コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 気まま自由な短編小説 『お題募集中!』 ( No.6 )
- 日時: 2016/02/16 12:33
- 名前: こん (ID: phd3C.MK)
お題:マカロンと紅茶のお話 (茲都 さん)
第3話「奈琴の得意料理」
「ねえねえ、たっくん。」
昼休み、幼なじみが俺の席にやってきた。
「どうした、奈琴。」
「奈琴ね、新しい料理出来るようになった。」
この幼なじみは高校に入ってから半年間、ずっと料理の特訓をしている。
しかしいっこうに上手くならない。
「何、やっとサラダでも作れるようになったか。」
俺が笑ってそう言うと、奈琴はぷーっと頬を膨らませた。
「奈琴、サラダなら前から作れてたもん。」
「へえー。」
「本当だもん。…まずレタスを用意するでしょ。」
「おう。」
「それをみじん切りして、千切りキャベツを作ります。」
「おうお…う?…は。」
あまりに真面目な顔で、もっともらしく言うのでつい頷きかけた。
「ちょっと待て。今、『千切り』の要素と『キャベツ』の要素、なかったぞ。お前が今作ったのは『みじん切りレタス』だからな。」
俺がそう言うと、奈琴はまた頬を膨らます。
「もぉ。たっくん細かい。良いから次は、トマトを用意します。」
「…はい。」
「茹でます。」
「…はあ。」
「焼きます。」
「…は。」
「煮込みます。」
「…。」
「からの、蒸します。」
「…奈琴は一体何を作ろうとしてるのかな。」
「千切りキャベツの上に置く、フレッシュなトマトです。」
まずさ、千切りキャベツじゃないけどね!?
それから、そんなに調理したら『フレッシュ』じゃないからね!?
イメージはきちんと持ってるのに、なんでこうなるんだ。
「あーあと、ドレッシング作ります。」
「ほう。(具材はレタスとトマトだけなんだな。)」
「まず、固形ヨーグルト大さじ一杯、お酢小さじ一杯を混ぜます。」
「…ふーん。(固形?)」
「それからさっき作ったフレッシュトマトの半分をつぶして混ぜます。」
「…ほう。」
「それから、ココアの粉を隠し味で大さじ一杯ほど。」
「…。」
「ドレッシングの出来上がり!」
まじか。
たぶんだけど、そのドレッシング、隠し味色だよね。
「…それさ、作ったことあるの?」
俺が恐る恐る聞くと、奈琴は携帯を取り出した。
「ちょっと、たっくん。疑ってるの。本当に奈琴作れたんだからね。ほら。」
見せられた写真は、想像をはるかに超えていた。
魚の頭とか、
生クリームとか、
棘付きのウニとか、
それから、
いや、これ以上は言えない。
はっきり言って放送するにはモザイクもんである。
「これ…誰に食べさせたの。」
「お父さんだよ。…あ、ごめんね。たっくんも食べたかったよね。また今度作るね。」
お父さん、お疲れ様です!
俺には食えません!
それでは本題に入ろう。
(なぜかここまでに時間がかかってしまった。)
「で、新しい料理って何。」
奈琴は嬉しそうに目をキラキラさせた。
「まずね、紅茶。」
「…。」
紅茶って料理だっけ?
ティーパックなら誰でも淹れられるよな?
それとも、あれか?
もうちょっと高度な淹れ方のやつか?
「まず、農家のおじさんから茶葉もらってきて。」
「…。(そこから?)」
俺は最初呆れて聞いていたが、説明は意外にきちんとできている。
「…で、紅茶の完成!」
「お…おおー。」
あれ?
いいぞ?
いい感じだったぞ?
