コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 俺と少女の1日ミッション ( No.9 )
- 日時: 2016/03/31 14:03
- 名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)
やばい。これはやばい。死ぬのか? あと2時間で? まさか。
俺は隣にある人陰に視線を送る。そこには、かわいらしい寝息をたてて、目を瞑っている麻川がいた。とても幸せそうに寝ていた。
「本当に、こいつの顔は整っているよな。とても綺麗で、儚げで、力強く根を張っている花みたいだ」
そんなことを俺は呟く。
そういえば今日は親が出張でいないんだっけ? だから俺と麻川は寝落ちしてしまったのか。というか、
「俺、何してるんだよ。なに気ままにゲームなんかやってるんだよ。もっと早くミッションをクリアできる機会はあっただろう? なのに……」
待て、今、自分のことを責める時間があるのなら、こいつを起こさなければ。起こさなければ……。脳裏に昨日優月に言われた言葉が浮かぶ。
——ミッションをクリアできなかった場合、あなたの一番大事な人を道連れに、地獄に落ちる
「マジかよ」
俺は失笑する。おかしすぎる。
とりあえず、俺は麻川を起こすことに決めた。
「おい、麻川。起きろ」
俺は華奢な、少しでも圧力をかけたら今にも折れそうな体を、ゆさゆさと揺らす。
「うーん?」
「起きろ! 起きてくれ!!」
——死にたくないんだ。
まだ、本気で受け止めきれてない。だけれど、もし、本当だった場合、たぶん死ぬのは俺と、俺と麻川だ。どういう死に方をするのかわからない。わからないから怖い。だから、それを避けたい。
「麻川! 麻川!!」
俺は必死に麻川の体を揺する。
死にたくない。死なせたくない。そんな思いが頭の中の思考を砂時計のように降ってきて、埋めていく。お願いだ。起きてくれ。
「起きろ! 起きろ、麻川!」
麻川は寝起きが悪いらしい。起こし始めてから約1時間後。
「なに? わ、どうした!? 一宮くんなんで泣いて……」
麻川はやっと起きた。
「お前、起きるの遅い……」
俺は、泣いていた。絶望しか、脳内を制御していなかったからだ。もう、タイムリミットまで20分。終わりだと思ってた。
それでも俺は笑顔を取り繕う。
そして、俺の顔を見て跳ね起きた麻川を抱きしめた。
「!? うわ! すっごく体ふるえてるよ。ねえ、本当にどうしたの? もしかして悩みごとのこと? ねえ——」
「そう、悩みごとのことだよ。俺さ、昨日の朝の7時、今でも信じられないけれど、ある人に今だとあと20分、だから——その時の時点であと1日で、お前は死ぬって言われたんだよ」
声が震える。手も、足も、唇も、俺の身体と、俺から流れる音はすべてまるでケータイ電話のバイブ機能が発動しているみたいに、小刻みに震えていた。
そして、俺の言葉に対し、麻川が怒る。
「は!? 死——!? 嘘でしょ、そんなの。なに言ってるの。なに、ふざけ——」
俺は麻川の体を抱きしめたまま、言葉を遮った。
「ふざけてなんかない! ふざけてないんだ。本当に……言われたんだ」
「なんで? どこか体でも悪いの?」
だんだん麻川の声が曇っていく。反対に俺は、できるだけ声を明るくした。
「いや、身体に異常ない。ないんだ。だから、どうやって死ぬのかわからない。そして、こうも言ったんだ。俺の人生に後悔がないようにお前にはあるミッションをクリアしてもらうって」
「は、何それ」
「そしてこうも言われた。『ミッションをクリアできなかった場合、あなたの一番大事な人を道連れに、地獄に落ちる』って」
すると、彼女は呆れたように笑みをこぼした。同時に生暖かい、透明な涙も、流す。
「は、なにそれ、理不尽すぎでしょ」
「……だよな」
俺は苦笑した。本当にバカバカしくてしょうがない。
「……で、そのミッションって、なに?」
「密かに思いを抱いている女子に、告白すること」
「……。いるんだ。好きな人」
なぜか悲しそうにする。俺は、優しく、でも力強く言う。
「うん、いる」
「いるのに、私なんかを抱きしめちゃっていいの?」
「うん、いい」
「なんで」
「なんでって——そりゃあ——」
そんな時だ。俺の部屋のベランダに続く窓と、1部の壁が壊れた。
俺は部屋に勢いよく入り込んできた瓦礫や埃から、麻川を守るようにとっさの判断で抱き着いていた手を解き、覆いかぶさるようにする。
「きゃ!」
「ぐっ」
俺と麻川は壊された壁を見る。
そこには、月明かりに照らされ、不気味に光っている大鎌と、真っ黒い人影が存在した。
