コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

観覧車。短編集】ssにて300突破さんきゅ&謎解き実施中 ( No.15 )
日時: 2016/03/09 17:49
名前: 湯呑ゆざめ@告白エピをネタにしたい← (ID: HT/LCIMm)

≫涙うつるる


鼻をくん、とすれば海辺独特の香りが朝の飄々とした風に混じって
初夏を連れてきた。

私はベッドから起き上がり、空いた窓から顔を覗かせた。

そこには、新聞配達のお兄さんがいた。高1の私とさして歳はかわらぬ
容姿をしている、一年前くらいから彼を見るのが日課。
ひっそりと恋をしているのだ。
いつもならてきぱきとしているのに、なぜだか今日は足取りがほんの
少し重そうだった。おそらく晴れになるであろう爽やかな空には、いっそ不釣り合いなほどに。その時、新聞を入れた後彼はふと上を見上げる

風で煽られた長い私の髪がなびく。
彼は細い声で「ひかり」とで誰かの名前を呟く。無論私ではない。
でも、人違いだと気づいた彼の目は奥が見えない深淵のように深くて
夜空のように澄んでいて、それでもって鏡のようでそこには透明な滴がたまっていた。
呆然と動けずにいる私を置いて、映画のスローモーションのように彼は
一言「さよなら」と言って立ち去った。

窓から、流れ込んだ風はいつのまにか伝い落ちた涙にしみて、庭のなつみかんの甘酸っぱいにおいが鼻孔をくすぐり身体を包み込んだ。

まるで、それは恋のようでした。
あの日の日記には最後にそう綴ってあった。


end