コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: わんだーらんど いん わらび ( No.6 )
日時: 2016/08/12 07:55
名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: louOLYa3)

#4

炎天下の中に出た三人は、立方体を囲んで、それを見下ろしていた。直接日の光を受けた立方体は先程よりも眩しく、少し目線をずらせば直視もままならないほどだった。
提案した姫島はといえば、いつの間にやら片手に重たそうな棒状の——バールを手にしている。それをバトンのように手先でくるくると弄び、やる気満々といった様子で鼻歌を歌っているものだから、その様に因幡は顔をしかめた。

——暴力団のリーダー格かなんかですか、この人は。

「さぁーて、では誰から行きます?」
「私はパスです〜かね。生憎攻撃タイプではないので」

そう言って片手をひらひらと振りながら笑っている香だが、その笑顔には面倒事を回避したい、というかのような思惑もあるように思える。
この箱を壊したことによって持ち主、あるいは箱の中にいる”何か”の逆鱗にでも触れたとなれば、その矛先は当然壊した張本人へと向けられる。姫島がそれに気づいているのかいないのかは不明だが、かといって気付かせるのも面倒臭い。というか、こいつは一度痛い目を見とくべきだとすら、彼女は思っている。

「因幡さんはどうしますー?」
「……やめとく。私もそれ専門じゃないし」
「はーしょうがないですねえ。ではこの秘香ちゃんが華麗にこの箱を破壊し、財宝を手にしてみせましょう!」

ふふん、と無い胸を張って得意げに笑う姫島は、余程この立方体を壊せる自信があるのだろう。それらしい能力の持ち主で、かつ役場にいる人間の中でも上位に入るほどの戦績をあげているほどの人物ともなれば、これぐらいの自信が湧くのも当然だろうか。
そんな姫島の様子を見ながら、因幡は”やっぱり財宝目当てかい”とツッコみたい思いを抑え、ただひたすら、目の前のバールを構える上司に呆れていた。

「(やっぱり一回痛い目見てしまえ)」
「よーし、じゃあいっきますよー。姫島いっきまーす!」
「きゃー姫島先輩さんカッコイイ〜」

そう言うや否や、姫島はバールを思いきり振り上げた。誰も彼女を制止しない。むしろ約一名は、彼女の行動に声援を送っている。

刹那、姫島の周囲に旋風が起こった。


「せぇいやっ!!」

——ドゴォッッ!!!


バールが立方体に向かって振り下ろされると同時に、重い衝撃音が周囲に響き渡る。その衝撃があまりにも強かったせいか、辺りには砂埃が舞い上がり、数秒ほど視覚が奪われる。

「————ゲッホ、ゲホッ……!」
「あらら〜夏恋ちゃん大丈夫です?」

舞い上がる砂埃に因幡がむせ返ると、香が心配そうに声をかける。
”大丈夫”と返そうと因幡が薄く目を開けると、その視線の先には——


「……おおう、こいつは……」


地中へわずかにめり込んだ、無傷の立方体があった。


————————……


「うーん、どうします〜か?まさか姫島先輩さんが能力を使っても破壊できないなんて、これじゃあ誰にも破壊できないと言っているようなものじゃないです〜か」

いつも通りののんびりとした口調で、香は言った。

あれから三人は、作戦を立てようということで再び役場内へと戻っていた。市沢はいつの間にやら姿を消していたが、大方、食堂にでも行ったのだろう。
姫島は余程自信があったようで、少なからずショックを受けたようだ。若干砂まみれになっただけの立方体を睨み付けては、先程から一言も発そうとしない。

彼女の能力——死欲デストルドーは、彼女が持つ欲をあらゆる力に変える能力だ。人一倍強欲である彼女がこの能力を使って破壊できなかったものは、この立方体が初めてだった。
”財宝を手にする”という欲だけでなく、他の欲も使うべきだったか、と姫島は考える。

「んー……この手の専門家といえば、誰だろう。姫島先輩が破壊できないってことはごり押しは無理……普通に情報収集するしかないかな……」
「そうです〜ね。可能性としてはかなり強力な術が施された魔術道具マジックアイテムか、もしくは私達がまだ知りえない物質でできているか……この辺りが妥当なところですか〜ね」
「その様子だと姉さんも分からないみたいだね」
「私だって知らない事はありますよ夏恋ちゃん」

香はニッコリと、嬉しそうに笑う。
前者の魔術道具マジックアイテムというのは、この世界では珍しいが存在しない事もない。それを専門に取り扱う店もわずかではあるが存在するし、魔女、魔術師といった存在も、表に出てこないだけで少なからず存在する。
このように、ある程度現実に存在が確認されている前者ならば、まだ何らかの対処ができるかもしれない。だが問題は後者だった場合。
この場合、協力を仰ぐことのできる人物は、この世界には二、三名程しか存在しないといっても過言ではない。そのうちの一人が香なのだが、香が知らないとなれば、他方へ尋ねるほかない。

だが、その他方というのが、若干厄介な存在だった。

「……読書家に、頼む?」
「え〜、申請が面倒です〜よ。”閉鎖された森林”でしょう?」

”閉鎖された森林”という場所に、その他方の一人————読書家は、幽閉されていた。




【次回、用語解説(今更)】