コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺と少女の1日ミッション ( No.5 )
- 日時: 2016/03/31 13:43
- 名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)
で、その日は何事もないように普通に過ごされた。過ごしてしまった。
「これは──まずいな」
俺はクラスメイトが帰るか、部活に行ったかで誰1人いなくなった教室で、窓際の机に腰を下ろし、窓側の方向を向き、虚空を見つめるようにしていた。
そんなところに今日の朝、聞いたような気がするような、無機質な声が聞こえてくる。
「まずいですね。というか、なにいつものように平穏に過ごしているのですか。馬鹿なのですか? 今もこうして、放課後に1人教室に残るという、帰宅部と、放課後にセンコーから目ェつけられて反省文を書かされている生徒にしかできない所業をなしているわけですが、これからどうする予定なのですか、馬鹿」
「うお!」
突然だったので俺は少し驚いた。そのあとに、声の主を見つけようと右左を見る。
「てか、声の主どこだよ」
「ここです、ここ」
声の主が声でヒントをくれる。俺はそれを便りにキョロキョロする。しかし、見つからない。
「ここって言ったって、どこだよ」
「だからここだ。馬鹿だなやっぱお前は」
っぐっと、後ろ髪が引っ張られた。
「ぎゃっ」
俺はその物に抗えず、後ろに体制を崩される。
驚いて閉じてしまった目を開けると、朝に俺があと1日で死ぬと予言した女の子、優月がいた。優月は俺を見下すようにしている。というか、仁王立ちしていた。そして、呆れた顔をして俺を見ていた。
「…………お前、もう少し声の上げ方をどうにかしろ、というか統一しろ。なんか殴りたくなる」
「え? なんで?」
というか、俺そんな変な声上げてないと思うのだが。普通だと思うのだが。どうなのだろうか?
「なんでもだ、でも、お前どうする? このままだったらミッションをクリアできずに死ぬことになりますが」
優月は腕を組み、右手で自分の肘をとんとん叩きながら俺の目を覗き込むようにしてくる。
「なあ、今思ったんだけど、質問いいか?」
「なんでしょうか」
よっと、と言いながら勢いよく俺は体を起こし、立ち上がる。そして、優月のほうを見た。これで俺と優月は、机を1個挟んで、向き合う形になる。
「俺がそのミッションというものをクリアしなかった場合、どうなるんだ?」
「…………」
俺の質問を聞いた優月は黙り、少しの間、沈黙が生まれる。
そのあと、彼女の、俺を呆れてバカにしている顔が真剣な顔つきになり、沈黙を破った。
「………そんなの聞いて、どうするんですか」
「一応、できなかった時に知らなかったよりも、知っていたほうが荷が軽くなるかなと思ってさ」
少女は失笑する。
「今から、できなかった時のことを考えると? ほう、あなたはやはり馬鹿ですね、臆病者ですね、殻に籠ったままのただの雛鳥だ。ただ、電話をかけて、声を使って好きだと、あの、麻川結にこくればいいというだけの簡単なミッションなのに」
「お前、告白ってそんなに簡単にできるものじゃないぞ」
優月はまるで花が咲いたように綺麗な笑顔を浮かべた。
「え、できますよ。酒とか飲んだら一発です」
「お前、未成年は酒ダメだから」
死ぬ前に違うところに連れていかれてしまう。
「知ってますよ、冗談です。でも、まあいいでしょう」
「え?」
なにがいいのだろう? え? 酒を飲むこと? そんな俺の考えがわかってかどうだかわからないが、優月は溜息をつき、呆れた顔をする。
「何自分で、え? とか言ってるんですか、自分から言いながら。あなたがミッションに失敗した時のことを教えることを、いいと言ったんです」
「え? マジで?」
「マジです」
これは驚きだ。てっきり教えてくれないと思った。
「けれど、知ったところでどうこうなる問題ではないので。そこらへんは頭に入れといてください。現実逃避をしないでしっかりと受け止めてくださいね。でもまあ、このぐらいは馬鹿なあなたでもできますよね」
「ああ、できるよ」
そうですか、良かったです。と少女は微笑み、真面目な顔つきになった。
「では、言いますよ」
「おう」
「あなたは、ミッションをクリアできなかった場合、あなたの1番大事な人を、あなたが1番思っている人を道連れに、地獄に落ちます」
は?
「これが、あなたがミッションを決行できずに死んでいった場合にあなた様の身に、身の回りの誰かに起こることです」
- Re: 俺と少女の1日ミッション ( No.6 )
- 日時: 2016/08/13 06:23
- 名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)
…………? 彼女は何が言いたい? 俺が死ぬのはまだいいだろう、だが、身の回りの誰かとは? 家族? 友達? それとも──。
「なあ」
「はい」
少女は真顔のまま、まるでロシア人形のように表情がない顔で俺の言葉に反応する。
「その、俺が道連れにする人って誰なんだ」
「さあ。それはあなた様が知っていると。“1番思っている人”ですよ? それはわかりきっているではありませんか。頭のいいあなた様なら、わかりますよね」
「…………」
俺は黙る。
「大丈夫ですよ。だって、そんなことは起こりません」
「え?」
起こらない? ならば、いまのは──嘘?
