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Re: わんだーらんど いん わらび ( No.5 )
日時: 2016/06/20 02:10
名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: OfqjeFpF)

#3

「そういえば夏恋ちゃん。あの真っ黒な箱はなんです〜か?」

ほぼ水と化したイチゴ味のかき氷を飲み込むと、香は因幡に尋ねた。「ああ、」と因幡が思い出したように立方体の方へ向き直ると、姫島と市沢もそちらへ注目する。
窓から差し込む日の光に照らされた立方体は、黒く輝いて、ただそこに存在している。それは異様でもあったし、普通でもあった。

「なんか……落ちてきたから拾った」
「何じゃそりゃ」
「まーた因幡さんが幻覚見てますよ」
「黙れ脳に虫でも湧いてんのか」

チッ、と因幡は小さく舌打ちをすると、立方体を手に取り、軽く宙へ放り投げては、それを受け止めた。何度かそれを繰り返した後、今度はまじまじと立方体を見つめだす。
黒く光る立方体は、拾った時から何も変わっていない。しいて言うならば、拾った時の冷たさが無くなっているということだろうか。

「ん〜、得体のしれないものって怖いで〜すね」
「でも箱っていうことは、中に何か入ってるんじゃないの?」

市沢はそう呟くと、興味がなさそうに手元の書類に視線を移した。

「いやでも、蓋とかどこにもないんだよ先生」

ほら、と因幡が立方体を見せつけるように市沢の方へ突き出すも、彼女はすっかり興味を失ってしまったようで、視線をそちらへ移すこともせずにただ「あーそう」と、簡易的な返事をした。その様に、因幡は半ば不服そうに顔をしかめるも、また立方体を見つめだした。

そんな二人の様子を見ながら、姫島は因幡の隣に移動して、同じように立方体を見つめだした。
姫島に気付くと、彼女の様子に因幡は訝しげな顔を見せる。

「……何すか先輩」
「いや、蓋が無いなら壊してみるっていうのはどうかと」
「(脳筋かこいつは……)」

すると香が「ああ、いいで〜すね」と姫島に賛同の意を見せた。確かに、それ以外に手がないのは事実だけれど、壊した後のことをこの人達は考えているんだろうか、と因幡は二人を呆れたような目で見ていた。しかし二人はそんなことに気付いているのかいないのか、それは定かではないが、やる気満々といった様子で立ち上がる。
はあ、とため息を漏らすと、ついていかないというわけにも行かず、因幡も立ち上がり、三人は役場の外へと向かっていった。


「静かにやってよね」という市沢の言葉を聞きながら。




【腕が落ちた気がする(死んだ目)】