「はーい、タイムオーバーまであと10ぷーん! 迎えに来たよ。さあ、逝こうか、地獄に」
- Re: 俺と少女の1日ミッション ( No.10 )
- 日時: 2016/08/13 07:05
- 名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)
俺と麻川は幸いにもお互いに大きな傷はなかった。
俺はその黒い人影を睨む。
「お前、誰だ」
黒い影はニヤリと、とてもこちらが不安に、黒い何かに襲われているような感覚になる笑みをこちらに向けてきた。
怖くなったのだろう。麻川が俺の右手を両手で掴んでくる。
「僕? あの幽霊、今回も俺の存在教えなかったのか。全く、ひどいなあ」
幽霊? 誰だそれ。
「僕は、死神っていうんだよ」
「死神? それって物語に出てくる、生き物の魂を狩るっていう……」
「お? 知ってるのかい? でも、残念。死神はこの世に存在するよ。だから僕はここにいる、存在している」
嘘だろ。本当に死ぬのか。
「一宮くん……」
麻川さんは俺の手を握っている手の力を強くする。
「…………」
俺は、ここで告白したら、どうなるのだろうか。もしかしたら、彼女だけ。彼女だけでも助かるのではないのか? でも、そうしたら、残された彼女にはどうなるのだろうか。トラウマになってしまわないだろうか。俺のせいで。俺のせいで……。でも、それでも、彼女には生きていてほしい。
時間は、もう、無い。
「あと、5分。今回はどんな味がするのだろう? 楽しみだなあ」
死神の言葉に耳を貸してはだめだ。時間が無くなる。
俺は、麻川さんの目をじっと見つめる。
「ねえ、麻川さん」
「なに、一宮くん」
今、言わなければ。言わなければ、もう、チャンスは無い。俺は意を決して、言葉を紡ぐ。
「俺さ、1年前に出会って、たくさん話して、意気投合して、すっごくいい友達ができたと思った」
「うん」
声を震わせながら、目から涙を溢れさせながら、麻川さんは相槌を打ってくれる。
「でさ、そのうちお前のことを友達じゃなくて、違うものに見えてくるようになったんだ」
俺のその言葉で、麻川さんは、目を見開く。
「え?」
「俺さ、麻川さんのこと、好きだ。友達じゃなくて、女の人として。だからさ、俺と、一瞬でいいから、付き合ってください」
「……て……な」
「え?」
目を見開いたと思ったら、下を向いてしまった。どうしたのだろうか、やっぱり、俺が彼女に告白するなんて、やってはいけないことだったのだろうか。
「……なんていうな」
しかし、違った。彼女は、麻川結は、怒っていた。俺が告白したことに? 否、俺の言葉のある部分に。
「一瞬なんて言うな! 馬鹿! 私だって、私だってあんたのことが! いろんないいところを持ってて、それなのに自己評価がやけに低くて、自分に自信を持ってない、あんたのことが、大好きなんだよ! ずっと一緒にいたいって思ってたんだよ! 友達じゃなくて、恋人として! なのに——なのに! 一瞬なんて言うなよ! 諦めるなよ! 諦めないでよ! 私は、絶対やだ! お前とこの世で恋人になって、結婚して、お前と私の子供を産むの! そうしたいの! だから、そんなこと言うな! 諦めるなよ! 馬鹿!」
両思いだった。嘘だろう。俺なんかのことを、彼女は、好きだと、大好きだと言ってくれた。しかし、でも、昨日言われてしまったのだ。俺は、死ぬと。
「で、でも……!」
その時だ、ある声が聞こえた。
「ミッションクリア、直ちに死神を排除する。よく頑張ったな、叶祐それに、麻川結」
「え?」
その声の主は、俺と麻川の前に立っていた死神と名乗る男の後ろに佇んでいた。
とてもおかわいらしい少女の外見を持っている、見た目からは想像がつかないほどの大人っぽい声を持った者。……優月だった。
「あれ、幽霊。どうしたんだ? しっぽ巻いて逃げたと思っていたのに」
「は、ふざけるんじゃない。死神、お前は今回の人間は諦めろ。というか死ね」
「は? 何を言っている」
死神は、持っていた大鎌を構える、いや、構えているそぶりをした。なぜ、その表現になったか。それは持っていないからだ。さっきまで持っていたはずの大鎌を。代わりに、
「この大鎌凄いよな、これさ、死神をも殺せるらしいぞ?」
「!?」
優月はさっきまで死神が持っていたはずの大鎌を軽々と、片手で持っていた。
「じゃあな、地獄で閻魔にでもこき使われてろ」
そして、優月は死神を斬った。
「大丈夫か」
死神を斬った後、優月は俺たちに平然とした顔で問う。因みに優月に斬られた死神は灰のようになって消えてしまった。跡形もなく、消えた。そして、優月が持っていた大鎌もどうやら持ち主が死ぬと同時に消えるようになっているらしく、同じく灰のようになって消えてしまった。
