コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 「 ——さあ、この手をとって。 」 ( No.5 )
- 日時: 2016/02/21 09:50
- 名前: あめ。 ◆oc/0fKPs3I (ID: 3UdJFDb4)
「ぜんいん……?」
私は言葉を反復するようにつぶやいた。椅子に座るよう言われた私たちは、素直に席に座っている。1番窓側の席に宇多森先輩と涼風先輩、真ん中には私と桃李さん、そして1番廊下側に名前の知らない男の子。
名札を見ると、『橘』とあった。ネクタイは青、1年生だ。隣にいる宇多森先輩と男の子、ではなく橘くんを交互に見やると、宇多森先輩は私の視線に気づき、ぱちりとウインクをした。似合っているのが腹立たしい。
「いきなりだけど、お前ら——……」
宇多森先輩の言葉を遮るように、そこで5時間目開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。慌てて席を立とうとする私と橘くんを桃李さんが「大丈夫大丈夫」と根拠のない言葉で諫め、半ば無理やり席に座らされた。
どうしよう、授業さぼるとかやばい気がする。右をちらりと見やると、橘くんも焦った様子で眉を下げ、しきりに時計を気にしていた。でも、宇多森先輩に視線を戻すと彼は全くもって気にしていないらしい。
そして、意を決したように口を開いた。
「“能力”、もってるよな?」
宇多森先輩の言葉に、どきん、と心臓が飛び跳ねた。
なぜ、この人は知っているんだろう。まさか、この人も持っている? 疑問が渦巻く心の中を見透かしたように、誰かが笑った。
“能力”
それは、俗にいう特殊能力というもの。
——私には“浮遊”という能力があるが、ずっとずっとひた隠しにしてきた。
その話題をなぜ、宇多森先輩が口にしたのか。それはきっと宇多森先輩がその存在を知っていて、能力を持っているからかもしれない。口を噤んだまま考えていると、涼風先輩がぱん、と手を叩いた。
「あたしは3年、涼風えま。能力は読心(どくしん)」
“読心”、ということは、他人の考えていることが分かるということ。この人には隠し事はできず、すべてお見通しなのかと思うと、ちょっとだけ恐ろしくなった。
次は宇多森先輩が口を開く——と思ったとき、桃李さんが大きな音をさせて立ち上がった。
「私、2年の巡瀬桃李! 能力は、えっと……」
意気込んで立ち上がったものの、能力の話になった途端、急に口ごもった。不思議に思いながら見ていると、今度は宇多森先輩が立ち上がる。
「桃李の能力は怪力。あ、俺は3年の宇多森焔、宜しくねー」
ひらひらと手を振る宇多森先輩に、桃李さんは「言わないでよ!」と非難めいた口調で言う。……あれ、宇多森先輩の能力は言わないのだろうか。そう思ったとき、宇多森先輩が机にあった消しゴムに触れた。
————え。
先輩が触れた瞬間、消しゴムが消えた。跡形もなく音もなく、どこかに落としたとかではないことは一目瞭然だ。ひゅっと息を飲む音が、自分でも聞こえた。
「能力は、抹消」