コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 短編集 ( No.7 )
日時: 2016/01/18 19:14
名前: 納豆 (ID: i7z/PvOJ)

「ねぇ、玲司君。今日ね、みんなと遊ぶんだけどね、男子も来るんだって!」
「そうなんだ?楽しそうだね」

優しい笑顔でニコリと笑いかけるその男性に、
私は今日も項垂れる。

私の2歳年上の彼氏、玲司君は、私に妬いてくれない。
私がどれだけ男子と話しても、男子と遊ぶという嘘をついても、微動だにしない。
全く動じなく、そのことを話題にすらしてこない。
そう。それが私にとって今一番の悩みなのである。

なぜ妬いて欲しいかというと、
私が玲司君に対して嫉妬深いから…であり、何というか、もう少し束縛というものをして欲しいのである。
少女漫画でよくあるような、私が他の男子と話していると割って入ってきて欲しい(入ってくるわけがない)。
男子と話し終わった後、校舎の壁に押し付けられて何を話していたのか問われたい(問われるわけがない)。
私が男友達を含めたメンバーで遊ぶと言えば、何かと言い訳をつけて止めて欲しい(止められるわけがない)。
と、私の束縛願望はかなり出来上がっているのに、
玲司君は全くと言って私を束縛しないのである。
だからと言って、束縛という行為が嫌いなわけではなさそう。
私が玲司君に、できるだけ女の人と会わないでと言うと、快く守ってくれているし。まぁ、裏では姑息に会っているかもしれないが…
私から告白したから、玲司君は本当に私のことを好きでいてくれているのだろうか?と毎日不安になる。
今も玲司君と一緒に帰っているが、玲司君はとても可愛らしい笑顔で延々と愛犬の話をしている…。
モテているなんて、自覚していないんだろうなぁ…と思い、ため息をつくと、その様子を見た玲司君は

「彩乃、勉強わからないんだ?今日俺が教えてやろうか?」

と、笑いながら、わざとらしく頭をクシャクシャと撫でてくる。
確かに成績も危ういが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
どうにかしてでも、玲司君からの愛を確かめたいのである!

「あっ…えっと今日はクラスの子達とカラオケ行くの!」
「あ、そうなんだ。楽しんで」

そう言って動じずに微笑む玲司君。
ほら。断わっても、全然気にしてくれない。
ちょうどこの後の予定も埋まっていたし、今日も玲司君を妬かせる計画、実行するとしよう。




「みんな集まったー?」

友達の愛子が問いかける。
今日のメンバーは男女3人ずつ集まった。
みんないつも仲良くしている人たちでとても居心地が良い。
みんな揃ったので、駄弁をしながら愛子や男友達の先輩がバイトしているカラオケへ向かった。

「てか、大橋もきたんだ」

軽い足取りで歩く私に話しかけてくる男友達の翔。
高校に入学して、一番初めに仲が良くなった友達である。
私が来ることを知らなかったのだろうか。
翔とは何かしらと話が合い、いつも会話が弾む。
すると、前にいた愛子が振り向いて、

「ちょ、あれ、玲司君じゃない?」

と、前から歩いてくる男の人の集団を指さす。
私が目を細めてよく見てみると、それは愛子の言う通り玲司君だった。
愛子には玲司君が妬いてくれないことについて相談していて、把握してくれている。

「ちょっと翔に密着してみたら?」

と、愛子はニヤニヤしながらボソボソと小声で話す。
私は青ざめた表情でそんなことできない、と返事する。
もうすぐ玲司君と鉢合わせしてしまう。でも玲司君はまだ私たちに気付いていない。
この男子がいる状況でも何も言わない玲司君が、男子と密着という破廉恥な行為をして動じるのか?
そう思っていると、誰かに左肩を掴まれ、グイッと右側に寄せられる。
翔の手だ。

「なっななななな何の真似を」

私が動揺して離れようとしても、翔は私に向けてニコニコと微笑んできて、肩を組む手は一向に離れようとしない。
翔はなにか話題提示をして来ているが、男の人に触られるという経験が少ない私は動揺して話が耳に入ってこない。

「あ、玲司君ー!」

と、愛子や他の友達が明るい声でそう言うことだけが耳に入ってきて、玲司君が私の存在に気付いたことを確認する。
愛子や他の友達は玲司君以外の人とも話していて、その皆の間から、玲司君の視線を感じた。
バチッと、目が合ってしまう。
私は今彼氏でもない男の人に肩を組まれている状態。
その状況を思い出し、何故か罪悪感を覚え目をそらす。
愛子たちの話が終わり、玲司君たちは私の横を通り過ぎようとしている。
何か言われるかな。怖い。
そう思っていたが、玲司君は何事もなかったかのように他の友達と私の横を通り過ぎてしまった。
その瞬間、翔の手がすっと離れる。そして、

