コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.8 )
- 日時: 2016/08/12 08:19
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: louOLYa3)
#5
「待った」
因幡と香の結論が読書家に決まろうとしていた時、立方体を睨み付けていた姫島が口を開いた。
「わざわざ敵だった人に聞きに行くよりも、近くにいる人を使ったらどうなんですか。うちにはそれ相応の馬鹿げた能力者がわんさかいるというのに」
「……と、言いますと?」
香は興味深そうに、姫島に尋ねる。その表情はどこか挑発的で、けれどこの状況を楽しんでいるようにも見える笑み。
それを見た姫島は、ふふん、と、先程まで立方体を睨み付けていたという事実を忘れさせるように、得意げな表情を返した。自信家でもある彼女を象徴するかのような表情だ。ただし、因幡はそれを見るたびにいつも面倒くさそうに顔をしかめる。どこからこんな自信が出るんだ、と。
「まあ少々面倒な手法ですけれども」
そう切り出すと、んんっ、と咳払いを一つ。
「魔術道具なら私の能力が通用しないはずがありません。そもそもヒビが入らないほどの魔力を帯びさせることができる魔法使いなんていないんですよ、過去の事例を踏まえて。これらのことから、魔術道具である可能性を捨てるとします。
ですが、魔術道具ではない、だが何らかの術が施されている、とすればですよ。これならば無効化できるかもしれない人が何人かいるじゃないですか」
「……あー、その可能性ね……なるほどね……」
「なるほどー、盲点でしたねー」
因幡はどこか虚脱したような様子で返事をした。香も思い出したように、かといってどこかわざとらしそうに両手を合わせる。
”何らかの術が施されている=魔力を帯びている=魔術道具”と考えることが、彼女達にとって自然であり、普通であったからだ。ただ棒読みで答えた香は、姫島の言ったことに気付いていたのかもしれないが。
「でも要は、”面倒くさいから手短に済ませろ”ってことなんでしょ」
「はい」
「ちょっとは否定しろ」
こうして、三人は”役場内で立方体を破壊できそうな人”を探し回ることにしたのだった。
————————……
役場に勤めるその少女の日課は、役場の裏手にある散花食堂で餡蜜を食べることだった。それが少女の大きな幸せであり、不変的な日常。
今日もまた、少女はそれを実行しようとしていた。餡蜜が運ばれてくるのを今か今かと、恋人か友人を待つようにそわそわとしながら、けれど平然としているようにも見える姿勢で待ち構えていた。
そんな様子を見た、少女の隣に座る少年は思った。
「——ねえ、一個聞いてもいいかな」
「なんデしょうか、先輩」
「今、何杯目?」
——この子の胃袋は宇宙か何かですか、と。
頬杖をついた緑髪の少年が、薄い桃色の髪の少女に問いかける。少女は少し考えた後、首をかしげながら、いつものようにゆっくりとした口調で答えた。
「次で七杯、め……デス……?」
その時丁度、七杯目の餡蜜が運ばれてきた。少女は目を輝かせて、少年から餡蜜へと視線を移す。もはや彼のことなど眼中にないのだろう。
その様を、彼は苦虫を噛み潰したような、言いようのない苦笑いを浮かべて見ていた。
————食堂の扉が開かれたのは、少年が冷たい麦茶を飲みほした時、そして、少女が十五杯目の餡蜜を平らげようとしていた時だった。