コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 気まま自由な短編小説 『お題募集中!』 ( No.25 )
- 日時: 2016/02/16 12:29
- 名前: こん (ID: phd3C.MK)
お題:甘すぎなくて苦すぎない恋のお話 (茲都 さん)
第6話「甘すぎず、苦すぎず。」
ノートを破った切れ端に
『好きだ』
って書いてあった。
私がそれを読んで、顔を上げた時には
もう彼は教室を出ていた。
黒木くんってちょっと怖い。
無口で、
いつも男子の中央にいて、
まるでボスザルだ。
ちょっと黒木くんが何かを言うと、手下のサルたちはみんなヘコヘコして彼に従う。
顔が整っているのもまた、怖い。
凄まじく綺麗な顔が睨むとすごい迫力なんだ。
別に素行が悪いとか、
喧嘩っ早いとかではない。
むしろ、頭が良くて、
落ち着いてる方だ。
私は今年小5で初めて黒木くんと同じクラスになった。
喋ったことは片手で数えるくらいしかない。
目が合っても、怖くてすぐにそらしていた。
でも10月のある日、
黒木からノートの切れ端をもらった。
もらった、というか。
黒木くんが私の席の横を通る時に、私の机に置いてった。
なんだろう、と思って中身を見ると。
手紙というにはあまりにも短い内容がそこにはあった。
なにこれ、と思ったが、
彼はさっさと教室からいなくなっていた。
好きってなにさ。
何が好きなの?
何で好きなの?
何で私に言うの?
よく、わかんない。
本人に聞こうと思っても、怖くて近寄れない。
私のことが好きなのかな?
普通に考えたらそうなのかもしれないが、中々断定できなかった。
だって私、黒木くんとあんまり接点ないよ?
どういうこと?
どういうこと?
そう思っているうちに、私は黒木くんを目で追うようになった。
あ、今日は黒のTシャツ着てる。
あ、今消しゴム落とした。
あ、今窓の方を見た。
あ、今…。
何日も何日も見ているうちに、私は今まで知らなかった黒木くんを知るようになった。
あ、今笑った。
初めて、見た。
黒木くんって笑うんだ。
ちょっと照れたように、はにかんだように笑っていた。
結構可愛く笑うんだ。
整った顔がちょっと崩れて、小学生らしい笑みだった。
黒木くんだって小学生だもんな。
なんだか少し大人っぽいけど、やっぱり彼だって小学生だ。
そう思って見ていたら。
あ、今…あ。
黒木くんがこっちを向いた。
まだかすかに笑みが残った顔のまま。
…。
私は目をそらした。
なんで、こっち向くの。
私は頭に血が上った。
え、なんで私赤くなってるの。
手でペタペタと頬を触ると、やっぱり熱い。
私は逃げるように席を立って教室を出た。
その次の日、
黒木くんは学校に来なかった。
私の心はモヤモヤしていた。
体調でも悪いのかな?
その次の日も、
黒木くんは学校に来なかった。
私の心臓はとくん、と脈打った。
また、休みなんだ。
そのさらに次の日も、
黒木くんは学校に来なかった。
私の心臓はぎゅっと掴まれたようになった。
何で休みなんだろう。
ようやくその次の日、
黒木くんは学校に来た。
しかし、朝のホームルームで先生はこんな事を言った。
「ものすごく急な話だが、黒木のお父さんが転勤で、今日のこのホームルームいっぱいでこの学校を去ることになった。」
みんな愕然としていた。
特に男子たちは、声すら出ないようだ。
私もまた、愕然とした。
心臓がぎゅーっと締め付けられる。
痛い。
辛い。
なんで。
ホームルームが終わって、みんなで別れを惜しんでいたが、すぐに授業開始の鐘が鳴ってしまった。
「じゃあな、みんな。」
黒木くんは落ち着いた感じでそう言った後、教室を出て行ってしまった。
なんでそんなに軽いの。
私に渡した紙切れは一体何だったの。
ねえ。
待って。
行かないで。
私は授業が始まるのも気にせず、黒木くんを追いかけた。
「ねえっ!待って!」
歩くスピードの速い黒木くんに追いついたのは下駄箱だった。
「…。」
黒木くんは靴を履き替え終わったところで止まってくれた。
「…ねえ、これってどういう意味だったの。」
あの紙切れを見せる。
「…ああ。」
黒木くんは紙切れをじっと見た。
「そのまんまの意味だよ。」
簡単な返事が返ってきた。
「そのまんまって何?私の事が好きって事でいいの?」
私がまくし立てると、黒木くんは下駄箱の方に視線を向けて、小さく頷いた。
「ねえ、何で私の気持ちを聞かずに行こうとするの。」
私はまた質問を投げかけた。
「…だって、河野、俺のこと別に好きじゃないだろ。いつも目線そらすし。」
そう言った黒木くんの横顔はなんだか寂しそうだった。
「…そんなの、わかんないじゃない。」
私がそう言うと、少し驚いたようにこっちを向いた。
「そんなの、わかんないじゃない。なんで勝手に決め付けて、こっちの気持ちも聞かずにいなくなるの。そんなの勝手すぎるよ。」
私はそこで気がついた。
私の気持ち?
黒木くんを目で追っているうちに、私の心は黒木くんに持って行かれていたようだ。
じわっと涙が出てきた。
こんな最後に気がつくなんて。
「…ごめん。でも、戻ってくるから。」
黒木くんは私の目を見たままそう言った。
「転勤っていっても、1年くらいで帰ってくるから。」
私は頬に伝う涙を拭いた。
「本当に帰ってくるの?」
黒木くんは頷く。
「そう、なんだ。」
私がそう言うと、黒木くんは私の側まで歩いてきて言った。
「だからさ、帰ってきた時聞かせて。」
「え?」
「河野の気持ち。」
「…。」
「1年もあったら、変わってるかもしれないけど。」
「…。」
「じゃあな。」
黒木くんは私に背を向けて歩き出した。
「あ、ちょっと、待って。」
もう止まってはくれなかった。
さっさと校舎を出て、校門の方に歩いて行く。
みるみるうちに黒木くんの後ろ姿は小さくなる。
私はその後ろ姿を見ながら、
「私、待ってるから!1年後も、気持ち変わんないで待ってるから!」
と大きい声で叫んだ。
黒木くんは振り返らずに、
手を振った。
《作者コメント》
茲都さんよりいただいたお題「甘すぎなくて苦すぎない恋のお話」より書きました。
甘すぎってなんだっけ。
苦すぎってなんだっけ。
すごく簡単な言葉のハズなのに、偉く難しかったです。
こんな感じで良かったのかな…?
書き終えた今も、半信半疑です。
茲都さん、どうでしょう?
ダメですかね?
ダメならダメとなんなり言ってください!
自分ではちょっとわからないので(ーー;)