コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: わんだーらんど いん わらび ( No.9 )
- 日時: 2016/08/12 08:28
- 名前: 燐曇 ◆qPaH7fagTg (ID: louOLYa3)
#6
「なんッでもっと早く言わねえんですかねェエエエエ!!」
役場の廊下に、姫島の声が響き渡った。
————時は約十数分前に遡る。
廊下に出た三人は、まず第一候補の”無効化できるかもしれない人”を訪ねようと、その人物が所属する「後方支援担当」と呼ばれる部隊が使用している部屋の扉を叩いた。普段は無人となっているこの部屋だが、幸いなことに今日は人がいたようで、小さな物音がした後、扉がゆっくりと開いた。
中から出てきたのは、髪飾りのような大きなアゲハ蝶が特徴的な、茶髪の少女だった。少女は因幡達を見ると、「おや、」と珍しいものでも見たかのように、わずかに目を見張る。
「随分と大所帯だねえ先輩方。どうかしたのかい」
「ああ、貴方でしたか事締さん。丁度いいです、中に入らせてもらいますよ」
三人を出迎えたのは、事締 番都(コトジメ バント)という少女だった。考古学者をしており、この「後方支援担当」の頭脳と呼ばれている。
「……急ぎの用、かい?まあ何はともあれ、入んな。茶葉は生憎切らしちまってるけどね」
事締は特に怪訝そうな素振りも見せず、三人を中に招き入れた。
部屋の中には、事締の他に二人の少女がいた。一人は白いベレー帽を被っており、もう一人は俗にいうガラケーなるものを弄っている。後者の方は三人に気付くと、事締と同様に「あら、」とわずかに目を見張った。
ベレー帽を被った少女は、事締に「お客さんだよ」と言われると、ニッコリと微笑んで三人に会釈をする。香はニッコリと、姫島と因幡は特に表情の変化は見せず、彼女に会釈を返した。
彼女こそが、この「後方支援担当」の最高責任者・小桜 小向(コザクラ コナタ)。最高責任者にしてはあまり威厳らしきものが感じられず、至って普通の、少しおとなしめの少女といった印象を受ける。
『何か御用ですか?』
直後、三人は脳内で声が響くような感覚を覚える。
だがそれに動じることなく、姫島は部屋を軽く見回した後、小桜に口を開いた。
「畔角さんを知りませんか?」
小桜は、その言葉に首を傾げる。
『穂連ちゃんに御用が?』
「……ええ。急用です」
そう言いながら、姫島は手に持っていた黒い立方体を小桜に見せる。小桜はその立方体を見ると、微笑から真剣な顔つきに変わった。
畔角という少女への急用と、この立方体。そこから導き出される事は、畔角をよく知るこの少女ならば容易に思い浮かべることができた。
『この時間なら、食堂にいると思います。しばらくはそこにいるでしょうから、今から行っても間に合うかと』
「……なるほど、ありがとうございます」
三人の次なる行先は、食堂となった。
「で、なんであんたがいるんですかねェ」
「え〜、だって先輩方だけで押し寄せちゃったら、穂連ちゃん怖がっちゃうかな〜って思ったんですよぉ」
いやいや後輩もいるんですけど、と因幡は同行者を見ながら思ったが、特に口には出さなかった。この人物がどうにも苦手だったからだ。
日差しが差し込む廊下を歩いている三人についてきたのは、先程の「後方支援担当」と呼ばれる部隊が使用している部屋にいた、ガラケーを弄っていた少女・十 愛聖(ツナシ アイセ)だった。少女はハートが浮かぶ瞳をキラキラと輝かせながら、姫島の隣を歩く。
すると、十の言葉を聞いた香が「ふふ、」と微かに笑った。
「あらあら十さん、貴方が畔角さんにそんな気遣いをするとは到底思えないのです〜が」
「え〜、香先輩酷いですぅ……まあ当たってますけれどね」
きひひ、と十は悪戯っぽく笑う。その様子に、姫島が顔をしかめた。
「貴方の目的は、畔角さんと一緒にいる方です〜よね?というか、それ以外に有り得ないと思うのですが」
「あーん、やっぱり恋する乙女同士では分かり合ってしまうのですね……ッ!」
「誰が恋する乙女ですか」
香はニッコリと笑ってはいるが、周りに漂う空気はどうにも穏やかではない。
因幡はというと、最早会話に耳を傾けることもしていないようで、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
と、ここで姫島はあることに気付いた。
「……香さん、なんか、貴方まるで畔角さんと一緒に誰かがいる事を知っているような口ぶりでしたね、今の」
「ええ、知ってますよ」
サラリ、と香は特に臆することもなく述べる。
「あれ、じゃあもしかしてー、そもそも穂連ちゃんが食堂にいるってことも知ってたり?」
「勿論、知ってましたけれど」
「なんッでもっと早く言わねえんですかねェエエエエ!!」
役場の廊下に、姫島の声が響き渡った。
「え〜だって聞かれませんでしたし〜」
「聞かれなくてもそこは普通答えなさいよ!!ああくそっ、そういえばなんで私も思いつかなかったッ……!!」
「きゃっはははは!!!姫島先輩、ねえ今どんな気持ちですッ!?わざわざうちに来るっていう手間をかけた事についてどんな気持ちですぅッ!!?」
「うるせェエエエ!!!」
「(……あ、蝶が逃げた)」
後ろの三人の様子を、因幡が見ることはなかった。