コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 短編集 ( No.5 )
日時: 2016/01/13 22:06
名前: 納豆 (ID: Fa9NiHx5)


「叶センパイ!今からパンケーキ食べに行きましょうよ!奢りますから!」

運動部の掛け声が少しずつ静まって行く。
辺りはもう真っ暗になった、冬の6時半ごろ。
体育館の前で靴を履いている先輩に呼びかける。
その声に反応した先輩は少しビクッとして、俺の顔を確認すると、ため息をつきすごく嫌そうな顔をして階段を降りてきた。

「またお前かよ…」
「そんな嫌そうなカオしないでくださいよ〜」

呆れた顔でそう言われるのも毎日のことだ。
先輩は同じバスケ部での2年生で、違う先輩と話している時からよく話すようになった。
先輩は少し変わっていて、あの女子特有のキャピキャピ感がどこにも見当たらない。
髪も短いし、声だって一般的な女子より低くて、
女子っぽく感じるのは身長が平均より低いところしかなかった。
そんな先輩が少しだけ気になって、俺は先輩の自主練習の時間を合わせるようになってしまった。
どういう偶然か、乗る電車も降りる駅も同じ。
一度一緒に帰ってから、先輩と一緒にいれるのが楽しくて嬉しくて、なので毎日こうして話しかけているのだ。
今日はパンケーキを食べに誘ってしまったが、「奢る」というワードに弱いのか、先輩は嫌々ながらも着いて来てくれている。

「新作のキャラメルスフレパンケーキ!あれめっちゃ美味しそうじゃないですか!?」
「すごい甘党なんだな」
「味覚は女子ってよく言われるんすよ〜」

俺はきっと目を輝かせていたのだろう。
そんなバカみたいな俺の姿に、フフッと笑う先輩。
その笑顔に、少し顔が熱く火照る。
やべ、と咄嗟に違う方向を向いて続きを話す。
チラと先輩を見ると、俺の話を聞いてまた笑っている。

ああ、この笑顔が好きなんだよ。

そうして会話が弾んでいるうちにパンケーキ屋についてしまう。
席も取れて、注文もして、あとはパンケーキが来るのを待つだけ。

「や〜もう楽しみっすね早く食べたいです」
「本当女子みたいだなー」
「先輩より俺の方が女子力高いんじゃないすかね」
「はいはいそうだね」

むすっとした顔で受け流される。
その表情がおかしくて笑っていると、お目当のパンケーキが。
とても美味しそうに食べる先輩。
むすっとして目を細めた顔、笑った顔、美味しそうに食べる顔、幸せそうな顔。
それら全てに、今までにない『キュン』という胸の高鳴りを覚える。
この感情が本当の恋なんだということを、俺はまだ知らない。


「南雲ってさ、叶のこと好きなん?」

バスケの先輩のその一言に俺は磨いていたバスケットボールをボトンと落とす。
その一言を聞いた同期や先輩が、

「えっえっマジで!?」

と騒ぎ立てる。
どんどん顔が熱く火照る。
そんなことないです、ときっと説得力0の言葉を放つ。
その様子をみた同期と先輩は、にこやかと笑い、

「南雲、応援してるぜ」

声を揃える一同。
否定できないその言葉に少し苛立ちと羞恥を感じ、

「れ、練習しなきゃですね!!」

と、咄嗟に落としたボールを必死に磨き続けた。
ヒューヒューという中学生らしい野次が聞こえてきた。
先輩の顔を浮かべるだけでドキドキしている自分がいて、これが先輩に対しての恋愛感情なのだと、初めて自覚した時である。



**



「ねー叶、あの南雲って奴とはどういう関係なのよ」
「ただの後輩だけどー」

翌日の放課後。
頬杖をついてジトッとした目で見て来る咲希。
昨日一緒にパンケーキを食べに行ったことを誰かが見たらしい。

「あの南雲ってコ、1年の中では大分モテてるんでしょ?もしかして叶のこと好きだったりして〜」
「あーないない」

教材をカバンに入れながらスラリと返事をすると、咲希はまたジトッとした目でこっちを見て、もう帰るねーと言って教室を出て行った。
確かに南雲は、顔立ちが整っていて明るくて、誰からも好かれそうな人柄だなぁと思い返す。

そんなひとがもし私のことを好きでいたら?

ないない、と自分の中でかき消すが、どこが心の奥で少しでも望んでいる私がいた。
教室には私1人だけで、教室を出ようとすると、
バスケ部の男子が入ってくる。

「お、叶じゃん」
「よお」

その人は忘れ物を取りに来たのか、机の中をあさっている。
私が教室を出ようとした瞬間、ふいに呼び止められる。

「あ、そういえば南雲って叶のこと好きらしいぜ」

ピタッと足が止まる。
南雲?叶のこと?好き?
その言葉が頭の中にこびりついて、混乱する。
なぜか顔がとても熱い。
その男はニコッと笑って教室を走って出て行った。
赤面のまま1人残され、理解ができず混乱していると、
そこに南雲が通る。

「あ!叶センパイ!」

そう呼び掛けられた瞬間、体がボワッと熱くなる。
何故だろう。真冬にこんなに暑さを感じるなんて、感覚神経が狂ったのだろうか。
呆然として立ち尽くしていると、南雲は赤面した私の顔を見て、

「えっどうしたんすか!?熱でもあるんすか!?」

と、冷たくなった手を私の額に当て始めた。
南雲の手は冷たいのに、またまた熱くなる。
そして頭の中に出てきた「好き」という単語。
南雲は私のことが好きで ー …
そう考えると熱くなる一方。爆発してしまいそう。

「熱はないですけど…どうかしました?」

俯いた顔を覗き込まれ、目を見て来るが、
意識しすぎて目を逸らしてしまう。

「ちょ、何で目そらすんすか」

苦笑を浮かべる南雲。
今まで好きだと言われてこんなことにはならなかったのに。
私が言葉も出なくて黙り込むと、南雲は何かを思い出したような顔をして、顔色をどんどん赤く染めて、目線をそらされる。
チラと私の方を見て、

「もしかして…先輩から聞いちゃいました?」

コクリと頷くと、南雲は項垂れた。
熱が冷めてきて、南雲の顔をしっかりと見るが、これは一体何の病気なのか、またまた熱くなってしまう。
その様子を見た南雲は、

「叶センパイのそんな赤面した姿、初めて見るんですけど…もしかして叶センパイも…」

そう言われた途端、逃げ出したくなるくらいに熱く火照る。
続きは言われていないのに自分で予測してしまい、とても恥ずかしい。
赤面しながら目を逸らし続ける私を見た南雲は私に近寄って、

「…俺は、好きですよ。最初話した時から多分…」

まっすぐに目を見てそう言う。
無性に恥ずかしくて直視できない。目をそらすと、頬に手を添えられ強引に目を合わせさせられる。

「センパイは、どうなんですか」

恥ずかしくて仕方がなかった。でも、こんなに赤面するということは。今更やっと自覚し始めた。

「…私も…同じかも」

そう言うと、南雲は、あのパンケーキを食べた時よりもずっと幸せそうな顔で微笑んだ。
その穏やかな笑顔に、胸がぎゅうっと熱くなる。



この後の部活では、お互い部員にどんな扱いを受けたかは言うまでもない。



**


3. " 先輩と後輩 "

朝原 叶 Kanau Asahara (17)
南雲 空 Sora Nagumo (16)


文字数大丈夫かなぁ、と少し心配(´・_・`)笑