「う、うん。でも、俺……」
死ぬんだろ? もう。
「あ、そうだ。ミッションおめでとうございます。そして、あなたはこの世であと数十年の余生を楽しんでください」
「え、待ってください! 彼はまだ死んじゃ……て、え?」
言い返そうとした麻川さんの顔がみるみる喜びに満ち溢れていく。
「この世で……数十年の余生を楽しんでください?」
俺は、ポカーンだ。
「もともと、お前が死ぬのは予定だったのはあいつ、死神がお前達の魂を狩ろうとしていたからだ。で、私はそれを阻止したかった。で、私はその死神に対抗するための奴の持っている大鎌を持つ方法が『その狩られる人間が本能で1番願っていることを叶えること』だ。で、お前はそのための手段であるミッションを見ごと本当にギリギリだったけれど、クリアしてくれた。そして、無事、死神を退治できた。だから、お前らは、まだ、生きていられる。生きられる」
「「…………」」
俺と、麻川さんは、少し言われていることが非現実すぎて理解ができなかった。
そして、その様子を見るや、俺が最初会った時のように、
「なんだ、理解ができないのか? だったらもう1回ゆうぞ。言えばいいんだろ? もともと、お前が死ぬのは予定だったのはあいつ、死神がお前達の魂を狩ろうとしていたからだ。で、私はそれを阻止したかった。で、私はその死神に対抗するための奴の持っている大鎌を持つ方法が『その狩られる人間が本能で1番願っていることを叶えること』だ。で、お前はそのための手段であるミッションを見ごと本当にギリギリだったけれど、クリアしてくれた。そして、無事、死神を退治できた。だから、お前らは、まだ、生きていられる。生きられる。はい、言ったぞ」
と言ってきた。
「「…………」」
俺と、麻川さんは、内容は理解できた。だが、嬉しすぎて何を言っていいのかわからなかった。
そして、ぶちっという音が聞こえてきた。
「おい、まだ言っても解らないのか。この男あって、やっぱり人間が好きになるものは似ているものが多いのだな。このやろう」
優月の頭には欠陥が浮き出ていた。めっちゃ怖え。俺は、慌てて宥める。
「優月! わかった! 理解できた! だから、優月は俺たちを助けようとして、わざわざあの無理難題なミッションを俺のほうに出してきたんだな!?」
「……まあ、そうだ。だから、もう、大丈夫だ。お前らは生きられる。まだ、幸せを体験できる。良かったな」
落ち着きを取り戻した優月はとても嬉しそうに笑って、そのあと、壊させた壁に触った。
「うわっ」
すると、あの死神に壊されたはずの壁が一瞬にして直った。というか、元に戻った。という表現が正しいのだろうか。とにかく、さっき壁が壊されたなんて思いもできないくらい、部屋中に舞っていた土埃は一つもなくなっていた。けれども彼女が戻したのはあくまでも建物のみのようで、俺たちが負った傷はなくならなかったが。
すべて元通りにした彼女は満足そうにしたあと、俺たちに話しかけ来た。
「よし、じゃあ、私は去るとする。あ、そうだ——」
それから、俺たちは普通に生きている。俺と麻川、改め結は、無事付き合うことができた。
優月は最後に自分が何であるか、どうしてこんなことをしているか、簡潔に話してからどっかに去ってしまった。
彼女は今、幽霊のような存在で、それになった原因は私欲の為だけに死神に斬られそうになった恋人を庇ったことで、天国にも地獄にもいけなくなったからだそうだ。そして、彼女は死んでいるけれど、死んでいない。幽霊だけれど幽霊じゃないという自分でもよくわからない曖昧な存在になってしまったらしい。因みに彼女を斬ったのは今回俺の魂を狩ろうとしていた死神だそうだ。
だから、彼女は敵は打てたと言って嬉しそうにしていた。
で、俺のような、私欲の為だけに死神に狙われている人間を見つけては助けるように、できるだけ阻止できるようにしたいと願ったら、俺たちに説明してくれた方法でのみ、助けることができるようになったらしい。
そして、彼女はそれを話してくれた後、こう言って去って行った。
「また、会えた時、その時にはあなた方が幸せになっていることを願います」
街路樹が規則的に並ぶ大通り。そこに俺と結は手をつなぎながら、これから何をするか? また、新しいゲーム寝落ちするまでやろうかなど、たわいのない世間話をしていた。
そして、俺は見た。あいつの姿を。そいつは、健康的な青少年を罵っていた。俺の時のように、楽しそうに。
そして、彼女は俺の姿に気が付いた。そして、言ったのだった。確かに。
「今のあなた方は、幸せそうで何よりです」
と。
「ああ、幸せだよ」
そう呟いて、俺は、結に向かって大げさに楽しそうに微笑んだのだった。