コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.2 )
- 日時: 2016/03/11 12:01
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: ZqtI4eVj)
#1
「ああ、あっづい……」
季節は夏。夏中旬。
雲一つ無い青空は澄み切っており、これ幸いと言うように日差しは容赦なく照り付け、陽炎が動くのが見える。風は時折吹くものの弱く、そしてあまり涼しいとは言えないものだった。
セミは狂ったように鳴き、少し顔を上げれば、この前まではアジサイやら梅雨の季節の花が咲いていた遠くの畑に、大きなヒマワリが咲き誇っているのが見えた。
——嗚呼、夏だ。
ビニール袋を持った少女は、時折手で汗を拭いながら陽炎が動く道を歩いていた。その足取りは決して軽いものではなかったが、少女は目的地を目指して歩き続けるしかない。
目的地は現在地から1km以上先にある役場だ。冷房は数日前に壊れ、扇風機は倉庫にあるはずなのだが未だに見つからず、あるのは窓辺に吊るされた風鈴とうちわだけという、少女に言わせれば「あっても無くても同じ」ものだった。冷房の修理が行われる予定は、今のところ無い。
暑い。とにかく暑い。
風が吹き抜けていくが、弱弱しく、生ぬるい。これでは汗を吹き飛ばすこともできないだろう。
「っ、ああっ、もう!!なんで私が買い出しなんかに……っ……あの外道共めえええ!!!」
——コツン、
「ぁいてっ!?」
少女が暑さからくる怒りを空に向かって叫んだ、その時だった。
その声に答えるかのように、何かが少女の額めがけて降ってきたのだ。
「いつつつ……あぁくそ、なんつー日だよ……」
痛さのあまり、その場で額を押さえてうずくまると、丁度額にぶつかったらしい何かが視界の端に映る。少女はそれを手に取り、怒りに身を任せて小石のように遠くへ投げ飛ばそうと大きく振りかぶった。
だが、
「……いや待て!冷静になれ私!!これ明らかに普通じゃないものだから!!」
そう自分に言い聞かせ、何とか怒りを抑えて少女は手に取った何かをまじまじと見つめた。
それは片手で持てるほどの大きさの、何の装飾もない真っ黒な箱だった。大きさはルービックキューブよりも少し大きめであり、冷たくて硬い。蓋らしきものも見当たらず、振ってみても無音であることから、ただの箱、というよりは立方体、といった方が正しいだろう。
だが、どうしてこんなものが空から降ってきたのか?
「……冷たい……ありがてえ……」
そんな疑問など、今の少女の熱せられた頭ではどうでもいいこととして処理されてしまった。
そうして、少女はその真っ黒な立方体を「冷却材」として、頬ずりしながら持ち帰ることにしたのだった。
それが、どういう選択だったのかも知らずに。