コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.11 )
- 日時: 2016/08/07 09:43
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: A6DUXQK.)
#7
「お待たせしました、餡蜜のおかわりです」
「ありがとうございマス」
ふわり、とタチアオイの香りを振りまきながら、薄い桃色の髪を持つ少女は丁寧に餡蜜の椀を受け取った。スプーンを手にして一口入れれば、甘く、とろけそうな幸福感が全身を満たしていく。
これで何杯目だったか、そんなことはどうだっていい。彼女にとってはそんなことよりも、この餡蜜を食べることが重要だった。ただ余計なことを考えず味わい、飲み込み、そして余韻に浸ってはまた味わう。その繰り返し。
隣に座る緑髪の少年は、その様子を見て苦笑する。ここまで幸せそうに餡蜜を食べる人間もそうそういないと、そう思いながら。
昼に近いこの時間にしては珍しく、ここにいるのは会話の無い少女と少年だけで、後は店員くらいなのだが、その店員もあまり顔を出さないため、ほとんどこの二人しかいない状態だった。
静寂を湛えるこの場所で、ただ椀とスプーンがぶつかり合う音が響く。それがどうにも心地よくて、少年はゆっくりと瞼を閉じた。
「イヤアアアアア罪木先輩が!!罪木先輩の傍に女が!!」
「うわああああああ!!?」
突如、食堂の扉が勢いよく開かれ、一人の少女が少年に飛びついた。
「あらまー罪木さんったら」
「おーおーリア充してやがりますねえ。爆破してやりましょうか?」
「……先輩方……?」
扉から姿を見せたのは姫島、香、因幡、十の四人だった。十は罪木に飛びついては離れようとせず、それを茶化すように姫島と香が笑えば、罪木と呼ばれた少年は「ちーがーうー!!」と叫んで必死に十をはがそうとする。桃色の髪の少女は、四人が現れた理由が分からず、ただ首を傾げてはまじまじと彼女達を見つめる。
椀の餡蜜は、既に半分以上無くなっていた。
「よーうやく見つけましたよ畔角さん」
「……?」
姫島がそう言えば、少女はただきょとんとした表情を浮かべた。
彼女こそが、姫島達が探していた畔角 穂連(ホトリカド ホツレ)という人物なのだ。
「罪木先輩ひーどーいーですー!今度愛聖ともご飯食べてー!!」
「だああああいーやーだーつってんだろうがー!!」
「(何やってんだあの先輩共……)」
————
畔角が餡蜜を食べ終わったところで、姫島一行は外に出た。日は高く、日差しは弱まることを知らず、蝉の合唱も鳴りやむ気配がない。因幡は日差しの眩しさに、思わず目を細めた。
「それで、ご用事ハ……?」
畔角が尋ねれば、姫島は例の黒い立方体を彼女に手渡す。畔角はまじまじと物珍しそうにそれを見つめると、首を傾げて姫島を見た。
「貴方に、これを破壊していただきたいのです」
「……?」
畔角が、またも首を傾げる。
「どうして、デスカ……?」
「簡潔に言います。私が破壊できないのですよ」
「……姫島先輩、が?」
「ええ」と姫島が頷けば、畔角は何かを考えるようにその立方体を見つめた。
一見するとただの箱だ。だが、あの姫島が破壊できないほどの硬さを持つというのは今までにない事例であり、ほとんど有り得ないことでもあった。
これらを踏まえ、さらに「破壊してほしい」と依頼するということは————
「……やってみマス」
少女はそう言って、頷きを返した。