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Re: 気まま自由な短編小説 『お題募集中!』 ( No.44 )
日時: 2016/02/21 22:03
名前: こん (ID: 6MRlB86t)

お題:帰る家は… (火野カフカ さん)

第10話「ただいま」

「……。」
「……。」

先ほどから続く沈黙。

「……。」
「……。」

もう10分くらいそうしているだろうか。

「……おい。」

俺は遂に耐えかねて言葉を発した。

「!」

隣に座っているそいつは、パッと俺の顔を見て満面の笑みを浮かべた。

「なあに。」

なあに、じゃねえよ。
それはこっちの台詞だ。

俺はため息を一つついた。

「…お前さ、さっきからここで何してんの。」

川に架かる大きな橋の下。
まだ明るい時間に、ランドセルを背負った子どもがこんな薄暗いところで俺の隣に座っている。

「お兄ちゃんと座ってるの。」

知ってるよ。
んなこと。
だからなんで俺の隣に座ってんだよ。

黄色の帽子をかぶり、ランドセルには黄色のカバーがついている。
サイズ的に見ても、小学一年生だろう。

「お前さ、知らない人についてっちゃいけないとか、学校で習わなかった?」

俺がそう聞くと、

「うん、僕、習った!せんせえがこないだ言ってた!」

と元気よく答えた。

俺はまたため息をついた。

「…だったら、なんで見知らぬ俺の隣に座ってんだよ。言いつけ守れよ。」

でもそいつはあまり意味がわかってないらしい。

「…?お兄ちゃんの隣に座っちゃいけないなんてせんせえ言ってなかったよ?」

ダメだ、こいつ。

誘拐してやろうか、このやろう。

まあ、そんな面倒なこと、俺はやんないけど。

「お兄ちゃん、何歳?」

笑顔で聞いてくる。
俺はその笑顔を見下ろす。

「19。…つーか、んなの聞いてどうすんだよ。」

そいつは両手の指を広げる。

「…じゅうきゅ?両手で数えられる?」

…。

まあ、まだ4月後半だしな。
算数のさの字くらいしか理解してないんだろう。

それにしても少しおバカな気もするが。

早生まれなのだろうか。

ちょっとそう思った。

小学一年生くらいじゃまだ結構差があるもんな。

「…お前、早生まれか?」

我ながら余計なこと聞いてしまった。

案の定、そいつは俺の顔を食い入るように見つめ、

「えっ!お兄ちゃん、なんでわかるのっ?すごおい!!ねっ、なんでなんでっ!」

と騒ぎ立てた。

「…別に、なんとなくだよ。」

俺はただそう呟いた。





さっき、母さんと喧嘩した。

なんか虫の居所が悪くて、

「こんな家、出てってやるよっ!!」

と叫んで家を出てきた。

元はといえば、寝坊して大学の授業をすっぽかした俺のせいなのだが、ついカッとなってしまった。

なんとなく川沿いを歩き、橋の下にきて川を見ながら座っていた。

色々考え事をしていた時、そいつはやって来た。

「お兄ちゃん、何してるの?」

そう言って俺の顔を覗き込んだが、俺は無視した。

無視してればそのうちどっか行くだろうと思った。

けれどそいつは俺の隣に座ってきた。

そして俺が言葉を発するまでずっと大人しくそこにいた。





「お前、もう帰れ。」

川の流れを見つめてそう言った。

「なんで?」

そいつは首を傾ける。

ホント、面倒なヤツだ。

俺はそいつの顔を見た。

「小学生が学校帰りに寄り道すんじゃねえよ。」

そいつは首を傾けたままだ。

「なんで。」

…。

「…お母さんが心配するだろ。」

そう言うと、そいつは首を縦に戻して、キョトンとした顔をした。

こいつ、言葉通じてるか。

そう思ったあと、ふと自分の母親の顔を思い出す。

俺が家を飛び出る前、なんだか少し悲しそうな目をしていた。

「…お前、お母さんのことどう思う?」

川に視線を戻してそう尋ねた。

すると、視線の端に笑顔が映った。

「お母さんはすごいよ。なんでもできるもん。よく怒って怖い時もあるけど、笑ってる時はすごく優しいんだよ。」

ふうん。

なんでもできるすごいお母さん、ね。

俺も昔は母さんのことをそう思っていたのだろうか。

「…お母さんのこと、好きか?」

なんとなく聞いた。

するとそいつは嬉しそうに答えた。

「うんっ!お母さんだーい好き!」

俺は笑った。
爆笑した。

俺が腹を抱えて笑っている間、そいつはキョトンと俺を見ていた。

ようやく笑いが収まると、そいつの頭の上にぽん、と手を置いた。

「…マザコンかよ。」

そいつはまたまた首を傾けた。

「まざこん?」

俺はまた少し笑って、言った。

「お前のお母さん、お前が早く帰んないと心配するぞ。さっさと帰れ。」

ようやくそいつは頷いて立ち上がった。

「じゃあね、お兄ちゃん。バイバイ。」

俺に手を振り、そいつはランドセルを揺らしながら走って行った。





「ただいま。」

玄関の扉を開けると、ハヤシライスの匂いがする。

「…。」

急いで靴を脱ぎ、洗面所で手を洗う。

それからキッチンの方を覗いた。

母さんが夕飯の支度をしている。

俺はその背中に声をかけた。

「ただいま。」

母さんは手を止め、振り向いた。

そして俺の顔を見て、

「おかえり。」

と小さく笑った。


《作者コメント》

火野カフカさんからいただいたお題、「帰る家は…」に沿って書きました!
ちょっと最後の方が雑っぽいですね…。
読み返してそう思いました(ーー;)


カフカ!
お題ありがとう^_^
良かったら感想よろしくお願いします!