聞いた感じではちゃんとできてたっぽい。
「で、これがその紅茶です。」
奈琴は自信たっぷりに魔法瓶を、かかげる。
「おお。」
コポポ、と淹れた紅茶はいい匂いだ。
一口飲んでみると。
「うんまっ!」
細かいことはわからないが、とりあえずこの紅茶、うまい。
「でしょ、でしょ!」
「奈琴、成長したなあ。」
奈琴は嬉しそうに笑う。
「それからね。」
「何、まだあるの?」
「マカロン!」
「…うそだろ。」
紅茶はいいとしても、マカロンはダメだ。
絶対に奈琴には無理。
「そんなことないもんっ!」
奈琴は持ってたタッパを開ける。
「ほらっ。」
少しいびつな形のマカロンが入ってた。
「…。」
とりあえず一つ食べてみる。
外はサクッとしていて、中の生地は少しねとっとしていて、クリームはフワフワだ。
まあまあよく出来ている。
「…うまいよ。」
「でしょ!」
しかし、そろそろ怪しくなってきた。
本当に奈琴が作ったのか、これ。
「…これ、誰が作ったの。」
「え、奈琴だよ。」
「本当に?」
疑いの目を奈琴に向けると、奈琴は少しもじもじした。
あ、こいつやっぱり嘘ついてる。
嘘つく時の奈琴はすぐに分かる。
「嘘だな。」
俺がそう断定した時、後ろから声がした。
「やっぱりばれちゃったか。」
振り返ると、奈琴の親友の山瀬がいた。
「奈琴さ、もっと上手くやんないとダメだよ。あのサラダのくだりの次にマカロンなんて。」
「…奈琴、ちゃんと説明できたのに。」
山瀬に聞いてみる。
「これ、結局誰が作ったの。」
「私。ちなみに、紅茶はペットボトルで買った無糖のやつを温めた。」
「…まじか。」
紅茶はまさかの市販。
俺の舌も怪しいもんだ。
「で、なんで今日はこんな嘘をついたんだ。」
いつもは平気でゲテモノを食わせてくるのに。
「奈琴、たっくんのお嫁さんになりたいの。」
「…は。」
幼稚園の時から聴き慣れてはいるが、なぜこのタイミング。
「奈琴さ、一応今までちゃんとしたもの作れてなかったの、自覚してるんだ。」
山瀬が説明する。
「…自覚してんだ。」
「うん。で、そろそろ鈴木(たっくん)に愛想尽かされるんじゃないかと思ったんだって。」
「はあ。」
「で、ここらで一度美味しいもの作れば、鈴木が見直してくれるんじゃないかって。」
「ふうん。」
「最初は2人で作ってたんだけど、やっぱり上手くいかなくて。で、結局私が作ることに。」
「…。」
奈琴はしょんぼりうなだれている。
「…なんで紅茶とマカロンだったんだ。」
奈琴に聞くと、奈琴は顔を上げた。
「奈琴が昔読んだ絵本にね、お姫様が王子様に、自分が淹れた紅茶と自分が作ったマカロンをご馳走したら、2人は永遠に結ばれたってあったから。」
つまり、王子は食べ物に釣られたわけだ。
内心はそう思ったが、奈琴は本気のようなので、俺は立ち上がって奈琴の頭を撫でた。
「そっか。うん、わかった。まあ、でもさ、そのお姫様って自分で作ったんだろ?」
俺がそう言うと奈琴は俺の目を見た。
「だからさ、ちゃんと自分で作れるようになったら持ってこい。」
奈琴の目が輝く。
「うん!」
「良かったじゃん。奈琴。」
俺は山瀬の方を振り向く。
「それから、山瀬。」
「何。」
「マカロン、美味かった。」
「うん、ありがと。」
「でも、形がいびつすぎ。それから、紅茶くらい自分で淹れられるだろ。」
「…なっ。だ、だって紅茶って、こう、結構難しいっていうか…。」
「山瀬も料理の特訓が必要だな。」
あはは、と奈琴が笑ったので、俺は奈琴の方を向き直って言った。
「お前はもっと特訓してこいっ!」
「そうだ!」
俺と山瀬は笑って、奈琴はまたまた頬を膨らませた。
それから1年後、俺は奈琴の作った紅茶とマカロンで腹を壊し、三日間寝込んだ。
《作者コメント》
茲都さんからいただいたお題「マカロンと紅茶のお話」から想像を膨らませて書きました。
想像を膨らませすぎてあまりお題に沿っていない気がしてきました…。
ごめんなさい、茲都さんっ!
せっかくお題を下さったのに…。
またこのお題で再チャレンジするかもしれません。
お題、感想、募集中です。
よろしくお願いします!