コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 渦中を進む 【茨の道を踏まずに歩け】 ( No.2 )
- 日時: 2016/01/21 04:45
- 名前: 明太子 (ID: nbzMXegi)
土下座する黒服のガタイの良いヤーさんっぽい人をSPが慌てて止めるが本人は土下座を続行。
そして、狼谷へ近付こうとした俺の周りに兄ちゃんの側から1人、黒服のSPが来た。
見ただけで分かる強靭な体、鋭い眼光から察するに訓練に訓練を重ねた優秀なSPだ。
多少武道の心得があるが、コイツ相手には一矢報いる事すら出来ないだろう。
しかし向こうに親友がいるなら行かねばなるまい
俺は黒服に「ここを通してくれないか」と言うと
「ダメだ、私達はこのお方に用があるのだ、部外者は立ち去ってもらう」
ほぉらお決まりの台詞だ。
しかし押しとおる訳には行かない、負けるからだ。
(だがな、俺はあのイタズラっ子に5年以上は付き合ってるんだぜ?)
「お前今何言ったか分かってんの?」
「.......何ィ?」
ステップ1、相手の興味を引く。
これにより聞き流して突っぱねるという「事務的対応」を止めさせ、「会話」をさせる。
これは基本中の基本だが、やるやらないでは大きい差が出る。
そして今コイツは2つの感情を俺に対し抱いた
『疑問』と『苛立ち』だ。
疑問は単純に俺の言葉を不審に思ったから、苛立ちは自分の思惑、予想通りに事が運ばれなかったから。
会話とはゲームだ
キレた奴の負け、キレさせた奴の勝ち。
キレた奴は自分が操られた通りに動いているのを相手に教えるだけ。
ババ抜きでババを教えるのと同じようなものだ。
隠すべき手札を相手の言う通りに見せて、相手に言われたカードを引く。
まるで一人じゃんけんだ、勝つ側が決められて、負け側はひたすら負ける。
そんなバカにコイツはなるかもしれないのだ、楽しくて仕方ない。
「お前さ、今の言葉でそこの兄ちゃんの土下座の価値を極限まで下げたんだぜ?」
「............一体どういう意味だ?それは」
STEP2、わざと疑問に答えない
『疑問』や『苛立ち』の感情を風船のように膨らませる
これが破裂したら相手が敵意を露にする、つまり苛立ちのピークだ。
苛立ちのピークに達すると疑問を忘れたまま答えを急ぐ
置いて行かれた疑問は種となる。
そして相手の心を最後にへし折る武器になる。
心の傷を作る武器へと
「はぁ?ここまで言って分からないか、ちゃんと中学卒業したの?」
「貴様程度より教養はある」
返答が早くなった
つまりそれだけ会話に意識を傾けているのだ
十中八九この男は頭に血が登っている。
「『貴様程度』ねぇ......じゃあ何でその程度にすぐわかる事が分からないの?」
「それはだな.......」
「ほぉら口ごもった、痩せ我慢はよしておきな、それこそ『程度』が知れちまうよ」
「何だと?」
「おいおいムキになんなよ、図星言われたら涼しい顔してスルーすりゃあ良いのによぉ」
「ッ!」
「わざわざ素直に反応してさ、もしかしてSPの研修中?なぁら仕方ねぇな!ックははははは!」
「貴ッ様ァ!」
STEP3、悪口のラッシュ
ここで出す悪口は身体的特徴を言わない事。
そして相手がある程度想像が膨らむ言い方をする
こりゃ、ある意味ミスリードだからな。
別段俺は『程度が低い』なんざ言っていない
ただ相手が勘違いしてそう思うだけだ。
ちなみにこの意味に気付いた狼谷は黒服の向こうで「うっわぁ.....」って顔してるんだけどな。
さて、仕上げだ
「まっ、お前さんは程度にあった仕事すりゃあ良いんじゃねえの?SPは結果が見えてるけどなぁ!」
「それ以上言ったら貴様をぶっ殺す!良いな!」
最後の一言を言った瞬間に、俺は黒服にナイフを突き付けられていた。
目にも止まらぬ速さ、訓練の成果が垣間見えるな。
しかし、これでチェックだ。
(馬鹿のやることの典型例だぜ、思い通りに動くマリオネット野郎が)
俺がニタァ、と笑うとギョっとして下がった黒服
そして俺は携帯を出して110と入力して黒服に見えるように発信ボタンに指を当てた。
俺のやろうとしてる事に気がつき顔が引きつる狼谷
土下座の兄ちゃん(俺命名)も一瞬遅れて気がつき顔を青くした
唯一分かってないのは黒服だけだ
「貴様ッ!何をする気.....」
「状況を整理しようか」
俺は相手の言葉をぶっち切り、話を始める。
(ミスリードに気づけずにキレちまったお前さんに勝ち目は無いぜ)
「俺、藤崎湧水は友人笹本狼谷と下校中に数人の大人に囲まれた」
「それはそこの笹本狼谷殿に用があって.....」
「そして戸惑う俺と友人を無理矢理引き留めて、不審な勧誘をした」
「不審などと......!私達はただ交渉に......」
ここまでは普通だ、普通の状況整理
しかしここから先はちょっとクセがあるぜ。
ミスリードに気がついても良かった。
気づくとそれが本命だと思うからだ。
しかし俺は隠しに隠したモノがある。
「そして俺が友人を助けようと交渉を試みると黒服の男はいきなり刃物を取りだし、その刃物で威嚇した」
「なッ.........」
「そして俺は今まさに警察に助けを求めようとしている......以上だ」
周囲に沈黙が重く伝わる
一番最初に口を開いたのは目の前の黒服だった
「ふざけるな!そんな世迷い言が通用するわけ......」
「いいや、通用するね」
これまた黒服の話を遮り断言をする。
そしてここからがFINALSTEPだ
「俺は最初から最後まで交渉を続けていたんだぜ?」
「はぁ!?」
「武力行使に出たのはお前さんで、『俺はここを通してくれないか』って言ったんだ」
「何ッ......!?」
「そしたらアンタは断った、そして俺は交渉の交渉をしたわけだ」
そう、今まで俺がやってたのは『ここを通してください』『駄目です』『そこを何とか』という範疇だったのだ。
その為に俺は何度も『お願い』をして、相手の『程度』を褒めて、『その仕事似合ってますよ』とおだてたのだ。
本来は穴だらけも良いところだが、頭に血の上ったコイツには分からない。
そして止めだ。
「というより、そのアンタの言う『狼谷殿』の『友人』である『藤崎湧水』を『無下に』扱ったんだぜ?なぁ、狼谷?」
話を振られた狼谷は「ここで振るかぁ....」と呟いて真面目な顔をして言った
「確かに、友人を無下に扱うような人とは交渉なんて必要無いよね。」
その一言に顔面蒼白にする一同
詰まるところ。
「こんな失礼な奴に付き合う必要何てねぇよ。行こうぜ、狼谷」
「...........そうだね、行こっか」
無視して帰ろう、という所だ。
別段、無理矢理帰ればよかったのだが、こういう連中は痛い目を会わないとな
飴と鞭は交渉において大切だ
お互いに別れの言葉を言って俺等はその場から立ち去った。
土下座の兄ちゃんには「後日、俺を混ぜて話しましょう」と伝え
黒服には「お前は人を見下し過ぎたんだよ」と耳元で嘲け笑い。
隣で狼谷が「死者蘇生と死体蹴り.....」と言ったが気にしない。
かくして俺は、あいつらの交渉の椅子にきっちり座った訳であった......