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Re:   「 ——さあ、この手をとって。 」   ( No.2 )
日時: 2016/02/19 20:52
名前: あめ。 ◆oc/0fKPs3I (ID: 3UdJFDb4)




宇多森先輩は、悪戯っ子のように白い歯を見せて笑い、取っ手を引っ張った。ドアが音を立てて開き、私はとん、と背中を押された。生徒指導室の中には、6つの机。3つが横並び、もう3つがそれと向かい合うようにして置かれていた。



 「え、っと……」



その中の一つに、とても可愛い女の子がいた。先輩だったら「可愛い」っていうのは失礼かもしれないけど、本当に彼女は可愛くて、絵から飛び出してきたようだった。私も、あのくらい可愛かったら人生イージーモードなのだろうか。いや、可愛いのは可愛いで大変なのかもしれない。でも贅沢な悩みだ。
何も言葉を発さない私に痺れを切らしたのか、それとも私の困惑を察したのか、非常に可愛い女の子は机に手のひらをついて、立ち上がった。彼女が動くたびに、左側で緩く編まれたみつあみのリボンが揺れる。



 「……あたしは、3年の涼風えま。焔に聞いてる?」
 「いえ。あ、天花寺蒼波です」
 「いきなり連れてこられてびっくりしただろ、ごめんな」



ネクタイをしてないから分からなかったけれど、やっぱり先輩だった。ごめんなさい。
先輩の謝罪に首を横に振ると、涼風先輩は申し訳なさそうに頬を人差し指でかき、ドアに寄りかかっている宇多森先輩をじろりと睨んだ。でも、宇多森先輩はどこ吹く風で呑気に口笛なんか吹いている。



 「おい、焔。お前、何も言ってねえの?」
 「うん。だって、えまちゃんが全部やってくれるだろうから」
 「ふざけんな馬鹿。天花寺さんさ、突然だけど……——」



涼風先輩が何かを言いかけた時、大きな声とともに2人の男女がこの教室になだれ込んできた。何やら大事だったらしい話を邪魔された涼風先輩は、その2人に不愉快そうな視線を投げた。可愛らしい猫目が、すっと細められる。



 「えまちゃん、連れてきたよ!」
 「桃李、先輩つけろって。一応ありがとう」
 「あ、後輩ちゃん? わ、可愛いねー!」



涼風先輩の礼をさらりとスルーして、桃李と呼ばれた女の人は、私の手を両手で包み込んだ。
至近距離で可愛いと言われ、恥ずかしくなった私は上ずった声で礼を言った。その後ろでは、ポカーンと大口を開けた男の子が、ドアの前で立ち尽くしていた。そこにいたはずの宇多森先輩は、机に座っている。瞬間移動か。いつの間に移動したんだろう。

そう思ってみていると、宇多森先輩は不敵な笑みを浮かべた。




 「全員、集まったな?」