コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 謎嫌い探偵の事件簿 ( No.6 )
日時: 2016/02/05 15:34
名前: ・ス・ス・スy (ID: g1CGXsHm)
参照: 相楽です。名前が文字化けしていたの気づかずそのまま投稿してしまいました。

バイト先には事前に連絡をいれて、月曜日のシフト少し変更してもらうように頼んだ。
もちろん出勤はするが……悠は三橋からもらったメモを握りしめて、幌南書店の前に立った。
とりあえず、会って、そのあとゆっくり話をする時間が持てたらいいなと。
悠は期待に胸を膨らませた。

父のように気さくなのだろうか?
いや、わかりにくい奴と言っていた。
でも母は好き、と言っていた。
ならば私もきっと好きになるかもしれない。
母までもが好意を持った瀬名葵……葵おじさんは、きっと良い人に違いない。

店内に足を踏み入れた。
大型書店、とまではいかないが、それなりに大きな書店かつ綺麗なお店だった。
まずはブラッと店内を歩き、瀬名と書かれたネームプレートをしている人物を探す。
しかし、なかなか見つからず悠はレジに向かった。
レジには優しそうな初老の男性が立っていた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「瀬名葵……さんはいらっしゃいますか?」
「あぁ、瀬名葵……少々お待ちください。えーと、確か。」

そう言ってこの男性は店内をススッと歩き出した。そして間もなく。

「瀬名君。君にお客さんだよ。」
「お客……?」

ドキリとした。

瀬名葵の、葵おじさんの、声。

低くて、ハスキーな声音だった。
足音が、悠の耳に届く。緊張して、なかなか後ろを振り向くことが出来なかった。

「お客様、瀬名をお連れしました。」

ドクドクと心臓の鼓動が聞こえた。
悠はゆっくりと振り向いて———ついに対面した。
背は高く178から180といったところで、体格は細くはなかった。髪は長めで後ろで少し縛っているようだった。前髪も長く、目に少しかかっていた。目は二重のようだが細く、釣り目。鼻は高くはないが真っ直ぐとおっている。軽い感じに無精ひげが生えていて、肌は若干浅黒い。

「……似てない。」
「えっ?」

思わず感想を漏らして、瀬名は少し困ったような声を出した。
我に返り、慌てて悠はお辞儀して、瀬名を注意深く見ながら挨拶をした。

「瀬名丹の娘、瀬名悠です。初めまして……。」

瀬名丹、その名前を言うと瀬名はハッと息をのんだ。悠はそれを見逃さず、ほんの少し口元をほころばせた。

「やっぱり、私のおじさんで、あってるんですよね?瀬名丹の弟ですよね?」

そうか、この人が————。
想像とは全く違ったが、そんなことはどうでもよかった。

やっと、会えた……!

しかし、返ってきた言葉は予想外だった。

「それだけですか?」
「……え?」
「だから、それだけなのかって聞いてるんだ。」

兄の娘か!と、もっとそういう驚いた顔とか見られるイメージをしていた悠にとって、それはひどく困惑させるものだった。
答えられず、えっとと口をもごもごしていると瀬名は感情もなく言い放った。

「でしたら、もういいですね。業務に戻らさせて頂きます。」

踵を返し、スタスタと呼ばれたところに戻ろうした。
慌てて悠は瀬名の裾をつかむ。

「ま、待ってください!本当に瀬名丹の弟で、あってるんですよね?葵おじさんですよね?」

おじさん、という単語に少々顔をしかめて瀬名は答えた。

「確かに、そうだが?だから、何だ。」
「だから何だって……。」
「本を買わないなら、さっさと出て行ってください。」
「私は葵おじさんに会いに来たんです!もっとこう……別の反応があってもいいじゃないですか!姪ですよ、私!」
「じゃあ何か?そうかそうか俺の姪っ子かぁ、大きくなったなぁ、本でも買ってあげようか?とでも言えばいいのか。」
「そうではなくて……!その、お父さんの話とか、出来たらいいなって思って……。だから、今度の休みの日にでもゆっくり話そうっていうのをてっきり想像してて……。」

瀬名は冷たく悠の手から振り切った。

「話すことなんか、俺にはない。どうやって俺を突き止めたか知らんが、そういう暇があるならお家帰ってお勉強でもしてろ。兄貴が死んで、今は母親と二人暮らしなんだろ?だったらここで油売ってねえで———」
「お母さんなんか、とうに死んでる!」

両手で拳を握って、キッと瀬名を睨みつけた。
自分の兄の奥さんが死んだことを知らないなんて。こんなにも冷たいなんて。

「……失礼しましたっ。」

クルリと背を向けて、悠は店から出た。
葵はハーッと困惑した溜息をついた。

「死んだのか……。」
「瀬名君に姪っ子がいるなんてね。驚きだったよ。しかしまぁ……随分と冷たい態度なもんだね。」

悠に応対した初老の男はクックッと笑った。

「もう少し、優しくしてやっても良かったんじゃないのか?わざわざ探して君に会いに来たところを見ると、余程会いたがってたんじゃないか?」
「どうでもいいですよ、そんな事。」

相島というネームプレートを下げた店長は、つっけんどんな葵に対しやれやれと笑った。