「こうでもしないと、玲司さん妬いてくれないでしょ」

と、何でもない顔で笑いかける翔。
まさか、愛子と小声で会話していた内容を察しられたというのか?
いや、こんなことされても妬いてくれないだろう…
と思いながらも、会話がまた弾んでしまい、カラオケに着いてしまった。


**


カラオケ着いて一時間が経つ。
愛子たちはかなり楽しそうに歌っている。
が、私はあまり乗り気ではなかった。
彼女が他の男の人と密着しているのにも関わらず、何も言わずに通り過ぎて行った時に感じた壁の暑さ。
きっと私の一方的な恋なんだろう…
と思い、ふと携帯をみると、メッセージアプリに1件の通知が。
何だろうと思い見てみると、

『俺も彩乃たちがいる駅前のカラオケボックスに友達と来たんだけど。今から出てこれたら出てきて』

と、玲司君からだった。
私は携帯をポケットに入れ、楽しそうにタンバリンを叩いている愛子に耳打ちで

「ちょっと行ってくる」

と伝えると、愛子はグッドサインを出した。


カラオケボックスの長い廊下を歩き、角で曲がると、
高身長の男の人に衝突する。
慌てて謝ろうとするが、ふと鼻をくすぐったのは、覚えのあるライチの香り。

「すみませ…………………………玲司君?」

顔を見上げると、見覚えのある整った顔。
見下げていたのは玲司君だった。
玲司君は、私の顔を確認した途端、いきなり強く私の手を引っ張り、
近くにあった車椅子用トイレに拉致された。
鍵を閉められ、玲司君は私をドアに押し付けた。
これが所謂、「壁ドン」というものか!!
心の中で感激していると、

「ねえ」

今までで一度も聞いたことがない、玲司君の野太く低い声。
それは今不機嫌であるということが、誰が見てもわかる雰囲気を漂わせていた。
いつもの微笑む玲司君の顔はなく、なぜかとても恐い顔をしている。
その顔を見て突然恐怖を覚え、無意識に手が震え出す。

「男もいるなら、そう言ってくれればいいのに」

ニコリと笑う玲司君。しかしその表情にいつもの優しさはなく、目が笑っていない。

「…ご、ごめんなさい」

声が震える。目の前にいる人は私の大好きな人なのに、声と表情が違うだけでこんなにも違うなんて。
鋭い目つきで見つめられ、恐怖で直視できず、目を逸らしてしまう。
すると玲司君は視線を逸らしたほうの壁に片方の手を押し付ける。
本来はときめくシチュエーションのはずが、今は恐怖でしかない。
手の震えは止まらない。その時、

「……肩組んでたの、だれ?」

と、さっきより少しだけ優しくなった声で言う玲司君。
そして、その玲司君の不安げな表情が入り混じった優しい顔を見て、私は心臓がとても熱くなる。

「え…と、ただの友達だよ…?」
「あのとき、肩組む必要あったの?」
「…あ…あっちがいきなり組んできたの」

この不安げな声で尋ねられる質問。
私自身に見覚えがある。

私が玲司君に対して、ヤキモチを妬いたときにした質問と、全く同じ形だ。

そう確認した瞬間、もっと心の奥が熱くなり、顔がどんどん火照るのがわかる。
その様子をじっと見つめてくる玲司君。
私は玲司君の目を見て、

「…玲司君もしかして……妬いてるの?」

と尋ねると、玲司君は少し頬を赤く染めて目を逸らす。
図星を指された時の、玲司君の癖。私はついに優位に立った。

「……妬いてないから」

頬を赤く染めて、不満げに呟くように言う玲司君。
その少しだけ子供っぽい表情と、私が翔に触られていた肩を片手で掴んでいる玲司君を見て、とても愛しく思い顔が緩む。
その私の顔を見た玲司君は、

「2歳も年下のくせに生意気」

とまた私を見下し、私の顔を引き寄せて唇を重ねられる。
そのキスは徐々に深くなっていった。
その初めての体験に、どうしたらいいのかわからずされるがまま、しかし呼吸がしにくくなってくる。


「……っ」

吐息が玲司君の口内にかかり、それに気付いた玲司君は唇を離す。
玲司君は、私に気を遣わせないように、私が男の人と話しても何も言わないようにしていたのだろうか。
あるいは、私より2歳年上だから、と強がっていたのだろうか。
「ヤキモチを妬かれる」という体験は、私が想像していたものより遥かに、愛してもらっていると実感が湧くものだった。


このあと、愛子と翔が裏で計画を立てていた事を知った。


**

4. " ヤキモチ "


大橋 彩乃 Ayano Ohashi (16)
日比野 玲司 Reiji Hibino (18)