「これは、嘘なのか?」
「いえ、本当ですよ。あなた様がミッションをクリアできない場合は、1番思っている人が、あなた様の道連れになって死にます。しかし、それを回避する方法は簡単ですよ」
「…………」
「だた──麻川結に告ればいいのです」
だからそれが思春期の男子にとっては、どれ程無理難題なことだと、こいつはわかっていっているのか? と、俺が言おうとしたとき、優月の顔が辛辣なものになった。
「あ、やっば」
「どうした?」
今日会った間柄で言うのものなんなのだが、1度も見たことのない、辛辣な、まるで全身串刺しにされたかの如く、苦しい表情の優月に俺は心配する。
そしたら、自分の顔の重さに気づいたのかよく解らないが、優しく優月は俺をじっと見て微笑んだ。少し惚れてしまいそうなぐらい、可愛い笑みだった。
「いや、少し所用を思い出しまして。ちょっと行ってきます」
俺ははっとして、優月を止めようとする。
「え? ちょっ! 待てよ、まだ言いたいことが………」
「グダクダだ言ってないで男なんだから女々しいこと言うな! 女子か? お前は! ということで、私は少しここから離れますが──」
そこで優月が俺のとなりに来た。そしてバンッとなんか破裂したかと思うぐらいの音がでるほど、勢いよく俺の背中を叩いた。
「痛ってぇ!!」
俺は思いっきり叫んでしまった。しかし、少女は不敵な笑みを浮かべ、俺を激励してくれた。
「頑張れよ、叶佑!」
そのあと、優月は走って何処かに行ってしまった。
また、俺は家に帰りもせずに、今度はさっき腰を掛けていた机に寄りかかって虚空を見つめていた。
そんなときだった。また、聞き覚えのある声がした。
「あれ? 一宮くん? どうしたの、そんなぼけーっとした表情で」
「あ、麻川……」
声の主、麻川は俺の顔を不思議そうに見ながら、俺の右隣に立っていた。
やばい。これはやばい。何であいつが今いる? おかしくないか? 私は今、叶佑が通っている学校の屋上に入る。なぜかというと、さっき、叶佑と話しているときに見てしまったのだ。いま、ここにいてはいけない“あいつ”の姿を。
「おい! どこだ! おい!」
私は叫ぶ。あいつがいられても非常に迷惑なだけだ。
「そんなに叫ばなくても、僕はここにいるよ」
上の方から声が聞こえた。声がしたのは上空だった。私は上を見る。外は曇りで、雨は降りそうになく、少しだけ太陽がちらつくような空だ。
なんとも曖昧な、そしてあいつの性格を表しているような空で私は居心地が悪くなる。
「っち……」
私は声の主の姿を目で捕らえ、舌打ちをした。
呑気に宙なんかに浮きやがって………。
「えー、舌打ちなんかしないでよー。カナシイジャーン」
声の主はヘラヘラと笑う。まるで何かの劇を見てるみたいに。
「全然悲しそうに見えないがな。死神」
「まあまあ、そう言うなよ、闇に落ちなかった幽霊よ」
私が冷たくいい放つと、死神も一瞬氷のような表情になりそのあと、またヘラヘラとした顔に戻った。
そう、彼は死神。私利私欲で大鎌を持って人間の魂を狩り、我が物顔でその狩った魂で遊ぶ死神。私が大嫌いな生き物だ。服装は手や足が隠れるほどのブカブカの黒いコート、下の服もやはり黒い。
期待を裏切らない、日本人が死神を想像して思い浮かぶ格好だ。と言っても顔だけは立派な人間だ。言いたくはないが、イケメンだ。外国人顔だ。というか、ハーフ顔だ。このやろう。むかつく。
私は死神を睨む。
「おい死神、なぜ今度の狙いをあの男にした?」
「おや、いけないかい?」
今にも腹を抱えて笑いそうな死神に対し、私は淡々と、機械のように反論する。
「人間の命を、私利私欲の為だけに狩ること事態がいけないことだ」
「あらまあ」
律儀だなあ、と死神はため息をつく。何が律儀だ。
「なぜ、あいつに?」
「気分だよ、き、ぶ、ん。大丈夫、ちゃんと君の予想であっているから。あと少しで僕はあの男の子と、たぶん居合わせるであろう女の子の命を狩る。楽しみだなぁ。わくわく」
自分でわくわくとか言った。ウザい。こいつの方が死ねばいいのに。
「おい、何でお前はそんなことをするんだ。なぜ、若い者の命ばかり狙う」
「楽しいからだよ! 若くて、青春を謳歌している人間ほど、魂を狩るのは楽しいよ。あ、僕は今からちょっとした準備をしなくちゃいけないんだった。今はこれでおさらばするよ。じゃあまた朝方に会おうね──」
そう言って、ヘラヘラと笑いながら死神は消えていった。
「くそっ」
私はフェンスを叩く。いくら幽霊でも私は物を触れる質だから。だから、人間らしく、と言っても人間ではないと思うけれど、せめて異邦人位だったらみえるから、そういうふりをして、私みたいな人が増えないように………増えないようにしなければ…………。
「叶佑、頑張れ」
私は、すべての感情を押し殺し、機械のようにポツリとそう呟いた。