
この想いが恋というものなのだろうか。
そう思いながら、スラスラと話す洸一の顔をジッと見つめてしまう。
「〜〜で、〜〜になるから、こうなる。わかった?」
「んーー。あんまり」
「じゃあ塾行け」
「それはやだ。めんどくさい」
だからお前は馬鹿なんだ、と言うような嘲笑を浮かべる洸一。
ふと、洸一の手のこうを見ると、何やら油性で書かれた相合傘のようなもの。
とても汚い字である。学校の友達に書かれたのだろうか。
しかし、その片方の名前を見ると、見覚えのない名前があった。
「洸一ってば。好きな人いるの?」
違和感を感じさせないように、ニヤニヤと口角を上げて言う。
相合傘の名前が私の名前ではないことに、少し不安を浮かばせながら。
その揶揄を聞いた洸一は、咄嗟に手の甲を隠し始める。
その瞬間、心の奥にズキンと痛みが走る。
「え、もしかしてその手の甲の名前の人?」
「…塾の友達だから。他校だし志帆は知らないだろ」
と、頭に優しくチョップを入れられる。
洸一はきっと自覚していない。
手の甲を隠した時の洸一は、頬を赤く染めていたことを。
そのなんとも言えない洸一の赤面が頭に強く張り付いて、自分がどれだけ洸一に好意を寄せていたかを痛いくらいに思い知った。
**
次の日の休日、洸一は風邪で寝込んだ。
冷蔵庫にあった有名なお菓子屋さんのプリンの箱を持ってベランダに出る。
私がいつものように隣のベランダを乗り越え、
窓を開けると、苦しそうに咳をしながら私を見上げる洸一。
「中学生にもなって風邪とか珍しいね」
「…俺は馬鹿じゃないからな」
笑いながらゴホゴホ、と咳をする洸一。
洸一の額に貼られている冷えピタがすごく懐かしい。
風邪をひいたのはいつ以来だろう。
そう思いながら、折りたたみの椅子を取り出し、
洸一の目の前に座る。
洸一は睡魔に襲われているようで、少しウトウトしている。
「眠いなら寝たらいいじゃん」
「…おう」
私が笑うと、洸一は目を閉じてそう言った。
風邪のせいか、洸一は1分も経たないうちに意識を飛ばしてしまった。
ふと、昨日洸一の手の甲に書かれていた名前のことを思い出す。
「…あかりって誰なの…」
自分にしか聞こえないような、とても小さな声で呟いた。
私は洸一にとってただの幼馴染にしか過ぎない。
なのに、その洸一の近くにいる女子がとても気になる。
言葉にならないような不安と、苛立ちが私の心を貪り食べているよう。
私はベッドに頬杖をついて、洸一の額を軽く弾いた。
洸一は動じることなく爆睡している。
幼馴染の私を、女として見てくれることはあるのだろうか。
きっとこの人生の中で一度もないかもしれない。
だって私たちは幼馴染なのだから。
物心がつく前から一緒に育ってきた兄妹のような関係なのだから。
でも、そんな関係を打ち壊してまで、私のことを意識して欲しいと思ってしまう自分が居る。
私はもう一度、とても小さな声で呟いた。
「…こんなに好きなのに何で気づかないの…」
**
5. " 好きなのに "
柏木 志帆 Shiho Kashiwagi (14)
星川 洸一 Kouichi Hoshikawa (14)
今までのものが長すぎたので、無駄な部分を省いたら
すごく短くなってしまいました…(´・_・`)