コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.1 )
- 日時: 2016/06/23 02:23
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: OfqjeFpF)
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『——xxxx年xx月xx日
今日から日記をつけようと思う。特に意味は無いのだが、私がこれか
ら先も忘れるべきでない事を綴っていこう。
私が忘れるべきでない事は多くあるが、かといってそれを全て、これ
から先も覚えていられるかといえば自信がないから。
そして、いずれこの日記を読むことになるであろう誰かに、思い出し
てもらいたい。私という存在があったことを。そしてどういう存在
だったのかを。』
季節は夏だ。私がここに来た時と同じ、夏中旬。
日差しが強く、雲ひとつない青空が広がっている。風は弱くて、吹いていないよりはマシだがあまり涼しくは思えない。だが、軒先に吊るされた風鈴を鳴らすには十分だろう。
畑ではトマトやナスなどの夏の野菜が育てられ、その隣の花畑では大きなヒマワリが何本も咲き誇っている。皆一様にまっすぐ太陽に向かって背伸びをしているかのようだ。
「おい早くしないとおいてくぞー!!」
「待ってよー!!」
「今日は何捕まえるー!?」
村では、子供達が日に焼ける事など気にせず朝から元気に遊んでいる姿が見受けられる。最近流行っている遊びは、虫取りだ。性別など関係なく男の子も女の子もみんな、網とカゴを持って、蝉が鳴いている近くの林や山へ入っていく。
子供達が出かけて行ってしまった後、大人達は仕事に出かける。この近辺にはいくつか里や村があるから、そこへ野菜や花を売りに行ったり、必要なものを買いに行ったりするのだ。村に残っている大人は洗濯をしたり、家の前に打ち水をしたりと、静かではあるがのんびりと過ごしている。
「ねえちょっと聞いた?隣村の村長の奥さんの話!」
「ええもう聞いたに決まってるじゃないのよ!」
「確か転んで腰を強く打ち付けたんでしょ?あの人、もうあまりお若くないみたいだし……大丈夫かしらねえ……」
だがこの村に一つしかない井戸の側だけは、いつも洗濯や水汲みのために村の女性達が集まり、世間話をしているため賑やかなものとなっている。井戸は私が今住んでいる家のすぐ側にあるため、縁側にいると会話がよく聞こえてくる。
これがこの村の日常風景だ。行ったことはあまりないが、他の村も似たようなものなのだろう。
時折他の村からの行商人が来るくらいの些細な変化はあるが、この日常が変わることはない。
私はこの日常が好きだ。穏やかなこの日常が。
遠くの山から、セミが鳴くのが聞こえてくる。
「……暑いなぁ……」
それを聞きながら、私は冷たい麦茶を一口飲んだ。
今日も、何事もなく過ぎていきそうだ。